第14話 アンネリーゼ、初のギルド③
また知らない単語が出てきた。
初めての冒険者ギルドで、少し立ちすくむ。
ポーション瓶生成の魔導具と言われても、分からない。
錬金窯の側に、そんなものはなかったと思うけど……。
ただ、ポーション用の入れ物がずらっと並んでただけで。
あれはエヴァリディアス様のおまけだったのかも……!
「ポーション瓶生成の魔導具ってないと困ります、よね……?」
「ん? んじゃ、このポーションの瓶はどっから買った? 瓶だけ買うより、ポーション瓶生成の魔導具を買ったほうが安上がりだぞ」
まさか、神様が用意してくれたとは言えないな……。
まだあと何十本とあるけど、このペースで作るなら確かにあったほうがいいよね。
「フランクさん、それっていくらすんの?」
フェルのほうが、現実的ですぐに値段を聞いてくれた。
「さすがに露店にはないが、商店の方で大銅貨8枚くらいで買えたはずだぞ。魔石は別料金だな」
「魔石は小さいのでもいいのか?」
「ああ、たいそうな魔導具でもないし、小さいので足りるだろうな」
「分かった、ありがとな」
私には何が何だかわからないけど、フェルは分かったらしい。
ここであれこれ聞くと、私の知識が足りてないことがバレてしまう……。
あとで、フェルに聞こうっと。
「気をつけろよ、フェル。お前を探してた連中、ねちっこそうだったからな。当分は、ここの部屋で買い取りするぞ」
「助かる。よく気を付けるよ」
フランクさんも、フェルを探してる追っ手の正体を知らないんだ……。
でも、フェルのほうを信じてるし、フェルがフランクさんの信頼に足りてるってことだよね。
なおさら、私はこっそり鑑定はしたくないな。
フェルが私を信じて話してくれるまで、待とう。
「じゃあ、匂い消しポーション期待してるぞ」
フランクさんはそう言って、裏の出口から私とフェルを出してくれた。
「あの部屋は、高価な取り引きや貴族なんかと取り引きするときに使う部屋なんだ。フランクさんに貸し作っちまったな……」
ぽつりとフェルが呟いて、慌てて私の手を握る。
また、視線が周囲を探っていた。
「アンネリーゼ、カレールー以外に必要なもんはなんだ?」
「卵と、牛乳かな」
「よし、それは全部露店で買えるな。あと信仰札も必要だ。何も下げてないのも逆に目立つからな。商店街に行って、ポーション瓶生成の魔導具を買ったら、露店で買い物しよう」
フェルがすぐに計画を立ててくれたので、私はまたフェルについていく。
一人でもこれるように、道を覚えなきゃ。
フェルが追っ手に見つかったりしたら、私の空間収納(生)にフェルを入れて移動しなきゃならないしね。
そう覚悟したのに、人ごみを避けて歩くのに必死で周囲を見てる暇がない。
最低限、エイムの森と冒険者ギルドへの道は覚えたいのに。
こんなに人ごみの中を歩くのは、初めてだ。
北海道と病院と家しか知らない私としては、快挙だと思う。
人ごみで酔ったっていうシーンを漫画とかで見てもよくわからなかったけど、今まさに体感してる。
「あった、あった。薬師の店だ」
フェルは、人ごみに慣れてるみたい。
古い木材のドアを押すと、チリンと鈴が鳴る。
店の奥で座っていたおばあさんが、顔をあげた。
「おやまあ、いらっしゃい。何が欲しいんだい?」
「ポーション瓶生成の魔導具。魔石はなしで」
「新品と、中古があるよ。新品は銀貨1枚。中古は大銅貨5枚だよ」
「どうする? アンネリーゼ」
フェルが振り返って、私の顔を心配そうに見る。
やだなぁ、顔色悪く見えるかな。
「中古にしよう。まだ、お金に余裕ないし」
「アンネリーゼがそういうなら、そうしよう」
おばあさんが、私たちの顔を見比べてにこにこしながら商品を出してくれた。
なんだろう……なんとなくコーヒーメイカーを思わせる形だ。
ビーカーが入る場所が丸く空白で、たぶんそこに魔石を入れるのかな?
支払いをすると、フェルが空間収納に入れる。
「頑張ってねぇ」
声をかけてくれたおばあさんに会釈しながら、私とフェルはまた人ごみにもどった。
「フェル、錬成師と薬師と、錬金術師の違いってわかる?」
「ああ、そこからか……。錬成師は、ジャムだのバターだの、あとは醤油とかか? 複雑な過程がある食品の加工をしてる。薬師はポーション類に特化してる職業で、食品錬成はできないけど薬草から抽出してるらしい。錬金術師はどっちも出来るし、武器なんかも作れるから錬成師や薬師の上位ジョブだな」
人を避けながら、フェルは私の方を何度も振り返る。
「顔色が悪いぞ、アンネリーゼ。いつもいく露店まで、まだ距離があるな……」
フェルには申し訳ないが、ほんとに気持ち悪くなってしまった。
ふらふらする。
ふっと、並ぶ屋台の中で一つの店が気になった。
「フェル、あの店に行ってみたい」
「ああ? スパイスもありそうだな。行ったことがない店だけど、行ってみるか」
フェルに引かれて、なんとか気になった店に辿り着く。
そこには、明るいとび色の髪のおばさんがいた。
年頃は、前世の母くらいだろうか。
大人にきびと、シミが少し目立つ。
「いらっしゃい! スパイス、新鮮な卵と牛乳もあるよ!」
露店の多くは、商品の説明の紙を目立つように書いてあるだけだ。
それもそうか、空間収納があるんだもんね。
お向かいの生鮮食品の店だけが、たくさんの野菜を広げているけどあれは入りきらないんだろうな。
「お嬢ちゃん、顔色が悪いね?」
「人ごみに酔っちゃいました」
「可哀そうに、お使いかい? いまミントティーを淹れてあげるよ」
フェルが、一瞬おばさんを止めようとして、困った顔でこっちを見た。
「しまったなぁ、水筒があったのに持ってくりゃ良かったな……」
水筒もあったんだ。
フェルとしては、ちょっと出かけるつもりだったから置いて来たんだろうな。
ごめんね、貧弱で。
でも、これも回数をこなせばきっと慣れるはず!
「なぁ、アンネリーゼ。まずい水飲んだら、もっと気持ち悪くならないか?」
ひそひそと言われて、私も気が付く。
あと、ミントはさっきフランクさんに打撃をうけたばっかりだ。
ここの世界のひとって、もしかしてミント味だいすき??
「はい、砂糖もいれといたからね。飲みやすいと思うよ」
だがしかし、元日本人の私は断り方がわからず……受け取った。
売り物でもなんでもなく、好意で砂糖まで使ってくれたのに、いらないとか言えない。
私は、フランクさんのところで出た苦いお茶を意識しながら、コップに口を付ける。
……ん?
砂糖が入ってるのもあるけど、ミントは爽やか程度で冒険者ギルドの水よりまずくない。
私の流水の水と比べると、まだ微妙ではあるけど。
「どうだい、あたしは水の女神、フロリネさまを信仰してるからね。水がおいしいだろう?」
なるほど、確かに下げてる信仰札が多い。
その中に、水の女神さまのもあるんだろうな。
フェルが私からコップを取って、一口飲んで頷いた。
想定のまずさではない、ってことかな。
「商売人なら、商売の女神、アビリーネさまじゃないの?」
「勿論、アビリーネさまのも下げてるさ。このロザリーさんは信心深いからね。親が信仰してた水の女神さまの信仰も引き継いでるのさ」
そう言って、おばさん――ロザリーさんは豪快に笑った。
「さあ、何を買いに来たんだい?」
「カレールーを三人前。甘口のやつで。あとは、牛乳を大で四つ。卵は二十……三十個」
大を四つとか、すでによくわからないけど卵は軽く首を振って、増やしてもらった。
しかし、私ってばフェルがいないと牛乳も買えないね……。
単位も覚えないと。
「あいよ、全部で大銅貨2枚だ」
さっきのポーション瓶生成の魔導具が大銅貨五枚。
この買い物が大銅貨2枚。
残金は銀貨1枚と、大銅貨7枚だね。
ロザリーさんは、一リットルは入りそうなガラス瓶になみなみ入った牛乳を並べて、フェルが片付けていく。
カレールーも、瓶に入れてくれた。
卵は、ロザリーさんの空間収納から一個ずつ出してはフェルがしまっていく。
卵パックとかはさすがにないのかな?
落としたら当然割れるわけだし、ちょっとこの受け渡しはハラハラするね。
「牛乳瓶は返却してくれたら、次回は瓶の値段を差し引くよ! また是非きてちょうだいね」
私は、ロザリーさんに飲みおえたコップを浄化して返す。
ついでに、肩をぱきぱき鳴らすロザリーに何かお返しをしたくなった。
「フェル、残ったポーション二つだして?」
「おう、これか?」
フェルが支払いのお金を出すついでに頼むと、フェルはポーションを出してくれた。
うう、なんでもフェルに頼りっぱなし。
早くマジックバッグ買わないとなぁ。
なんだか、私がフェルを偉そうにこきつかってるみたいで申し訳ないよ。
「ロザリーさん、これ私が作ったポーションです。ランクは低いですけど、良かったら使ってください。少しだけど、疲労回復すると思うので……」
「あら、お嬢ちゃんは薬師なの? ありがとうねぇ。飲ませてもらうよ」
錬金術師だけど……まあいいか。
少しだけど、ミントティーのお礼になればいいな。
「よし、アンネリーゼ。次にいくぞ!」
「お二人とも、また買いにきてねぇ」
ロザリーさんに見送られながら、私はフェルに背負われて信仰札の店に連れられた。
荷物全部収納させてるのに、ほんとうにごめんね。
早く足手まといをなんとかするよ。
「フェル、ありがとうね。フェルがいなかったら、なんにも出来なかったよ」
エイムの森の入り口で、フェルの背中から降りながらお礼を言うと、何故かフェルは呆れた顔をした。
え、なにか変だった?
「アンネリーゼは変わってんな。オレに金持たせて、街で置き去りにされて持ってかれるとか思いもしないんだな。お金を任せてくれて、しかもお礼いうなんて使徒さまって変わってんぜ」
「そんなこと、考えもしなかったよー。だって、フェルはいい子じゃない」
「オレのほうが、年上だ。いい子ってなんだよ」
ツン、と額をつつかれる。
ふーん、前世年齢いれたら私のが年上だもんね。
「ヘンなやつ」
「私が変なら、フェルはもっとヘン!!」
そんな喧嘩? をしながら、私たちは手を繋いで家に戻った。
コハク、へそまげてないかな?
私が首をかしげると、下げた信仰札が揺れる。
エヴァリディアス様の信仰札は、赤い実が描かれたものだった。
買い物もしたし、ポーションも売った。
フェルに頼り切りだけど、まずまずの結果じゃないかな?
さあ、お昼は異世界カレーだ!




