第16話 アンネリーゼの錬金術
お腹休みを取ると、フェルは水筒に私の流水の水を入れてコハクと出かけて行った。
フェザーバードをたくさん取るらしい。
私は、まずはローブの作成だ。
「レシピはあるけど、チュートリアルがないんだよね……」
コハクは、いつも想像力でとかイメージでっていうから。
まずはやるだけやってみる!
濃いグレーの布を、錬金窯の中に入れる。
作りたいのは、魔導士みたいなローブ。
フェルが、怪しい追っ手から隠れられるローブ。
「――我が元に具現化せよ! 再構築」
フェルのことを意識しながら、魔力を注ぐ。
出来たものは、想像通りの魔導士ローブ。
若干、色も濃いグレーも黒よりになった。
試しに私が被ってみたら、視界が消えてしまった。
やっぱりブカブカかー。
”魔導士ローブ:隠蔽スキル付き。ただし脱ぐと効果はなくなる。”
なんか、付与されてる!?
追っ手から隠れられるように、って願ったのが良かったのかな。
一旦脱いで、畳んで椅子の上におく。
フェルなら、そこまでブカブカじゃないよね。
「次いくよー!」
一人で淡々と作業するのが嫌で、ひとり言だけど声に出してみる。
お次は匂い消しポーションだね。
匂い消しポーションの材料は、魔力水、アグーレの皮、ティニーの葉、だよね。
薬草畑にかごを持って出ると、鑑定でティニーの葉を探す。
少しギザギザの葉っぱが、ティニーの葉だった。
量が分からないなぁ……。
アグーレの皮を基準にして、足りなかったらまたとりにこよ。
錬金窯に入れていくと、レシピに足りない素材が点滅するんだよね。
ドサドサ入れていくと、途中でアグーレの皮が足りなくなる。
ふむ、減らすか。
採ったティニーの葉の残りは、あとでコハクが帰ったら空間収納に入れてもらおう。
フェルは買い出しするもんね。
そう思うと、ますますマジックバッグが欲しくなるなぁ。
いくらなのか分からないから、明日の冒険者ギルドの帰り道に値段だけ見にいきたいなぁ。
「――我が元に具現化せよ! 再構築」
ぱあっという錬金術の光には、そろそろ慣れてきた。
今度のポーションは黄緑色をしている。
”ポーション:ランクE。魔物に匂いを探知されなくなる。効果は二時間。美”
おのれ……出たな、美!!
美ってなんなんのよぉ~!
早く鑑定さん育たないかなぁ……。
今のところポーションを飲んでも、何も変化はないけど……。
ううん、でも、美って悪いイメージじゃないよね……?
そんなことを考えながら、ポーションを瓶に詰めていく。
入ったのはおよそ40本。もしこれが大銅貨1枚で売れたら、明日は銀貨4枚!
ステータスを確認すると、私の魔力はあと二回錬成したら使い切ってしまう。
「どうしようかな……」
魔力ポーションを作る?
それとも、甘いものを作る?
明日の午前中もあるけど……。
うーん、ここは夜のデザートの為に甘いものを作りますか……!
一キロの半分の小麦粉をメインに、レシピの点滅を確認しながら卵、牛乳、砂糖を入れていく。
一リットルの牛乳は、瓶の重みもあって一人ではもちあげられなかった。
なので、ボウルに入れては錬金窯に小刻みに運んだもんね。
まずは、王道のクッキー。
プレーンなやつね。
錬金窯を見下ろした私は、視界に皮を剥かれたアグーレの中身が入ってきた。
はちみつとゆずとオレンジの味のアグーレ……これって、クッキーに入っててもおいしい、よね……?
ええい、やっちゃえ。
サクサクというよりは、しっとりとしてアグーレの実がアクセントになってるクッキーを想像して……!
「――我が元に具現化せよ! 再構築」
うん、見た目は想像とおりだ。
ブレーンのクッキーに、チョコチップのようにアグーレが練りこまれている。
一個だけ味見を……。
「う……べっしょりしてる……」
そうか、レシピ通りだと水分が多すぎるんだ。
牛乳を減らさなきゃいけないんだな、多分。
味はいいんだけど、これじゃ商品にならないよね……。
しっとりというよりベトベトクッキー。
うーん失敗失敗。
最初はレシピ通りにしなきゃダメか……。
でも、マドレーヌもプレーンよりはアグーレ入りのほうがおいしいと思う。
試せるのは一回だけ。
「どうする私……」
さっきカレーをおいしいおいしいと喜んで食べてたフェルとコハクの顔が浮かぶ。
……よし、決めた。
錬金窯に、同じ量の材料をいれて錬成する。イメージはおねえちゃんのクッキーだ。
今度は、まぎれもなくさくさくのクッキーだった。
一枚、口に入れるとサクサクしながらくちどけが甘い。
なんとなく、前世で食べたクッキーよりおいしい気がするけど、その辺は自画自賛だね。
バターを足したら、バタークッキーだなぁ……う、でもやめとこう。
魔力に余力があるときにしよ……。
それにしても、このクッキーの量はすごい。
ざっと見100枚くらいあるんじゃない?
何か包みが必要だな……。
錬金術で何か作ろうと思っても、魔力切れ。
――そうだ、今日はエヴァリディアス様のToÐoリストをこなしてる。
ご褒美に包み袋を貰おう。
次回は、こういうことがないようにしないと。
多分、今回の痛手は想像魔法のドレッシングだと思う。
今はまだ残ってるけど、次回からはちゃんと自作しよう。
すぐには魔力も増えないもんね。
想像魔法は、ほんと切り札で。
「クッキーっていっても、種類があるよね」
冒険者ギルドに持って行っても、こんなの屋台で買えるわ! って言われるかもしれない。
アイシングクッキーは、量産は難しい。
アイシングの材料を作るだけで、何段階も錬成しなきゃならなくなる。
ジャムサンドクッキーは――待って! アグーレの実が失敗したのそれだ! アグーレはジャムにしていれなきゃダメだったんだ! また匂い消しポーションを頼まれたら、そうしてみよう。
型抜きしたクッキーにキャンディを入れる、ステンドグラスクッキーも先にキャンディを作ればいいよね。キャンディはレシピにあった、解決! アグーレ以外の味付けも欲しいかな。
卵白を使うクッキーもあったよね。
メレンゲクッキーとか、ラングドシャとか。
お菓子の中では、クッキーは日持ちもするし。他のみんなは普通の空間収納も持ってるし。
毎日色んなものを持っていったら、喜ばれるかな。
あれ、でもメレンゲクッキーとかのレシピはない……。
アグーレのジャムでジャムサンドクッキーが成功しても、分量メモしないといけないかな?
ちょっとコハクがいないので、エヴァリディアス様に聞いてみよう。
チャット欄をあけて……エヴァリディアス様、オリジナルレシピはどこにメモすればいいですか? っと。
〈元気にしてるなーーーアンネリーゼ! 他の神にも祈るとは、神界では評判がいいぞ~! そうそう、レシピのことだが、オリジナルで成功したものはレシピにそのまま登録されるからメモしなくっていいんだぜ~!〉
エヴァリディアス様は、まだフリック入力がまだなんだね。
言葉の最後に、じゃーーん! とギター音を鳴らしてエヴァリディアス様は勝手に通話を切った。
コハクが自由すぎるのは、けっこうエヴァリディアス様のせいだと思うよ。
でも、これでメレンゲクッキーなりジャムサンドクッキーなり、成功すればレシピに乗るのね。
自動登録は助かるなあ。
「ただいまー! フェザーバードは大量だぞ! それに、コハクさまがネクターラビットもしとめたぜ!」
元気のいいフェルの声がして、玄関がバンと開く。
良かった、変な追っ手とは出くわさなかったのね。
「どれどれ?」
覗き込むと、ふわふわの白い……鳥?
大きな綿毛みたい。
恐る恐る触ったけど、ほぼ羽毛……。食べるとこ、あるのかな。
「フェザーバードなら、食べられるのは一口くらいだな。まあ、メインは羽だから」
『アンネリーゼ、ボクも褒めてー! ネクターラビットはおいしいんだよー!』
「コハクも、フェルも偉い! お疲れ様」
血抜きのまえに、羽全部むしってくる、と言って外に引き返そうとするフェルの袖を、とっさに掴んだ。
「ちょっと待って。これ一個食べてみて」
慌てて錬金窯いっぱいのクッキーを――失敗してないやつを――を一枚とってくる。
そのままフェルの口にいれようと思ったのに、フェルは口を開かない。
「フェル、今はフェザーバードを手にいっぱい持ってるでしょ? 口開けて」
「……なんかガキみたいなんだけど」
「そんなことないから! 働いて来たご褒美だから!」
フェルは渋々と、膝をまげて口をあけた。
この年頃には、恥ずかしかったかな?
でも、羽毛が売りのフェザーバードを放り出すわけにいかないよね。
「はい、あーん」
「ん、ありがとな……なんだこれ、凄いうまいぞ! きぞ……よそで食べたクッキーと全然違う!サクサク具合が別物っていうか、後味が上品だ! これも、前の世界の知識なのか!?」
『ずるーい、ボクも欲しいー!』
はいはい、とコハクの分も持って行きながら、私はさっきのフェルの言葉をしっかり聞いてしまった。
貴族、っていいかけたよね。
貴族にクッキーを出された経験があるのかぁ。
「あ、待って。私も解体する。錬金術はもう魔力がないし」
「汚れるし、臭いぞ……。アンネリーゼはやらなくてもいいんだぞ」
ふっふっふ、北海道の鹿の解体の手伝いは何度もしてるもんね。
汚れ仕事を、フェルだけに任せるわけにはいかない。
フェザーバードだけでも、十体はいるもんね。
「やるやる。お嬢様じゃないんだから」
「いいのかなぁ、使徒さまをこんなにワイルドにして……」
『アンネリーゼ、ボクはお風呂わかしておいてあげる~』
コハクは、なんかうまいこと逃れた気もするけど……。
コハクの爪じゃあ、ナイフは握れないもんね。
「コハク、よろしくね~」
さて、フェザーバードとネクターラビットの解体を頑張るよ。
どんな経験も、無駄にならないからね。
異世界経験値、どんどんあげちゃおう!




