第三十五話:広がる料理
王都。
すき焼きの屋台は増え続けていた。
甘い香り。
煙。
人の列。
「次はあっちの通りにも出てるぞ!」
「昨日より増えてないか?」
そんな中――
別の匂いが、混じり始める。
香ばしく、少し刺激的な香り。
「……なんだこれ?」
屋台の一つ。
焼かれる鶏肉を刺した串。
店主がそこに――
ピンク色のソースをかける。
香草を乗せる。
「ケバブソースだ!」
客が一口。
「……うまい!」
「なんだこのソース!」
別の皿。
細かく刻まれた野菜。
そこに同じソース。
「サラダにも合うのかよ……!」
さらに――
「ドレッシングだ!」
液体のソースが並ぶ。
酸味。
油。
香り。
野菜にかける。
「さっぱりしてる!」
「肉の後にちょうどいい!」
その隣。
「これは何だ?」
黄色がかった和え物。
「からし酢味噌だ」
一口。
「……辛い!」
「でも止まらん!」
「これ、酒に合うぞ!」
味が、分かれていく。
重い。
軽い。
辛い。
さっぱり。
選べる。
広がる。
――店。
猫人が腕を組む。
「……また増えてるな」
犬人が笑う。
「完全に祭りだなこれ」
俺は言う。
「ケバブが喰いたくてな 広めてしまった」
リオナが帳簿を見る。
「関連商品の動きが加速しています」
俺は箱を開ける。
中から出てきたのは――
金属の筒。
手回しのハンドル。
猫人が首をかしげる。
「なんだそれ」
俺は氷を入れる。
ハンドルを回す。
ギリギリと音。
削れる。
白い粉のような氷。
器に積もる。
「……雪?」
犬人が言う。
俺は笑う。
「違う。かき氷だ」
シロップをかける。
赤。
青。
黄色。
甘い香り。
さらに――
白い液体をとろりとかける。
「それは?」
「練乳だ」
甘い香りが広がる。
猫人が一口。
「……冷てぇ!!」
だが――
「うまっ……!」
犬人も食べる。
「なんだこれ!」
「口の中で消える!」
そのとき。
外の客の一人が声を上げる。
「いっ……!」
頭を押さえる。
「なんだこれ、頭が……痛たたた!」
猫人が笑う。
「一気に食いすぎだろ」
俺はすぐに水を差し出す。
「ゆっくり飲め」
客は水を飲む。
少しして――
「あ……治った……」
ほっと息をつく。
「なんだったんだ今の……」
犬人が笑う。
「急に冷やすからだな」
俺は軽く言う。
「ゆっくり食べないと同じ目に合う。」
「頭がキーンと痛くなったらすぐに水を飲む それで直る。」
客はまたかき氷を食べ出し苦笑する。
「でも、うまいなこれ……」
俺は続けて言う。
「あと、これをかけると頭がキーンと痛くなるのを少し防げる」
練乳を見せる。
「甘さで当たりが柔らかくなる」
猫人が笑う。
「そんな効果あんのかよ」
別の客が試す。
「……あ、本当だ」
「さっきより平気だ」
犬人が頷く。
「冷たさがやわらぐな」
リオナも静かに口へ。
「……温度刺激の緩和」
「理にかなっていますね」
また一口。
今度は慎重に。
リオナも静かに口へ。
「……温度による満足感の変化」
「これは強いですね」
外は、夏に近づいている。
暑さ。
人混み。
そこに――
冷たさ。
「かき氷だ!」
「並べ!」
「練乳かけろ!」
「そっちの方がうまいぞ!」
声が広がる。
すき焼きの隣に、氷の山。
熱と冷。
対になる文化。
猫人が笑う。
「肉喰って、サラダ喰って、氷喰って……忙しいな」
俺は言う。
「だから回る」
リオナが頷く。
「消費の循環ですね」
外では――
「ケバブ串もう一本!」
「サラダもくれ!」
「かき氷追加!」
声が絶えない。
王都は、変わっていた。
一つの料理ではない。
組み合わせ。
流れ。
そして――
“選べる楽しさ”
俺は店の前に立つ。
風が運ぶ。
肉の香り。
酢の香り。
甘い香り。
混ざる。
広がる。
文化は、もう止まらない。




