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カートに入れるだけで世界を変える ~異世界通販で文明侵略~  作者: レモンティー


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33/36

第三十三話:囲む時間

翌日

扉が開く。

「いるかーっ」

「 飯を食べにきたぞ」

姫だった。

一歩、店の中へ。

視線がこちらに向く。

シノミヤマコトは言う。

「姫様」

一拍。

「今日は餅撒きを手伝ってくれたお礼に、珍しい料理をご馳走します」

姫が少しだけ興味を示す。

「ほう」


――しばらくして。

店の奥。

普段とは違う準備が進む。

食材はすでに揃っている。

通販で取り寄せたものだ。

肉。

野菜。

整然と並ぶ。

牛肉。

豚肉。

鶏肉。

鶏肉を除き、どれも薄く切られている。

姫が眉をひそめる。

「……薄い肉だな」

マコトは答える。

「これが美味しいんですよ」

納得はしていない顔。

だが、否定もしない。


テーブルの中央に鍋を置く。

中には出汁。

火にかける。

やがて、ふつりと音がする。

「始めます」

器を並べる。

刻んだネギ。

紅葉おろし。

生姜。

ニンニク。

ラー油。

柚子胡椒。

ポン酢。

ごまだれ。

猫人が覗き込む。

「薬味と調味料、多くねぇか?」

リオナが静かに言う。

「味を選べる形式ですか」

マコトが頷く。

「そう。味をいろいろと楽しめる」

さらに小皿をいくつか用意する。

「例えば――」

マコトは手際よく混ぜていく。

「おろしポン酢。大根おろしをたっぷり」

「ピリ辛ポン酢。ラー油や一味を少し」

「ねぎ生姜ポン酢。長ねぎと生姜」

姫が興味深そうに見る。

「ごまだれも変えられます」

「ラー油でピリ辛」

「にんにくや生姜で香りを足す」

さらに小皿をもう一つ。

「これは合わせ技です」

「他にごまだれとゆずポン酢を三対一の黄金比で混ぜる」

猫人が笑う。

「いろいろあるな」

マコト

「味のいいとこ取りです」


湯気が立ち上る。

マコトは牛肉を一枚、箸で持つ。

「こうやって――」

鍋へくぐらせる。

「しゃぶしゃぶっと」

赤い肉が揺れる。

色が変わる。

深い赤が、薄いピンクへ。

そして、火が通った色へ。

引き上げる。

ポン酢へ。

口に運ぶ。

マコト

「美味しい」


姫がじっと見ている。

「わらわもやってみよう。貸せ」

同じように肉を取る。

少しぎこちない動きで、湯へ。

鍋へくぐらせる。

色が変わる。

その過程を、見逃さない。

引き上げる。

ポン酢につけてそのまま口へ。

一瞬、静止。

「……美味しい」

さらに言う。

「柔らかい」

もう一度。

「この食べ方は斬新だ」

そして、別の肉でも続ける。

「肉が違うと食感が違うな」


マコトは頷く。

「はい。部位や種類で変わります」

さらに付け加える。

「煮過ぎると固くなるので、通しすぎないように注意してください」


姫は今度はくぐらせた肉を、ごまだれにつけて紅葉おろしを乗せる。

一口。

「……新たな食感だ。こっちは重い……だが、いい」

「味が変わるのが面白いな」

「この食べ方は斬新だ」

「焼きでも、煮込みでもない」

姫は真剣だ。

「一瞬で決める……面白い」

マコト

「みんなも食べてくれ。」


犬人も手を伸ばす。

猫人も。

リオナも。

次々と肉が鍋をくぐる。

「うまっ……!」

「軽いなこれ!」

「止まらねぇぞ!」

「薄い肉は柔らかいな!」

野菜も入る。

出汁が少しずつ深くなる。


笑い声が増える。

昨日とは違う。

奪う場ではない。

囲む場だ。


しばらくして。

マコトは鍋を見て言う。

「――別の食べ方もあるんですよ」

姫が興味を示す。

「まだあるのか」


別の鍋を用意する。

残っていた肉を入れる。

そこに、

醤油。

砂糖。

火にかける。

じわりと音が変わる。

甘い香りが立ち上る。

猫人が顔を上げる。

「おい、匂いが変わったぞ」


肉に色がついていく。

濃く、照りが出る。

「これは……」

マコトは言う。

「すき焼きです」

箸で取る。

そのまま口へ。

「……うまい」


姫も続く。

一口。

「……これは」

一瞬、言葉が止まる。

「濃いな」

だが、すぐに笑う。

「だが、よい」

「さっきとは全く違う」

「これも斬新だ」


猫人。

「こっちは穀物が欲しくなるやつだな……!」

犬人も頷く。

「焼き肉とは別物だな!」

リオナが静かにまとめる。

「同じ食材で、別の料理になる……興味深いですね」


姫が満足そうに言う。

「よいな、これ」

猫人が笑う。

「餅撒きの次は鍋か」

リオナ。

「文化が増えますね」


マコトは鍋を見る。

湯気が、ゆっくりと上がる。

静かで、

温かい。

そして――

少しだけ、甘い香りが混じっている。


外の世界は変わった。

だが――

この場所もまた、確実に変わっている。

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