第二十三話:姫、通い詰める
「……また来たのか」
開店前。
まだ暖簾も出していない時間。
なのに――
「来たぞ!!」
扉が勢いよく開いた。
「早い」
リオナが呟く。
姫
「遅い!!」
(理不尽だな)
おてんば姫、三日連続。
護衛も、もはや止めない。
止められない。
「今日はカレーだ!」
一直線。
迷いなし。
「朝ですよ」
「だからだ!」
厨房。
「姫様、またですか……」
猫人が苦笑する。
犬人は短く。
「常連」
皿が出る。
湯気を立てるカレー。
姫は、待てない。
「いただく!!」
ふわふわのパンにつけて一口。
止まる。
「……やはり」
二口。
「これだ」
三口。
「これがいい!!」
(完全にハマってるな)
「この辛さ、この香り……!」
姫はスプーンを掲げる。
「戦だ!!」
「口の中で戦っている!!」
「だが調和している!!」
周囲の客がざわつく。
「あれが例の姫か……」
「また来てるぞ……」
「三日連続って本当か?」
姫、聞こえているが気にしない。
「追加だ!」
「早い」
まだ半分残っている。
「冷める前に次を用意しろ!」
だが、その日。
俺はもう一皿、用意していた。
鉄板の上で、じゅう、と音を立てる肉。
香ばしい匂いが一気に広がる。
そこへ――
とろりと絡める、焼き肉のたれ。
姫の動きが止まった。
「……なんだ、それは」
「新作です」
「焼き肉」
「寄こせ」
(即決か)
皿が置かれる。
照りのある肉。
香りは、カレーとは違う“直撃型”。
姫、フォークを突き刺す。
一口。
「……!」
明確に、目が見開かれた。
「濃い……!」
「甘い……いや、違う、深い!」
もう一口。
「噛むほどに、味が出る……!」
三口。
「これは……ずるいな」
「カレーは戦だが……これは――暴力だ」
周囲の客がざわつく。
「なんだあれ……」
「さっきのとは違うぞ」
「肉の匂いがやばい……」
姫、構わず食べ続ける。
「追加だ!!」
リオナが静かに割って入る。
「姫様」
「なんだ」
「こちらも」
差し出される茶。
姫、飲む。
「……ほう」
一拍。
「いい」
さらに甘酒。
「……これはずるいな」
「落ち着いてしまう」
そして――
またカレーへ戻る。
(無限ループ完成)
その様子を見ていた客が、ぽつり。
「……同じのくれ」
「私も」
「それ、全部」
連鎖が起きる。
カレー。
焼き肉。
茶。
甘酒。
同じ流れ。
同じ顔。
「止まらん……」
「なんだこれ……」
「どっちも違うのに、どっちも必要だ……」
「抜けられん……」
昼を回る頃には――
店の外。
人だかり。
さらに外。
噂を聞きつけた貴族の馬車。
「姫様が通っている店はここか!」
「肉料理もあると聞いたぞ!」
中。
カレー二杯。
焼き肉三皿。
「やはり……これだな」
護衛が小声で言う。
「姫様、そろそろお戻りを……」
「断る」
即答。
「まだ検証が足りん」
「日によって味が違うかもしれん」
「毎日来る必要がある」
その日の夕方。
王宮。
「……またか」
王が頭を抱える。
「はい。三日連続でございます」
「何をしているのだ、あれは……」
側近が答える。
「“カレー”という料理に夢中だそうで」
沈黙。
「……連れてこい」
翌日。
店。
姫が言う。
「今日は父も来るぞ!」
ざわめきが走る。
「王様!?」
「本物か!?」
「やばい店になってきたぞ……」
リオナが静かに言う。
「……加速しますね」
俺はため息をつく。
「止まらんな」
だが――
口元は、少しだけ笑っていた。
王族を巻き込み、
貴族を引き込み、
庶民を離さない。
カレー一皿が――
王都を飲み込み始めていた。




