第二話:銀貨五枚の価値
男が飲んだ一本。
そして未開封の四本。
――合計五本。
俺の手の中には、銀貨が五枚あった。
「……つまり」
指で一枚ずつ弾く。
チャリン。
チャリン。
「五千円か」
思わず笑みがこぼれる。
この世界では高級品扱いの“安全な水”。
だが俺にとっては――ただの仕入れ商品だ。
「これは……いけるな」
すぐに画面を開く。
【残高:5000円】
さっきまでゼロだった数字。
それが、今ははっきりと表示されている。
「じゃあ次は――」
検索欄に入力する。
【パン】
結果がずらりと並ぶ。
食パン。
ロールパン。
菓子パン。
業務用セット。
「……安いな」
この世界のパンは硬くて、黒くて、正直まずい。
それを考えれば――
「これ、勝てる」
俺は迷わず選ぶ。
【やわらかロールパン 12個入り】
【天然水 2L × 6本】
【塩・砂糖】
次々とカートに入れる。
「食料革命だな、これ」
合計金額を見る。
【合計:4820円】
「……ぴったりじゃん」
購入ボタンを押す。
――次の瞬間。
ドン、ドン、ドン。
連続して現れる段ボール。
「うわ、結構来たな……」
慌てて周囲を確認する。
幸い、夜だ。
誰もいない。
一つずつ開ける。
ふわっと広がる香り。
「……やば」
ロールパンを一つ手に取る。
柔らかい。
白い。
温かい気さえする。
この世界の人間が見たら、間違いなく驚く。
一口かじる。
「……うまっ」
思わず声が漏れる。
「勝ったな」
確信する。
水で売れるなら、
食料はもっと売れる。
しかもこれは“贅沢品”じゃない。
「毎日必要なものだ」
つまり――
継続的に売れる。
安定した収益。
「……商売として完成してる」
そのとき。
ガサッ。
「……誰だ」
振り向く。
昼間の男が、そこに立っていた。
「やっぱりここか」
「……何しに来た」
男はゆっくりと近づいてくる。
視線は、段ボールに釘付けだ。
「それ……さっきの水と同じか?」
「まあな」
「食い物か?」
「そうだ」
男の喉が、ごくりと鳴る。
「……売るのか?」
(来たな、二回目)
俺は軽く笑う。
「もちろん」
箱を開ける。
まず、水の箱を見せる。
「水もあるぞ」
男の目が鋭くなる。
「……いくらだ」
「一本、銀貨一枚」
一瞬の沈黙。
だが――
「……六本、全部くれ」
即答だった。
(やっぱりな)
「六本で銀貨六枚だ」
男は迷わず金を出す。
震える手で差し出された銀貨。
それを受け取りながら、俺は確信する。
(完全に価値を理解してる)
「ほらよ」
水を渡すと、男はまるで宝物みたいに抱えた。
「……次は食い物だ」
俺はロールパンの箱を開ける。
中の白いパンを見せる。
「……白い」
男が呟く。
「柔らかいのか?」
「食ってみろ」
一つ渡す。
恐る恐る、口に入れる。
そして――
止まる。
動きが。
「……なんだ、これ」
ぽつりと漏れる声。
「こんな……こんな食い物、見たことがない」
そのまま一気に食べる。
「うまい……!」
目が変わる。
完全に“欲しい目”だ。
「いくらだ」
即座に来た。
「一個、銅貨五枚」
男が一瞬考え――
「それも全部くれ」
即答だった。
(完全に掴んだな)
「十二個で、銅貨六十枚だな」
「払う」
男はすぐに金を出す。
「明日もあるか?」
「仕入れ次第だな」
「……頼む」
真剣な声だった。
男は、水とパンを抱えて去っていく。
その背中を見送りながら、俺は呟く。
「水で……銀貨六枚」
「パンで……さらに上乗せ」
手元の金を確認する。
「回り始めたな」
これはもう偶然じゃない。
仕組みだ。
ビジネスだ。
いや――
「流通そのものを握る」
画面を開く。
【医薬品】
指が止まる。
「……次はこれか」
風邪薬。
消毒液。
抗生物質。
この世界では“治らない病気”が、
簡単に治る可能性がある。
「パンで信用を作って」
「薬で支配する」
小さく笑う。
「順番としては完璧だな」
夜空を見上げる。
異世界の星は、やけに綺麗だった。




