不本意な
最悪だ、と晃輔たちの正面に座る昌平たちを見て思った。
居留守を使って昌平たちにはお帰りいただこうと思っていたら、通話ボタンを既に押しており、モニター前で慌てふためく晃輔たちの会話が全部筒抜けになっていたため、速攻で昌平たちに晃輔たちが在宅していることがばれてしまった。
「お邪魔しまーす」
「あ、ななやっほー!」
晃輔が玄関を開けると、二人が家に入ってきた。
結局、もう誤魔化すことは出来ないと思い、昌平と希実の二人を家に招き入れることにしたのだ。
「悪いな晃輔。一応、これ手土産だから」
そう言って、昌平はご丁寧に紙袋に入った缶を手渡してくる。
「これは? なんか凄い仰々しいんだけど」
晃輔は、リビングに向かいながら中の缶を指差してそう尋ねた。
「色んな種類が入ったゼリー」
「御中元かな?」
「いや、まあ実質的に急な押しかけになるから、どうしようかって。結構、のんと一緒に二人で考えて、わざわざにまで横浜行ったんだから」
「それはどーも。できれば、そもそもわかってんだったら急に押しかけ来ないでほしんだが」
「その文句は、俺じゃなくてのんに言ってくれ」
昌平の視線の先には、ななに抱き着いてベタベタしている希実の姿があった。
晃輔は、昌平たちがここに来た事情を聴くために、一旦全員集合してもらい、全員が何かしらに座る。
すると、晃輔たちの正面に座った昌平が口を開いた。
「えーと……いきなり押しかけて悪いんだけど……一応説明させてくれな」
「たぶん、あおいでしょ」
「たぶん、あおいだな」
晃輔とななが口をそろえてそう告げると、二人に名前を出されたあおいは慌てた様子でそれを否定した。
「ま、待って! なんで二人して私? 今回は私じゃないよ!」
「今回は、って。もしかして、もう既に何かやらかしたの?」
「やらかしてないよー!」
あおいが不満そうにそう叫んだ。
「ふふ、にぎやかだねー。えっとねー」
希実は楽しそうに笑うと、昌平と一緒にこの家にたどり着いた理由を教えてくれた。
どうやら、ななと晃輔が休んだ日に、あおいが急いで学校を出て、この家に向かうところを目撃されていたらしい。
それで、この家を見つけることができたらしい。
「「……」」
黙って話を聞いていた晃輔とななは思いっ切り絶句した。
もう本当に色々と言いたいことがあってどこからツッコんでいいのかわからない。
晃輔やなな相手だったからまだよかったものの、やっていることはただのストーカーと変わらないのではないだろうか。何をどこから注意すれば良いのか。
とりあえず、二度とこんな事はやらないように徹底だけはしとくべきだろう。
「私か……」
希実の話を聞いたあおいは、そう言って頭を抱えていた。
希実たちはちゃんと話してくれたので、ここで晃輔たちが、はいそうですかお帰りください、と返すわけにもいかないので、晃輔たちもこの家に住む事になった経緯をキチンと説明した。
「まぁ、こんな感じだ」
晃輔が話終えると、話を聞き終えた二人は驚いた表情で固まっていた。
「なんというか、すごいね……」
「……」
大人しく話をを聞いていた希実は、驚いて目を見開いており、昌平に至っては絶句しているのか、声を発してすらいなかった。
「というか、そんなラノベやドラマみたいなことが実際にあるんだね」
「そうね、最初はほんとに驚いたわ。こういうことは小説だけにしてほしかったわ」
希実が告げると、ななは少し困ったような笑顔で答えた。
「それにしても、晃輔のお兄ちゃんって、一体何者ナノ。謎すぎる……」
昌平はまだ驚きが抜けていないのか、希実の言葉に首を縦に振るだけになっている。
「あ、そうだ二人とも」
「ん?」
「どうしたの?」
「俺らはお前らみたいな関係ではなく、事情があってこうなっている。だが、他の連中にこのことが漏れると確実に面倒くさい事になる。言いたいこと分かるな?」
これは案に、面倒くなるから言い触らすなよ、と二人を脅しているようなものだ。
「要は、このことは俺たちだけの、ってことでいいんだよな」
「ああ、助かる」
「いや、いいんだ。ちゃんと事情があったみたいだし。それに、言い触らすような真似をしたら、晃輔一生喋ってくれなさそうだしな。あと、無闇に友達の嫌がるようなことをするもんじゃない。のんもいいよな?」
昌平は、隣で大人しく座っている希実にそう尋ねる。
「もちろん!」
「そうか。すまんな、助かる」
「大丈夫! ななも安心して。わざわざ誰かに言うような真似は絶対しない! 約束するよ」
そう言って、珍しく真面目な表情をしている希実は、少し表情の固いななにそう告げた。
ななはそれを聞いて安心したのか、ななの頬が緩んだ。
「ところで、今何やってたの?勉強?」
「そうよ。テスト勉強」
「なな勉強する必要なんて無いじゃん」
「あおいのためよ」
「妹ちゃんの!? じゃあ私も手伝う!」
希実は、晃輔とななの間でちょこんと座っているあおいに向かって色々と話始めた。
「それじゃあ、改めてみんなで勉強会開始ー!」
あおいが元気良くそう告げる。
「「おー!」」
「「……」」
希実とあおいが話始めてから、晃輔がトイレに行って戻ってくると、リビングで何か始まっていた。
ななに聞くと、晃輔がトイレに行っている数分の間にいつの間にか、仲良くなったらしい。
恐らく精神年齢が近いからだろうか。
「ちょっと、お姉ちゃん! こー兄! 二人とも、乗り悪いよー」
「…………おー?」
「無理に合わせなくていいのよ」
晃輔が適当に力の抜けきった返事をすると、ななにそう告げられた。
来週からすぐに中間テストがあったため、あおいの強い希望で三人で勉強会をすることになったはずだった。
晃輔は、あおいのテンション高めな掛け声に合わせて、返事をしている昌平と希実に目を向けてため息をついた。
「何でまだお前らがここにいるんだよ」
「えー? いいじゃん別にー。いたら悪い?」
「悪い。今すぐ帰れ」
晃輔がそう告げると、何故か希実はニヤニヤしだす。
「あ、そっかー! ここは二人の愛の巣だからねー。二人っきりでいたいと」
「!?」
希実の発言に、ななは驚いて目を見開き、頬を紅潮させる。
「うはぁー! 可愛いー!」
その様子を見ていた希実は、ななに抱き着いて頭を撫で回し始める。
「ちょ、希実、やめて……」
「んー? なーにー? 聞こえないなー」
撫で回されているななが必死に抵抗しようとするも、希実の身体能力の前では為すすべがない。
「希実うるさい」
「ん? あれ? 晃輔も顔赤いよ? どうしたの〜?」
晃輔がそう言うと、希実がニヤニヤしながらこちらを見てくる。
顔が赤くなっているのは晃輔も自覚しており、事実なのだが、なんというかこう、希実に言われると無性に腹が立ってくる。
「……」
「痛っ!」
希実に言われ、若干腹が立った晃輔は、無言で希実の額にデコピンを入れた。
「暴力はんたーい!」
「知らん」
額を押さえた希実が不満気にそう告げると、今度は昌平のほうに向かい、あぐらをかいて座っている昌平の膝の間に座り込む。
「晃輔、大変だとは思うけど、あんまりのんをいじめないでくれよ……」
「そうだそうだ!」
「うるさいバカップル!」
そう言って、晃輔は額に手を当てて大きくため息をついた。
「疲れる……」
晃輔たちのやり取りを見ていたあおいは、同じように、そのやり取りを見て笑っているななに尋ねた。
「私ってあんな風に見られてるのかな……」
「……そうね。似たようなものだと思うわ」
隣で、ななが言いづらそうに答える。
「なんだかな……不本意……」
あおいは静かにそう呟いた。




