第二十五話:王都を動かした味
店の中。
笑い声は、止まらない。
――その時。
俺
「……そうだ」
厨房の奥へ向かう。
リオナが眉をひそめる。
「まだ何か?」
「仕込みじゃない。“次”だ」
箱を取り出す。
丁寧に包まれたそれは、
今日のために用意していた“別枠”。
猫人が目を丸くする。
「それ……出すのか?」
「ああ」
「ここで出さないと意味がない」
俺は箱を抱え、
王の前へと進み出る。
「陛下」
王が視線を向ける。
「これは?」
俺は、静かに箱を差し出した。
「本日の御礼に」
「お持ち帰り用の品です」
蓋を開ける。
中に並ぶのは――
艶やかな高級チョコレート。
しっとりと巻かれたチョコロールケーキ。
深い緑を帯びた抹茶ロールケーキ。
店内に、甘い香りが広がる。
姫が身を乗り出す。
「まだあったのか!?」
「食後の“別腹”です」
王は、わずかに目を細めた。
「……用意がいいな」
俺は続ける。
「大臣方、側近の皆様に――」
「お配りください」
(先行投資だ)
静寂。
その意味を、全員が理解した。
王が認めた味。
それを、“持ち帰らせる”。
広がる。
一気に。
止めようがない速度で。
リオナが小さく息を吸う。
猫人が低く笑う。
姫は――
にやりと笑った。
「抜け目ないな」
王は、しばし箱を見つめ――
やがて、口元を緩めた。
「よかろう」
短い一言。
だが、それで十分だった。
側近がすぐに動く。
「大切に運べ」
「はっ」
箱が、丁重に持ち上げられる。
それはただの菓子ではない。
“次の客”を連れてくる種だ。
王は立ち上がる。
「また来よう」
「次は、別の者も連れてな」
「お待ちしております」
俺は頭を下げる。
姫が振り返る。
「次はもっと食うぞ」
「望むところです」
馬車が動き出す。
去っていく一行。
だが――
残されたものは、大きい。
静寂。
そして次の瞬間。
外が、爆発した。
「今の見たか!?」
「持ち帰りだと!?」
「貴族にも回るぞ!!」
「並べ!!今すぐだ!!」
熱が、さらに上がる。
リオナが、静かに言った。
「……広がりますね」
「ああ」
俺は、短く答える。
「一気にな」
店の中。
火はまだ落ちていない。
鍋も、包丁も、全部そのまま。
「……仕込み、足りるか?」
「足りません」
即答。
だが――
誰も止まらない。
「やるしかないな」
俺は袖をまくる。
音が鳴る。
火が上がる。
香りが立つ。
――王の一口。
それは、王都を動かした。
そして今。
店は、“ただの店”ではなくなった。
それでも。
やることは変わらない。
「出すぞ」
「全部」
誰かが笑う。
誰かが走る。
そしてまた、新しい客が来る。
終わりじゃない。
ここからだ。




