ななと勝負
「お邪魔しまーす!」
玄関の扉を開け、リビングに入ってきたあおいはそう告げた。
「いらっしゃい」
「この光景、というかこの流れ、なんか昨日も見たな」
「そうね」
「ふふ、ホントだね!」
そう言ってあおいはけらけらと笑う。
昨日は晃輔、なな、あおいの三人で勉強会をするつもりだったのだが、晃輔の親友である昌平と希実に、晃輔となながこのマンションに住んでいることがバレてしまった。
昌平と希実には、なんとかこうなった経緯を説明し、納得してもらった。
しかし、結局、昨日は一番勉強しなくてはいけないあおいと赤点ぎりぎりの希実の二人は、家に置いてあったゲームをやり始めてしまい、昌平と希実が帰ったあと、あおいはななに目茶苦茶怒られていた。
ちなみに、あおいと希実がずっとゲームに夢中だった時、真面目な晃輔とななはリビングにある机を使って黙々と勉強をしていた。
昌平たちが帰ったあとは、真面目に勉強をしていたあおいだったが「テスト前だから、明日も行くね」と言って、あおいは昨日と今日の二日連続で晃輔たちを訪れていたのだ。
「ねね。思うんだけどさ、お家の合鍵作ったほうが良くない?」
リビングに来たあおいは、晃輔とななの二人に向かって突然そんな事を言い放った。
「突然何を言って……?」
突然そんな事を言うあおいに、ななは驚いて目を見開く。
「でも、お姉ちゃんたち、いちいち迎えに出るの面倒くさいでしょ? こー兄、どうもう?」
「何で俺に……」
あおいに聞かれた晃輔は、そう言いつつも腕を組んで考えた。
「うーん……まぁ、俺は良いと思うけど」
「!? 晃輔!?」
「え!? いいの?」
晃輔のそれに、ななは驚いて目を丸くし、あおいは「やったー!」と言って、嬉しそうに笑っていた。
「俺はな。ただ、それを決めるのはウチの兄だからな」
このマンションを買ったのは、晃輔の兄である嶺だ。
基本的に、晃輔たちの私生活に嶺が干渉してくることはなく、晃輔たちが何をして何を買おうが、嶺の方から何かを言ってくることはない。
しかし、家の鍵の場合など、家のセキュリティ云々が関わってくると、話は変わってくる。
このマンションは嶺が購入したものであり、最終的な決定権は嶺にあるため、もし、あおいのために合鍵を作るとなると、当然嶺に要相談が必要となる。
「あーそっかー。でも、嶺兄に相談すれば鍵作ってもらえるかも!」
どこまでも前向きなあおいに、晃輔は思わず笑みがこぼれた。
「そ。だからさ、その辺は嶺兄さんに言わないといけないから」
「そ~ねー。だってさ。お姉ちゃん」
あおいはそう言うと、ニヤニヤとした顔でななの方へ向き直った。
「ま、まぁ、そうね。それが当然ね」
何でななに、そう思った晃輔は、ななの方に視線を向ける。
すると、ななは「ふぅ」と小さくため息をついたと思ったら、何故か安堵した表情をして晃輔たちを見ていた。
***
「こー兄! 相談があります!」
明日からの定期テストのため、切り替えて、それぞれ真面目に勉強をしていると、あおいが突然、晃輔に向かってそう告げた。
「却下」
「何でぇ!?」
「冗談だ……それで、なんだ?」
「次のテストでね、私が頑張ったら、こー兄からのご褒美がほしいんです」
ななは一瞬、チラッと晃輔たちの方を見たが、すぐに視線を戻してまた黙々と勉強をやりだした。
「ん、別にいいぞ」
「軽いよ! まだ何も言ってないのに!」
あおいのことだからご褒美にケーキかなんかを渡せば大丈夫だろう、と晃輔は密かにそんなことを思っていた。
「じゃあじゃあ、学年で五十位以内に入ったら、こー兄が何でも言うこと聞いてくれるってことで」
「!?」
勉強をしながら密かに晃輔たちの会話を聞いていたななは、ギョッとして目を見開いた。
「五十位以内か……」
あおいの目標順位を聞いた晃輔は思わず遠い目をする。
「ちょっと! こー兄、やる前からその顔はやめて!」
あおいは不満そうな顔で晃輔を見つめてくる。
「ごめんごめん。でも……いいのか五十位で?」
晃輔たちの通うこの学校は勉強速度が早く、予習復習をきちんとやっていれば、そこまでテストも難しくはないだろうが、あおいは色々な部活の助っ人として呼ばれ、あまり予習復習をやる時間など無いはずだ。
五十位以内に入るのはちょっと難しいのではないか、と思うのが晃輔としての意見だった。
「むしろこー兄は、私が五十以内に入ったら、私の言うことを何でも言うこと聞くってところにツッコまないでいいの?」
「いや、別に…………まぁ、約束するよ」
「え!? こ、晃輔?」
「いいぞ、あおいが五十位以内に入ったら、あおいの言うことを聞くで」
「ほんとに!? よしっ、よしっ!」
何故か晃輔に背を向けてから小さくガッツポーズをしている。
隠れたんだとしたら丸見えすぎて、少し笑えてしまう。
「え、ちょ……」
これまでの二人の会話で完全に集中力が途切れたななは、晃輔とあおいに全くついて行けず、金魚みたいに口をパクパクさせている。
「約束だよ!」
そう言って、満面の笑顔となったあおいは、ななの方を振り返り告げた。
「それで、お姉ちゃんはどうするの?」
「!? ど、どうするって。そしたら私も同じ……」
「なんて?」
前半は聞き取ることができたのだが、後半はななの声が小さすぎて何を言っているか分からなかった。
「何でも無い! あ、だったら私もあおいと同じ報酬で。ルールは私の一番低い科目と晃輔の一番高い科目で勝負よ」
「だって、こー兄」
それはいくら何でも舐め過ぎ、と言いたいところだが、恐らくそれぐらいのハンデがあってもななには敵わないだろう。
「え、それって普通に詰みじゃん……」
「反対意見が無いみたいなので、じゃあ、それで決定で」
「マジか……」
そう言って、晃輔は思わず頭を抱えた。
あおいもあおいだが、その姉であるななも、スイッチが入ると強引になるのは、本当になんとかしてほしい。
「楽しみね」
「楽しみだね、こー兄!」
こうして、晃輔にとって絶対に負けられない定期テストとなったのだった。




