第二十四話:王の一口
翌日。
店の前。
異様な緊張感。
「来るぞ……」
「本当に来るのか……」
ざわめきが広がる中――
馬車が止まった。
扉が開く。
王、降り立つ。
空気が変わる。
姫が駆け寄る。
「父上!こっちだ!」
「少し落ち着け」
だが、その目は店を見ている。
興味。
そして――期待。
店内。
全員、静かになる。
「ここが、例の店か」
王はゆっくりと席に着いた。
「はい」
俺は短く答える。
「聞いている」
「甘味、茶、そして――妙な料理があるとな」
「妙、ではなく“新しい”です」
一瞬の沈黙。
王は、わずかに笑った。
「ならば見せよ」
厨房。
俺は一気に指示を出す。
「全部出す」
猫人が目を丸くする。
「全部!?」
「王だ」
並ぶ皿。
ふわふわのロールパン。
追加で用意したメニュー。
カレー――甘口・中辛・辛口。
白い湯気のシチュー。
丸く整えられたミートボール。
濃厚なソースに沈む煮込みハンバーグ。
そして――
焼き肉のたれを使った焼き肉。
料理が並べられた、その瞬間――
側近が一歩前に出る。
「毒見は……」
静まり返る店内。
一拍。
王は、迷いなく言った。
「要らん」
空気が張り詰める。
姫がにやりと笑う。
「当然だな」
まずは――カレー。
「三種あるのか」
「辛さが違います」
王、パンにつけて甘口を口にする。
「……ほう」
「優しいな」
姫、口を挟む。
「甘いだけではないな!」
「後から旨味が追ってくる!油断すると次をすくっている!
次に中辛。
「……来るな」
「だが、いい」
姫、身を乗り出す。
「刺激と旨味の均衡!人を止める気がない味だ!」
辛口。
王の手が一瞬止まる。
「……強い」
だが――
「旨い」
姫、満足げに笑う。
「別の牙を隠しておったな!」
「同じ料理でここまで変えるとは……反則だ!」
シチュー。
「白い……?」
一口。
「……柔らかい」
「包む味だな」
姫、目を細める。
「これは危険だ」
「戦の後に出されたら、皆帰らん」
ミートボール。
「これは食べやすい」
「肉だが、軽い」
姫、頷く。
「噛むほどに安心する味だ」
「子供でも、兵でも、貴族でも食える」
煮込みハンバーグ。
ナイフを入れる。
すっと沈む。
一口。
「……これは」
ゆっくり、噛む。
「肉が溶ける」
姫、思わず声を上げる。
「ずるい!!」
「これは肉の形をした別物だ!!」
そして――焼き肉。
香りが立ち上る。
王の手が止まる。
「この匂いは……」
一口。
「……っ」
明確に、目が変わる。
「濃い」
「だが……旨い。」
さらに一口。
「止まらん」
姫、机を叩く。
「考える前に次を食わせる味!」
「理性を抜いてくる!」
そこへ――茶。
王、飲む。
「……なるほど」
「整うな」
姫、深く頷く。
「暴れた舌を戻す鎮め役だな」
さらに甘酒。
「落ち着く」
姫、ぽつり。
「帰したくない構成だ……」
そして、また料理へ戻る。
しばらくの沈黙。
ただ、食べる音だけが響く。
やがて――
王は手を止めた。
ゆっくりと、こちらを見る。
「……よい」
一拍。
「これは――今まで味わったことのない味」
ちょっとの間――
「美味な味だ」
その一言。
空気が、弾けた。
「王が認めたぞ!!」
「本物だ!!」
「並べ!!急げ!!」
外の列が、一気に膨れ上がる。
姫は腕を組み、満足げに言う。
「当然だ」
「ここは、わらわが認めた店だからな」
俺は息を吐く。
「……やっと終わった」
リオナが首を振る。
「いいえ」
「ここからです」
店の外。
王都中に広がるざわめき。
王が認めた店。
その意味は――
「独占したい者が出ます」
だが、店の中。
笑い声は、止まらない。
それは、終わりじゃない。
ただの、始まりだ。




