第三十七話:教えるということ
王都。
熱は、まだ続いている。
屋台。
人。
煙。
そして――
行列。
「ケバブもうないのか!」
「氷が足りねぇ!」
「すき焼きはまだか!」
混乱ではない。
だが――
限界は見え始めていた。
――店。
猫人が腕を組む。
「人が足りねぇな」
犬人が頷く。
「完全に回ってねぇ」
リオナが帳簿を閉じる。
「供給が追いついていません」
俺は言う。
「わかってる」
だが、数を増やすだけでは足りない。
「作れるやつが少なすぎる」
静かに続ける。
「教えるしかないな」
猫人が眉をひそめる。
「教える?」
犬人も言う。
「そんな簡単にできるもんか?」
俺は首を振る。
「やる」
「誰でも同じ味を出せるようにする」
リオナが顔を上げる。
「標準化、ですか」
俺は頷く。
「手順を決める」
「材料を揃える」
「無駄を減らす」
猫人がぼそりと言う。
「職人に嫌われるぞ」
俺は答える。
「底を上げるだけだ」
「上は、もっと上に行ける」
沈黙。
犬人が笑う。
「面白ぇな」
――数日後。
王都の外れ。
使われていない倉庫。
そこを借りる。
掃除する。
机を並べる。
調理台を置く。
簡単な看板を出す。
『料理を教える』
それだけ。
――初日。
人は――
来た。
予想より多く。
「教えてくれ!」
「本当に教えてくれるのか?」
「働きたい!」
「店出せるようになるのか?」
俺は前に立つ。
「教える」
声。
熱。
俺は前に立つ。
見る。
素人。
元職人。
子供。
混ざっている。
俺は言う。
「教える」
静かに。
「全部だ」
火の扱い。
味の作り方。
売り方。
そして――
「続ける方法」
ざわめきが止まる。
「ただし――」
間。
「やる気がないやつは帰れ」
空気が締まる。
誰も動かない。
俺は続ける。
「まずは火だ」
火の起こし方。
温度。
焼き方。
基礎。
「次は味」
分量。
順番。
再現。
同じものを作る。
何度も。
何度も。
――数日後。
声が変わる。
「できた!」
「同じ味になった!」
笑い声。
失敗。
やり直し。
繰り返し。
――外。
屋台の店主が様子を見る。
「……本当にできてるな」
別の男が言う。
「教えることでここまで変わるのか」
噂が広がる。
「料理を習える場所がある」
「すぐ働けるらしい」
人が増える。
――店。
猫人が笑う。
「人、回り始めたな」
犬人が頷く。
「前より安定してる」
リオナが言う。
「供給が改善しています」
俺は外を見る。
新しい屋台。
新しい手。
新しい味。
だが――
同じ基準。
同じ安心。
「これでいい」
小さく言う。
文化は、広がる。
だが――
教えれば、加速する。
王都は今――
作る街へと変わり始めていた。




