第三話:換算という支配
この世界の通貨は、
そのまま“円”に変換できる。
つまり――
「価値の翻訳機だな、これ」
ポケットから、さっき受け取った銅貨を取り出す。
銅貨は一枚、100円。
銀貨は一枚、1000円。
パンの代金。
銅貨六十枚。
「6000円か」
画面を開く。
【異世界資産を円換算しますか?】
「はい」
銅貨を一枚、指で弾いて画面に触れさせる。
――スッ。
光に変わって消える。
【+100円】
「やっぱりな」
残りも次々と入れる。
銅貨が消え、
数字が増えていく。
【+100】
【+100】
【+100】
「……気持ちいいな、これ」
全部入れ終わる。
【残高:6000円】
さっきの6本の水の分と合わせれば――
「12000円か」
たった半日、一人の客で、これだ。
だが、重要なのはここからだ。
俺は地面に腰を下ろし、考える。
「原価と販売価格の差」
水は2リットル×6本で銀貨一枚。
それを1本銀貨一枚で売る。
パンも同じだ。
「つまり、利幅が異常」
だが――
「もっと効率化できる」
検索欄を開く。
【業務用 パン】
大量パックが並ぶ。
「これだな」
さらに。
【乾パン】
【ビスケット】
【保存食セット】
「長期保存系も強い」
そして、ふと思いつく。
「……まとめ売り」
単品ではなく、
セットで売る。
価値を上げて、
単価を上げる。
「商人っぽくなってきたな」
軽く笑う。
そのとき。
遠くから声が聞こえた。
「いたぞ! あいつだ!」
「……早いな」
昼間の男が、
今度は数人を連れて戻ってきていた。
「こいつだ! あの水とパンの商人!」
囲まれる。
完全に注目された。
(まあ、そうなるか)
一人が前に出る。
「俺にも売れ」
別の男。
「いや、先に俺だ」
さらに。
「薬はないのか?」
(……来たな)
需要が一気に広がる。
俺はゆっくり立ち上がる。
「順番に来い」
声を張る。
「商品はある」
「塩・砂糖もある。」
ざわつく空気。
「だが――」
一拍置く。
「タダじゃない」
当たり前だが、あえて言う。
「銅貨でも銀貨でもいい」
「払えるやつから売る」
シンプルなルール。
だが、それだけで――
秩序ができる。
「……並べ!」
誰かが叫ぶ。
自然と列ができていく。
(チョロいな)
俺は内心で笑う。
箱を開ける。
パンを並べる。
「一個、銅貨五枚!」
次々と売れていく。
「俺も!」
「三つくれ!」
「全部でいくらだ!?」
金が集まる。
銅貨。
銀貨。
どんどん増えていく。
「……回ってる」
この世界の金が、
俺のところに流れてくる。
そして――
それがそのまま、
現代の商品に変わる。
「完全に、経済の中枢だな」
気づいたときには遅い。
もう、この村は――
俺なしでは回らない。
その夜。
焚き火の前で、
俺は硬貨の山を見ていた。
「……いくらあるんだ、これ」
数えるのも面倒だ。
とりあえず、
まとめて入れる。
画面に近づける。
光に変わる。
【+100】
【+1000】
【+100】
数字が跳ね上がる。
【残高:47800円】
「……は?」
思わず固まる。
「一日で……四万超え?」
笑いが込み上げる。
「バカか、この世界」
いや違う。
バカなのは――
この構造だ。
「供給が存在しない世界に、供給を持ち込む」
それだけで、
価値は跳ね上がる。
「しかも独占」
競争相手がいない。
「そりゃこうなるか」
画面を開く。
【医薬品】
指が止まる。
「……そろそろ行くか」
次の段階。
食料で掴み、
医療で縛る。
「これやったら……戻れないな」
一線を越える。
だが――
「関係ないか」
小さく笑う。
もうとっくに、
普通の商売じゃない。
「これは」
静かに呟く。
「支配だ」
火が揺れる。
その光の中で、
俺の影は――
少しだけ大きくなっていた。




