第19話 アンネリーゼとクッキー②
ギルマスのフランクさんは、私の顔を見るとすぐに奥に入れてくれた。
扉の奥に入って、ようやくフェルがローブを脱ぐ。
「おお、やっぱりフェルか。いいローブだな。顔が見えなかったぞ」
え? そうなの?
私には普通に見えてたから、作り手はノーカンなのだろうか。
「それで、匂い消しポーションは作れたかい?」
「はい、60本あります」
「60本!」
フランクさんは、待ちかねてたみたい。
いそいそと鑑定道具を出してくる。
「ランクEか。持続時間は一時間くらいか?」
「効き目は二時間だそうです。鑑定で……」
もごもご。
フェルに口を塞がれて、私は自分がやらかしたことに気づく。
ギルマスのフランクさんですら道具を使って鑑定してるんだ。
鑑定のスキルは、けっこう珍しいに違いない。
「ま、まさか鑑定スキルがあるのか? お嬢ちゃん」
「まさか……その、ええと」
嘘が苦手なので、たぶん今めっちゃ顔に出てる。
フェルが、深いため息をついた。
「ここだけの秘密にしてもらえるか? フランクさんの権限で」
「ああ」
私とフェルは、同時に頷いた。
ギルマスならば、口は堅いはずだ。
私が使徒であることも、この際言っておいた方がいいかもしれない。
「フェル……話そうと思うんだけど」
「フランクさんならいいんじゃないか? それに、それって本来は別に隠すもんじゃないしな」
そうなんだよね。
使徒って隠したいのは、気恥しいのとフェルが目立たない為だけ。
「実は、私は命の神のエヴァリディアス様の使徒なんです」
「ああ、なるほど!」
何故かギルマスの顔が明るくなる。
使徒だと、鑑定持ってても普通なのかな。
「つまり、ご家族がいらっしゃらないで、鑑定も神様からのお力で?」
「はい、強いて言えば今の家族はフェルです」
フランクさんは、汗をひとしきり拭いた。
なんか、迷惑をかけてるみたいで申し訳ないね。
「鑑定持ちの子供が出てくると、いろんな圧力がかけられて、家族ごと囲おうとするものが現れますが、相手が使徒さまならそんなことは出来ないでしょうし、扱いによっては神罰があります。使徒さまなら問題ないでしょう。もし、この先も鑑定スキルを明かすことがあれば、使徒さまだと先にお話しするようにしてください」
フランクさん、ギルマスなのにすっかり敬語になっている。
やっぱり使徒って、偉い立場になるんだね。
しかも、神罰なんて知らなかったよー!
「フランクさん、そんな丁寧にしなくていいです。ただの八歳の子供だと思ってください」
「そうですか……? そうか……、しかし、いやはや」
お茶を出そうとするフランクさんの手元が、動揺している。
コップだけをむんずと掴んだフェルが、水筒からお茶を三人分いれた。
「まあ、落ち着いてくれよ。これ飲んだら買い取りしてくれ」
「あ、ああ……」
フェルの顔は笑いをこらえている。
なんだろう……。
「フランクさん、ちなみにマジックバッグっていくらしますか?」
「マジックバッグですか……あれは中に入るサイズで値段が変わるよ。一番小さいもので、金貨1枚。入るのは馬車一台分ってとこですかな。金貨2枚になると、ほろ馬車2,5台分くらいかな。金貨5枚以上になると、めったに出回りませんが、そうとう入るそうです。王都なら売ってるはずだ」
フランクさんの言葉は、敬語と普通のしゃべりがいったりきたりしてる。
そんなに衝撃を与えてしまったのか。
「アンネリーゼはどのサイズがいいんだ?」
うーん、金貨1枚分でも庶民のひとなら引越しできちゃうよね?
でも、この先に何個もバッグを抱えるわけにはいかない。
旅をするなら、いろんなものをもっていかなきゃいけないし、出来れば大きいほうがいいよね。
「金貨2枚かなぁ……この先を考えると」
「オレもそう思う」
良かった、そんな変な発想じゃなかったみたい。
すると、お茶に手をつけたフランクさんが大声を出した。
「なんですか、このお茶は!? こんなおいしいもの、飲んだことがありません。冒険者時代も、色んなものは飲んできたが、どんな銘茶です!? いや、これは水の問題か……?」
「それが、茶葉自体はそう高くないんだな~。これはアンネリーゼの生活魔法の流水のおかげなんだ」
自慢そうに、フェルがニヤニヤする。
確かに、前淹れてもらったお茶の水分を考えると、衝撃かもしれない。
「嬢ちゃん……いや、アンネリーゼさま、この水を売ってもらえませんか?」
「え??」
まさか、買うほど……?
「ええ、別にいいですけど……」
「少しお待ちください!!」
ポーションの清算は、遠ざかっていった。
フランクさんは、扉をあけて飛び出していく。
ドアの向こうから「さっきの大声はなんだったんすか、ギルマス」という声もした。
「フェル、まさか狙ってた?」
「アンネリーゼが今日、使徒の話をするとは思ってなかったけど、狙ってたよ。だからお茶か水は絶対持ち歩こうと思ってたんだぜ」
フェルのほうが商人として才能がありそう。
二人でお茶を飲みながら話していると、フランクさんが埃をかぶった大きな水がめを運んできた。
さすが、マッチョのひと。
「こ、この水がめをいっぱいにしてくれないか?」
フランクさんが浄化をすると、水がめは綺麗になった。
冒険者ギルドの倉庫にでもあったのかな?
「ここでいっぱいにすると、動かせない気がしますけど」
「ああ、身体強化があるから心配はいらない」
そうか、ここでも身体強化。
冒険者だと、大体が持ってるスキルなのかな?
「じゃあ、ここに流水を……」
「アンネリーゼ待った、フランクさんはこの水がめ満タンにして幾ら払ってくれるんだ?」
「俺のへそくりからだから、大銅貨1枚で……」
「いやいや。この水はアンネリーゼしか出せないんだぜ? しかも何回お茶にしても余るし、料理もたくさんできるサイズだ。使徒さまの水はそんなに安いのかよ。さっきも言った通り、アンネリーゼは金貨2枚を貯めないといけない」
うーんとフランクさんが唸りだす。
フェル、ふっかけようとしてない?
ただの生活魔法だよ……錬金術でもないし。
「一回、大銅貨3枚! その代わり、ギルドにきてくれたときには毎回頼む!」
「まあ、いいか……アンネリーゼ、いれてやって」
ギルマス相手に、すごいふっかけたね。
フェルから、関西人の波動を感じたよ。
私は、水がめのすれすれまで流水をする。
いつもの鍋を満たしているのと、感覚は変わらない。
「ありがとう、ありがとう! 持って帰って女房と子供にも飲ませてやらんとな」
「じゃあ、あとはポーションの買い取りで」
「ああ、そうだったな……」
フランクさんは、銅貨8枚でポーション10本。魔力ポーション20本。匂い消しポーションは大銅貨1枚ずつで60本買い取ってくれた。
流水の値段、大銅貨3枚も入れると銀貨8枚と大銅貨7枚。
残金を入れると、大銀貨1枚と大銅貨7枚だ。
うん、金貨3枚は夢じゃないかも!
「あと、約束した甘いものなんですけど」
「うん? ああ、クッキーとか言ってたな」
「すんごいうまいから、びっくりするぞ。あと、オレが仕留めたフェザーバードの羽毛10体分と、ネクターラビットの皮を2枚がある」
売り物を減らしたくないので、包装しなかった分のクッキーを2枚フランクさんに渡す。
フェルは、テーブルに空間収納から羽毛と毛皮を取り出した。
「ふうむ、これは……! サクサクしてるのに、くちどけが甘いな……! 飽きがこないうま味と、お茶にしこたま相性がいい。紅茶だとなおいいだろうな」
「売れそうですか? 今回10袋用意したんですけど」
「紙袋!? 瓶づめじゃないのか……コストが高そうだな。これからお貴族や権力者に出すにも不足はない……」
そうか、この世界は魔石でポーション瓶が作れる。
紙じゃなくてよかったんだ……。
これなら、紙を買って帰るより、新しい瓶作成魔導具を買う方が早いかも。
エヴァリディアス様にもらったけど、帰りに魔導具を買おう。
「フェザーバードの羽毛は全部で銅貨3枚。ネクターラビットも傷がほとんどないな。こっちは二つで大銅貨1枚だ。このクッキーは……ううむ。高級品だし、一旦買い取りは3袋でいいか? 一袋大銅貨4枚にしておくが、甘いものにそれだけ出すギルド職員がいるか分からん」
そうか、おやつにしては高級すぎたってことかな。
材料は多いし、紙袋も本来は高いから。
「いいぜ。あとのはオレの空間収納にいれとくから、劣化しないしな。あとでまた追加で買い取ってくれ」
ってことは、金貨1枚、銀貨1枚、大銅貨9枚、銅貨9枚!?
いきなりお金持ちになってきた……!
「いま、上級冒険者たちが大きな狩場を見つけてな。王都へいく道にも、凶暴な魔物が出てる。匂い消しポーションはしばらくたくさん卸してほしい。なにせ、魔物の量が多くて食事も出来ない有様でな」
「煮炊きすると匂いがするからですか?」
「いや、ポーションと魔力ポーションで回復しながらずっと戦い通しなんだよ。この街の上級者の冒険者は、仮眠しては交代交代でずっと戦ってるんだ。食べる暇はほとんどなくてな」
うわぁ、大変そう。辛すぎる。
冒険者って、上のランクにいくほどブラック企業みたいだね。
私は、スマホを取り出した。なんかいいものはないだろうか。
タップしていくと、栄養満腹ポーションというものが出てきた。
腰痛ポーションとか頭痛ポーションとかもあるけど、冒険者には関係ないかな。
フランクさんは、目を閉じてみなかったようにしてくれていた。
……前触れなく出してごめんなさい。
「あの、エヴァリディアス様のレシピに栄養満腹ポーションっていうのがあるんですけど」
「栄養満腹ポーション!? 上級薬師でもめったに作れないものだ! さすが神の錬金術師ですな! もし作っていただけるのなら、一個大銅貨2枚でお願いします」
「材料はあると思います。出来たら、すぐに届けますね」
お茶を飲み干したフェルが、さっと手をだした。
「急いでるなら、オレが出来立てを走ってとどける。ローブがあるから簡単だ」
「そうか、それは助かる!」
今も、飢えながら戦ってる人がいるんだもんね。
瓶の魔導具はあとにして、すぐに作らなきゃ。
お金をフェルがしまって、私たちは裏口から走ってでた。
急げ、急げ。
魔物からこの街を守ってくれている人たちの空腹を、私がなんとかするんだ……!




