第三十六話:日常になる味が広がる街
煙。
香り。
声。
その中を――
一台の馬車が進む。
止まる。
扉が開く。
姫が降り立つ。
いつも通りの足取り。
「きたぞー。」
周囲がざわつく。
「姫様……また来てるぞ」
「もう常連だな……」
だが姫は気にしない。
視線は――
屋台へ。
「今日はこれだな」
「これが……広がった味か」
まずは一本。
串に刺さった鶏肉。
香ばしく焼かれている。
ピンク色のソースをかける。
「それがケバブ串です」
店主が言う。
姫は受け取る。
一口。
肉汁。
香草。
そして――
ソース。
「……うまい」
間を置いて、もう一口。
「香りが強い」
「だが、嫌ではない」
店主が誇らしげに言う。
「特製のケバブソースです」
姫は小さく頷く。
「なるほど」
次に目を向ける。
「それは?」
「サラダです」
刻まれた野菜。
そこにソース。
姫は口に運ぶ。
しゃくり、と音。
「……軽い」
さらに言う。
「肉の後に良い」
周囲の者たちが頷く。
「だろ?」
「交互に食うと止まらんぞ」
姫は静かに続ける。
もう一口。
「確かに」
そして――
視線が止まる。
白い山。
「……あれは何だ」
俺が前に出る。
「かき氷です」
器を差し出す。
色とりどりのシロップ。
その上に――
白い練乳。
姫は少しだけ警戒しながら、口へ。
一瞬。
「……!」
目を細める。
「冷たい……」
だが、すぐに。
「消える……」
もう一口。
「甘い」
さらに。
「これは……面白い」
そのとき。
隣の客が頭を押さえる。
「いたっ……!」
姫が見る。
「なんじゃ?どうした?」
俺が水を渡す。
客が飲む。
「あ……治った……」
俺が言う。
「急ぐからだ」
俺は続ける。
「急いで食べると体が一気に冷えて、頭がキーンと痛くなることがあります。」
「その場合はすぐに水を飲むと収まります。」
姫が興味深そうに言う。
「ほう」
俺は続ける。
「練乳をかけるとこの現象の予防になります。」
姫は自分の器を見る。
白い層。
もう一口。
「……確かに」
「当たりが柔らかい」
周囲がざわつく。
「姫様が食ってるぞ……!」
「美味しそうだ。」
次々と注文が入る。
「ケバブ串五本!」
「サラダも!」
「かき氷、練乳付き!」
熱が、増す。
姫はそれを見渡す。
煙。
笑い声。
列。
そして――
食べる人々。
「……よいな」
小さく言う。
「これは、広がる」
俺は少しだけ笑う。
「確実に広がっていきますよ」
姫も、わずかに笑った。
広げたのは、人だ。
味だ。
そして、楽しさだ。
王都は今日も――
美味しく食べている。




