第11話 アンネリーゼと、異世界の神々②
居間の柱時計が、十時を知らせた。
遠くのほうからも、鐘のような音がする。
私は三階の物置き部屋で物資を調べ、フェルは庭に出ていた。
お互い、なにがあるのか確認しときたい。
私も、あとで庭にあるもの鑑定して回らなきゃ。
薬草もだし、それに今日のToÐoリストの①の魔力ポーションを作ってないからね。
あとは、達成したよね……?
スマホを見ると、他の項目はやっぱりグレーになっていた。
けど、ふと見たステータスに、思わず転びそうになった。
寿命ゲージが、二年と二か月になってる。
ほんとなら、一年と364日だよね……?
フェルの言葉のなにかが、きっとトリガーだったんだ。
やっぱり私のラック100は、無意味じゃなかったんだ。
今後は勿論警戒もするけど、居場所がないフェルと、異世界に不慣れな私。
きっといいパートナーになると思うんだよね。
『アンネリーゼ、それ全部もってくの? 重くて階段無理じゃない?』
「やっぱり、無理だよね……」
息が乱れる。
はぁはぁ言ってるのは、およそ十キロのお米を一階に下ろそうとしていたからだ。
体は子供だもんね……一キロならともかく……。
ビニール袋はないだろうから、布袋を探してボウルで移し替えるしかなさそう。
一階の戸棚からそれらしい袋を見つけて、せっせとお米と小麦粉を持てる重さに仕分ける。
鑑定を使いながら、一キロずつ詰めては三階から一階に下ろす。
確か、お米は一キロで六・七合っておねえちゃんは言ってたな。
だったら、子供二人と聖獣一匹で一日ではなくならないよね。
「お米は、洗って給水させて……給水させてる間に、魔力ポーションを作らなきゃ」
魔導炊飯器は見つけてあったんだよね。最高!
『アンネリーゼ、きゅうすいってなに?』
「お米に水を吸わせて休ませる時間だよ、するとしないのとじゃ味が全然違うんだよ」
この辺、小学校低学年に北海道のおばあちゃんにしっかり習ったから自信がある。
お米の洗い方や、炊き方はバッチリ覚えてる。
それに、農家だったおばあちゃんの家には、よくご近所さんから鹿肉とかが解体前、血抜き済みで玄関に置いて行かれることが多かった。
なので、貧弱で虚弱だった私でも肉をさばける自信がある。
私の少ない料理スキルは、おばあちゃんに基礎を習って――おばあちゃん……私が死んできっと泣いてるよね。ごめんね、先に死んで。
でも、こうして転生したんだよ。エヴァリディアス様のお陰で。
お米の匂いに、おばあちゃんの記憶が流れてきて涙が止まらなくなった。
コハクが、ぷにぷにの肉球で涙を拭いてくれるので、余計に泣いてしまう。
『アンネリーゼは、元の世界に戻りたい?』
コハクに言われてはっとした。
「前の体でってこと……?」
『そう。今の体は、ここの世界で作られたからね』
「……戻りたくない」
そもそも死んじゃってるし。
前の体は、なにも出来ない。
悲しんだり、色んな体験をしたりできるのは、私がこっちの世界に健康に転生したからだ。
そう、か……。
家族を懐かしんだりすることがいけないわけじゃないけど、今の世界を楽しめることは前の杏奈の記憶をひきずりすぎている。
私はいま、アンネリーゼ。エヴァリディアス様の使徒。
前に進もう。
過去の家族の愛情は、大事にとっておきながら。
「ありがとう、コハク。さっさと魔力ポーションを作らないね」
『悲しいことは悲しんでいいと思うよ? ボクは何も出来ないけどね』
シニカルだけど優しい子狐聖獣は、そう言ってヒゲをぺろりと舐めた。
魔力ポーションの材料は、魔力水、月光草、アキネの花っと。
フェルはしっかりしているので、回収したアキネの花はしっかり錬金窯の横に置いてくれている。
「コハク、作るよ!」
『がんばれ~!』
錬金窯を流水で水を満たし、魔力で水を染める。
魔力がスルスルと抜けていく感じ。
前より早く、うまく出来た気がする。
庭からとってきた月光草と、苦労して集めたアキネの花を錬金窯に放り込む。
「――我が元に具現化せよ! 再構築」
錬金術を使うと、光るのはデフェルトみたい。
また、魔力がひっぱられて青くなった窯の中に私の魔力が吸われていった。
鑑定でも、間違いなく魔力ポーションと出た。
”魔力ポーション:ランクF。魔力を軽く復活する。美”
出た、謎の美!!
こっちにも付いてる!
でもポーションはランクEだったのに、Fに下がっちゃった。
アキネを摘んですぐに作らなかったからかな……。
一部、ふんじゃったしね……。
「どうせなら、魔力があるだけ魔力ポーション作ろうかな? 自分で作って自分で飲めば完璧では……?」
『ランクが低いから、少ししか回復しないよ。気を付けてねー』
あ、そうだった。
すっからかんにしたら、倒れるのかな? それともただカラになるだけ?
「アンネリーゼ、この庭すごいな! 砂糖の木まで植わってるなんて!」
二回目の魔力ポーションを作っていると、フェルが笑顔で飛び込んできた。
――え? なに?
いま、砂糖の木って言った?
甜菜とか、さとうきびとかじゃなくて?




