第13話 アンネリーゼ、初のギルド②
私はなんとなくフェルの手を握った。
フェルも、しっかり握り返してくれる。
入り口のドアを通ると、そこは騒音の世界だった。
八歳児の大きさでは、周囲の大人は巨人みたいだ。
いかつい男性が多く、街中と違って戦闘服のような人が多い。
受付とは別に、掲示板があって酒場がある。
うるさいのは、主にその酒場のほうだ。
「すごいね、フェル……」
「酔っぱらいは面倒だ。早く受付に行こう」
受付は、五人以上窓口がいた。
お姉さんもいれば、お兄さんもいる。お揃いの制服だー。
でも、奥のドアから出てきた渋いおじさんがフェルの顔をみて驚いた顔をする。
え、この人、追っ手の関係者じゃないよね?
大丈夫?
「あのひとは大丈夫だ。アンネリーゼ、行こう」
フェルが引っ張ってくれたので、ギルド初心者の私はそれについていく。
「フランクさん! ちょっと相談があるんですが……」
「フェル! おまえ、大丈夫か? 身なりのいい奴らが、お前のこと昨日聞きにきたぞ」
「やっぱりきたか……ねぐら変えといてよかったぜ」
フランクさんと呼ばれた人は、きょろきょろしてから私とフェルを出てきたドアの中に入れてくれた。
ドアが閉まると、それだけで人の大声が遠ざかる。
緊張していたらしく、私は大きく深呼吸した。
「フェル、カノジョ連れてきたんか?」
「アンネリーゼは八歳だぞ! 妹みたいなもんだ。でも、錬金術師でポーションも魔力ポーションも作れる。今日は、冒険者ギルドで買い取ってもらえるかどうか聞きにきたんだ」
フランクさんは、五十代くらいだろうか。
スリムだけど、筋肉はがっしりついている。
かつては冒険者で鳴らして、今はギルドでって感じかな?
「なんと! こんな小さなお嬢ちゃんが錬金術師!?」
「初めまして、アンネリーゼと申します」
小さくお辞儀をすると、フランクさんの目が和んだ。
「そうかそうか、フェルのやつ、いつの間にかこんな可愛いお嬢さんを」
「ナンパみてーに言うな!」
フェルとフランクさんは、仲良しみたい。
でも、それだけフェルがギルドで仕事してるってことだもんね。
「俺はフランクだ。一応、ここのギルドのギルドマスターをしてる。なにか困ったら声をかけてくれ」
なんと。ギルマスだった。
ここの支部で一番偉いひとと知り合いだったのね、フェル。
「よろしくお願いいたします」
「うん、よろしくな。そんで、お嬢ちゃんのポーションを、フェル経由で冒険者ギルドに卸したいと」
「できねえかな?」
「普通は、ポーションを売るのは生産ギルドだな。だからお前たちから直接買っても、生産ギルドに金を払わなきゃならん」
フランクさんは、ギルマス自らお茶を淹れてくれた。
なんか、薄くて苦い。
そして確かに、水の質があまりよくない気がする。
フェルの視線を感じて、私はあいまいに笑った。
フェルも、私の流水を飲んじゃってるから多分おいしくないんだ……。
でも、ここでそれを言われると私、冒険者ギルドの流水係になるよ?
「じゃあ、オレが生産ギルドに登録するのは?」
「ポーションを作ってるのはおまえじゃないだろ。二年経ってお嬢ちゃんが登録したあと、どうすんだ。まあ、とはいっても錬成師でも薬師でもないおまえが登録できないだろうがな」
「じゃあ、手数料とられるけど冒険者ギルドで卸すしかないんだな」
「まあ、そうなるな」
フランクさんは、なにか甘いものがないかと席をたつ。
二人の子供が相手だからなのか、いつもそうしているのかはわからないけど。いいひとだってことは、よくわかる。
錬成師とか、薬師っていうのは錬金術師とは違うみたい。
でも、確かに異世界のポーションものっていうと、よく出るのが薬師だよね。
「アンネリーゼ、どうする? ここで卸すか?」
「私は、あと二年は無理だし、もし十歳でも今は生産ギルドに登録するお金すらないよ?」
フェルは、空色の髪をかいた。
私もフェルも、今は一文無しだもんね。
フェルは、正確には鉄貨数枚はあるみたいだけどね。鉄貨だけでは、屋台でジュースが買える程度みたい。
「フランクさん、じゃあ冒険者ギルドにポーション卸すよ」
「よし、じゃあ鑑定するか」
あ、鑑定スキルあるんだ? そりゃあそうか、品質とかあるもんね。
と思ったら、装飾された虫眼鏡みたいなものが出てきた。
フェルが空間収納から出した、ポーションと魔力ポーションを並べる。
「これでもなめながら、結果を待っててくれや」
フランクさんが出したのは、飴だった。
勿論個包装とかはされていない。
缶の中に数個の飴が入っていて、イメージとしてはタブレットみたいだ。
「いただきまーす」
フェルは、ほいっと口に放り込んでいて、こういう時は食の神には祈らないんだな。
んぐぅ!?
な、なにこの飴……。
べっこう飴なのに、凄いミントが凝縮していて口の中が辛い!
甘いものだと思って口に入れたものだから、想像の味と違って涙目になる。
フェルを見ると、これが当たり前みたいな顔をしてる。
涙目の私を見て、むしろびっくりしていた。
「大丈夫か、アンネリーゼ!」
「う、うん……。こんなにミントの味がすると思わなくって」
「確かに、これは大人の味かもな」
十歳のフェルがお兄ちゃん振る。
でも、フランクさんは甘いものって出してくれたじゃん……。
なんとなく騙された気分だ。
やっぱり冒険者ギルドには、クッキーとかないのかな?
スマホのレシピには甘いものは結構あったし、砂糖の追加はフェルが発見した砂糖の実でなんとかなる。
甘いものも売れないかな。
疲れたら甘いものっていうけど、地球だけ? 冒険者といえばやっぱりお肉なのかな?
「なるほど、ランクEのポーションにランクFの魔力ポーションだったな。これだと、一個銅貨8枚ってとこだな。30本で、銀貨2枚と大銅貨4枚になるな。ポーションは今品揃えが良くてあと10本は買い取れんかった」
「やった! 銀貨だって!」
フェルが飛び上がって喜ぶ。
うんうん、つまり……銅貨240枚のところ、十進数で10ごとに繰り上がるから、24大銅貨になってそれが銀貨二枚と大銅貨4枚になるわけだね。
でも、謎の”美”っていう鑑定結果に触れてこないってことは、そこは見えないのかな?
あんなに途切れてても、私の鑑定のが上だったりする?
「ランクがあがれば、買い取り価格も上がるからな。とはいえ、作った回数でランクはあがるから長い目で期待してるぞー」
「頑張りますね! ちなみに甘いものってここで需要ありますか?」
フランクさんは、ポーション10本をテーブルに戻しながら首を傾げた。
フェルが、すかさずそれを空間収納に仕舞う。
「甘いものっていうと、飴か?」
「うーんと、クッキーとか……」
あと、レシピなんて書いてあったっけ?
急いで、脳をフルスロットルで動かす。
「ドーナッツとか、マドレーヌとかフロランタンとか……」
だめだ、全部は思い出せない。
でも、錬成する材料は全部同じで、小麦粉、バター、砂糖、卵と同じもので作れたはずだ。
バターは牛乳で錬成できるし、買うのは卵だけで済むもんね。
「そうだなぁ。女性の冒険者もいるし、ギルド員には甘いもの好きは多いから少しなら買い取れるぞ。でもなぁ、出来上がりによっちゃ屋台で買ったほうがいいって言われるかもしれんな」
そっか、本業で甘いものの屋台があればそっちで買っちゃうよね。
「わかりました。少しずつ、作ってもってきますね」
「おう、リピーターがついたら定期的にポーションと一緒に持ってきてくれ。あとは、嬢ちゃんは匂い消しポーションは作れるかい?」
ああ、アグーレの皮使うやつね。
多分、他の素材もあるはず……。
「絶対とはいえないんですけど、多分作れると思います。匂い消しポーションって何に使うんですか?」
「強い討伐相手に、自分の居場所を知らせないために飲むんだよ。魔物は鼻がいいものが多いからな。隠れて攻撃するには、必要不可欠なんだ」
消臭剤だと思ってたけど、なるほど、そういう使い方をするんだ。
「あえて囮になるために、効き目が短いものを選ぶやつもいるからな。匂い消しポーションが出来たら、一個大銅貨1枚で買い取るぞ!」
「すげぇ、帰ったらすぐ作ってみようぜ!」
「やってみようね、フェル」
意気込む私たちに、銀貨2枚と大銅貨4枚を渡しながらフランクさんがおもむろに言った。
「ところで、嬢ちゃん。ポーション瓶生成魔道具は持ってるよな?」
ポーション瓶生成の魔導具……ってなに……?
もしかして、あの試験管みたいなやつを作る魔導具があるの……?




