表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カートに入れるだけで世界を変える ~異世界通販で文明侵略~  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/34

第七話:発酵する街、軋む既得権

町に入った瞬間――空気が、違った。

「聞いたか? “泡の酒”ってやつ」

「赤い酒もあるらしいぞ。果実なのに妙に強い」

「一口で酔いが回るって話だ」

噂が、先に走っている。

(……早いな)

フードを深く被り、俺は人混みの中を進む。

視線の先、石畳の広場――そこだけ異様に熱を帯びていた。

人だかり。

歓声。

そして――

――プシュッ。

乾いた音が、空気を裂く。

「来たぞ! 泡の酒だ!」

「今日は一人一杯までだ、並べ!」

簡易の木カウンター。

その上に並ぶ、見慣れた缶と――ガラス瓶。

(……やってるな)

群衆の外から観察する。

「うめぇ!」

「なんだこのキレ!」

「もう一杯くれ!」

完全に火がついている。

予想以上だ。

(供給が、追いつかない)

意図的に絞っている。

だが、それ以上に需要が跳ねすぎている。

――視線が合う。

行商人。

小さく頷く。

(裏か)


路地裏。

「来たか」

「調子いいな」

「ああ、笑いが止まらん」

男が袋を持ち上げる。

中身は――銀貨。

「半日でこれだ」

(悪くない)

「だが問題も来る」

「……だろうな」

男の声が低くなる。

「酒造ギルドの連中が嗅ぎ回ってる」

(やっぱり来たか)

既存の酒。

時間と手間で価値を作る連中。

そこに――異物。

「動きは?」

「まだ調査だ。だが時間の問題だな」

「潰しに来る?」

「間違いなくな」

(いい)

思わず笑みが浮かぶ。

「分かりやすい敵だ」

――その時。

足音。

複数。

「……来たな」

路地の入口。

三人の男。

革のエプロン。

太い腕。

染み付いた酒の匂い。

「お前が“新しい酒”の元締めか」

中央の男。

目が鋭い。

「だったら?」

空気が張り詰める。

「ここは俺たちの縄張りだ」

「税は払ってるのか?」

「ギルド登録は?」

「許可は?」

(テンプレだな)

「してないな」

一瞬で空気が凍る。

「……舐めてるのか」

「いや」

一歩、踏み出す。

「不要だと思ってるだけだ」

次の瞬間――

「ふざけるな!」

男が踏み込む。

だが。

「待て」

横の男が止める。

「まずは“味”だ」

(……ほう)

理性が残っている。

「話はそれからだ」

俺は箱を開ける。

ワインを一本。

――ポン。

その音だけで、空気が変わる。

(やっぱり強いな)

カップに注ぐ。

差し出す。

男が受け取る。

飲む。

止まる。

もう一口。

――沈黙。

「……なんだこれは」

声が、低い。

他の二人も飲む。

「濃い……」

「香りが……違う」

「……くそ、うめぇ」

(決まりだ)

――だが。

男はカップを置いた。

「だからこそ、だ」

俺を見る。

「こんなもんが出回ったら、俺たちは終わる」

(正直だな)

「潰す、と?」

「当然だ」

迷いがない。

(いい)

「じゃあ――取引しよう」

「……何?」

「お前らに卸す。独占でいい」

一瞬の静止。

「流通も、表の手続きも全部やれ」

ギルドを盾にする。

「利益は折半」

「なっ……!」

行商人が息を飲む。

だが俺は続ける。

「敵になるか、味方になるか」

沈黙。

長い、長い沈黙。

そして――

「断る」

(即答か)

「こんなもんに頼ったら、俺たちの“酒”が死ぬ」

誇り。

「それに」

一歩、踏み出す。

「元を潰せば済む話だ」

(そっちを選ぶか)

空気が完全に変わる。

敵。

「……そうか」

箱を閉じる。

「じゃあ、仕方ない」

一言、落とす。

「戦争だな」

そして、追い打ち。

「――お前らの酒は、まずい」

静寂。

「後悔するぞ」

「させる側だからな」

三人は去っていく。

足音が消える。


「……やばくないか?」

行商人が言う。

「全面対立だぞ」

「いいんだよ」

俺は“画面”を開く。

【酒類】

新しい項目が追加されている。

【業務用 大量仕入れ】

【低価格帯】

【高級ライン】

(……全部ある)

この世界の酒は、

時間に縛られている。

だが俺は違う。

「無限供給」

「品質一定」

「価格自由」

勝ち筋しかない。

夜の路地。

灯りの下で、俺は笑う。

「次は――価格戦争だ」

安くして潰すか。

高くして奪うか。

どちらでもいい。

どちらでも、勝てる。

空を見上げる。

揺れる街の灯り。

その下で――

古い酒と、新しい酒がぶつかる。

「発酵は、止まらない」

この戦いはまだ、始まったばかりだ。

そして――

やがて街そのものを、飲み込む。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ