第17話 アンネリーゼ、解体する。
「うわ~、血なまぐさい……」
羽毛を全部むしると、フェザーバードはほんとに骨ガラだった。
うすーい一口。
スープで煮込む以外、使い方を見いだせない薄さ。
「でも、アンネリーゼの手つきはけっこう手慣れてたな」
「そう? 少しは前にやったことがあるからね」
フェルにやり方を一回教わった私は、残りもさばいてしまった。
「あ、骨は出汁になるから捨てないでね!」
「骨? 煮込むのか?」
十体分合わせても、全然少ないけどこれはコンソメになるからね。
売るほどは無理だけど、我が家の台所は向上するから。
「錬金術で、ダシに出来るからね。……ね、フェル。この小さな石はなに?」
「魔石だよ。魔物には必ずサイズが違っても入ってるぞ」
体全体に浄化をかけてから、親指の爪ほどの小さな魔石を覗き込んだ。
これが、ポーション瓶生成の魔導具に使えるのかぁ。
でも、この小ささ。魔石一個で瓶一つできればいい感じ?
ネクターラビットからは、もう少し大き目な魔石がとれた。
フェザーバードと比べると、親指一本分くらいの魔石だ。
これなら、何本かとれそう?
「ポーション瓶生成の魔導具のためにも、魔石は必須だね……」
「肉も手に入るし、上等だろ。倒してくるのはオレとコハクさまに任せろ!」
おお、頼もしい。
エヴァリディアス様は戦わなくていいって言ったけど、ほんとに必要ないみたい。
なんか、危険にさらしてるみたいで心配だけどね。
「いいか、アンネリーゼ。オレは元々冒険者だ。身体強化も使えるし、ちょっぴり魔法も使える。コハクさまに至っては三種類以上の魔法が使えるから、全然危険じゃないぜ。そんな顔するなよ」
私ってば、顔に出すぎてたみたい。
フェルが、私の頬をむいむいと揉む。
「オレだってアンネリーゼに会う前は一人で戦ってたんだ。大丈夫だよ」
「うう、わかった」
待って、そういえば私にも身体強化は持ってたはず。
「フェル、私も身体強化持ってるよ」
「お。だと使いこなせば素手で岩くらい崩せるぜ」
ええっ、身体強化強すぎない??
せいぜい、ちょっと腕力が増すもんだと思ってた。
「足につかえば、冒険者ギルドまでなんてすぐだぞ。使いこなせば全身強化できるしな」
魔力を足に……足に……。
魔力の感覚はだいぶわかるようになってきたけど、全然足にいかない。
「アンネリーゼはステータス見れるんだよな? 錬金術たくさん使って、まだ魔力あるのか?」
「あ……そうだ、すっからかんにしたんだ!」
使えなくて当たり前だ。
自分で分かっててカラにしたんだもん。
「あれ、でもさっき浄化はできたよ」
「少しは回復してたんじゃないか? 生活魔法はそんな魔力がいらないのもあるけど……今日のアンネリーゼは、生活魔法はコハクさまにやってもらったほうがいい。魔力欠乏症になると怖いぞ」
なにか、怖い病気かな、それは……。
でも、魔力だって一時間ごとに少しずつ回復するのかもしれない。
スマホの時計と、ステータスの魔力を小刻みに確認することにしよう。
「夕飯、何にしようか」
フェルが二体目のネクターラビットをさばくのを見ながら、聞いてみた。
スマホのレシピをパラパラ見ているが、どれも材料が足りてない。
「そりゃ、やっぱ肉だな」
育ち盛りの男子から、なんの参考にもならない意見がきた。
そりゃあ、お肉っていうと思ってたよ?
問題はどんな料理にするかってことなんだよね。
冷蔵庫の中のものを思い出しながら、メニューを考える。
バターに牛乳に小麦粉……。あ! シチューならいけそう。
ホワイトシチューでいいかな、うさぎ肉の味は想像できないけど。
でも、小麦粉をまぶして先に軽く焼いたらぱりぱりになるよね。
パン……を作る魔力はないから、またご飯炊こう。
ご飯のっけシチューでもいいしね。
サイドメニューは、やっぱりサラダ?
野菜畑に行くと、なすやトマト、ブロッコリーと季節感なしに植わっている。
卵とマヨネーズがあるし、シチューにはやっぱりブロッコリーかな。
ナイフでブロッコリーを採っていくと、最初にカットしたブロッコリーが再生してくるのを目撃してしまった。
凄すぎない? 異世界常識じゃないよね……?
薬草畑に行っても、あんなに取ったティニーの葉も再生してる。
「フェル、野菜がとったそばから再生するのなんで!?」
「え? マジかよ! どうなってんだ?」
フェルもわからないのかー。
と、いうことは異世界の常識じゃないね。
考えればわかるのに……そんなに収穫できるんなら農家さん苦労しないよね。
「コハク――! 畑が再生してるのってなんで?」
『えー、さっきボクが魔力を流したからだよ?』
当たり前そうに言われてしまった。
ブロッコリーをキッチンに置いて、毛並みを整えてるコハクを見る。
「魔力を流すと、再生するものなの?」
『ここはエヴァリディアス様が作ったものだよ? 使徒のアンネリーゼや聖獣のボクの魔力に反応するのは当たり前さ。アンネリーゼが魔力なさそうだったから、しばらくはボクが定期的に回復させておくよ』
「そうなんだ……ありがとう」
『ボクがいない事態はないと思うけど……あとはポーションかけてみるのもいいかもね。アンネリーゼの魔力が入ってるし』
なるほど……。
つまり、今後も野菜と薬草には困らないってことね。
『あとは、さっき食料調達のときにフェルがアキネの花とアグーレをとってきたのは、ボクの空間収納に入ってるから言ってね』
フェルがマジで万能すぎる。
私みたいななんちゃって八歳児と比べて、フェルは正真正銘の十歳のはずなんだけどな。
「コハクの空間収納って、まだまだ入るの?」
『そりゃあ聖獣だもん、この何倍入れても余裕だね!』
頼りになります、コハクさま……。
浄化で綺麗になったフェルが、家の中に入ってくる。
今日の夜は、すこし肌がひんやりする……。
「寒いか? 薪入れるよ」
「フェルってなにもの!?」
「ただの一般人だけど……」
嘘だー! 中におかあさんやおとうさんが絶対入ってる!
そうじゃなきゃ、十歳のスパダリだよぉ。
フェルは、キッチンに一口肉と、うさぎ肉、魔石を置いて薪を取りに行った。
入り口とは反対方向に薪が積みあがってたから、それを取ってくるのかな?
「じゃあ、今のうちにご飯作り始めるかな」
カレーで、三合のご飯がなくなったから、また三合炊こう。
明日はパンを錬成して、フレンチトーストにしようかな。
お米を洗っていると、重たそうな薪のたばを運び込んできたフェルが、薪ストーブに薪をくべはじめる。
「発火!」
フェルの指先から火がでて、たちまち薪に広がっていく。
これも生活魔法だよね。
便利だなぁ。
お米を給水させている間に……。じゃがいも、人参、玉ねぎを皮むきしてカット。皮と骨で今度はブイヨンもできるかも? 捨てずに、コハクに収納してもらおう。
今日とれたお肉に塩コショウをして、小麦粉をまぶす。そしてフライパンで両面を焼く。
結局煮るから、火が通ってなくてもよし。
コンソメがあればいいんだけど、今日は肉のうまみで勝負!
ローリエもないから、炒めた野菜に流水を入れて肉も投入。あくを取りつつ……。
「なあ、アンネリーゼ。なにか手伝うぜ?」
「フェルはもう座ってて~充分働いてるよー!」
「ポーション飲んだおかげで、まだ元気だよ」
それってポーションのお陰なのかな?
フェルって超人だよ。
フェルには、コハクのブラッシングを押し付けて私はホワイトソースの準備。
フライパンに小麦粉を入れて……だまにならないように牛乳を注ぐ。
バターと塩コショウをいれて、弱火でまぜて。
もったりとしてきたら、火を消してあくとりしている大鍋に入れる。
まぜまぜしつつ、別の鍋に流水を沸かして卵とブロッコリーを茹でて。
『ごくらく、ごくらく~』
気持ちよさそうなコハクの声を聞きながら、卵は固ゆで。
ブロッコリーが煮えるまでに茹でた卵のからを剝いて、包丁で刻んだとこにマヨネーズとコショウであえる。
これで、ゆでたブロッコリーを混ぜればブロッコリーの卵マヨネーズサラダの出来上がり。
なるべくてきぱき作業したつもりなんだけど、もう四十分は立っている。
慌てて魔導炊飯器のスイッチを押して、炊飯開始!
途中、コハクにお風呂をせかされてフェルに鍋を任せてお風呂に入ってきたりしてから私たちは早めの夕飯になった。
食の神様に、祈りをささげてからスプーンを持つ。
私がご飯の器にシチューをかけたらフェルはびっくりしたけど、すぐに自分もご飯にかけ始めた。
コハクに至っては、深いお皿だと食べにくいのでカレー皿状態だ。
「は~アンネリーゼに会ってからは、毎日うまいもんが食えるなー。ネクターラビットの肉が、こんなに肉汁たっぷりになるなんて……。サラダもすっげえうまいし、こんな食べ方したことねえな」
「そう? でも、我ながらうまくいったと思う」
『アンネリーゼの聖獣で良かったー!』
それは、コハクの褒めすぎだと思う。
食後、私はおそるおそる失敗したアグーレべとべとクッキーを出してみた。
たべものを捨てるわけにもいかないし……。
「へえぇ、アグーレのクッキーか。サクサクのクッキーもうまかったけど、これも充分うまいよ」
『しっとりクッキーなんて、初めてだー』
しっとりしてるのは、失敗です~ごめんねー。
「な、サクサククッキーは売るんだろ? こっちのクッキーはオレたち用に残しておいてくれよ」
「いいけど、失敗作だよー」
「アンネリーゼは知らないと思うけど、孤児院じゃ甘いものなんてたまにフルーツしか出てこないんだからな。これだって充分オレからしたらぜいたく品なんだ」
う、そうか……。
フェルからしたら、ごちそうになるんだね、これも。
百枚くらいあって、罪悪感に打ちのめされそうだったけどフェルのお陰で安心した。
「そ、そうだ。コハク。エヴァリディアス様への今日のご褒美! おねがいしていい?」
『ノルマ達成したなら、もらおうよー。使徒の特権なんだからー』
「使徒の特権? なんだそれ」
フェルには分からないよね。
コハクを介して、やることリストを終わらせるとささやかな品が貰えるんだと説明すると、フェルは驚いていた。
「やることは大変だけど、ご褒美もあるのはいいな」
「そうなのー。ホントはフェルにカップ焼きそばを味わってほしかったんだけどねー」
そう、どうせならジャンク――じゃない、異世界フードを味わってもらおうかとも思ってたんだけどねー。
後日で! ごめんね!
「いいよ。だって、オレはこの先もアンネリーゼにくっついてくからな。かっぷなんとかも、いつかでいいさ」
こうして、エヴァリディアス様におねだりをして私はお菓子袋を百枚ゲットしたのだった。
異世界生活二日目。
忙しくも、今日も一日たくさん動いたな。
いい夢見れそう。
明日も、忙しいぞー!
一日一日が、こうして楽しい。
エヴァリディアス様に感謝だね。




