第二十一話:おてんば姫様と甘い侵入
その日の空気は、少し違った。
客のざわめきが妙に軽い。
そして――
「道、空けろー!!」
外から声。
次の瞬間。
扉が勢いよく開いた。
「ここか!!」
飛び込んできたのは――
少女だった。
豪華な外套。
だが着方は雑。
髪は整っているのに、どこか乱れている。
そして何より――
目が、やたらと輝いていた。
「甘いのが無限に食える店ってのは!!」
後ろから、慌てた声。
「姫様、お待ちください!」
衛兵。
侍女。
数人が駆け込んでくる。
「姫様?」
俺が呟く。
少女は胸を張った。
「そうだ! 私は王都から来た!」
一拍。
「――姫だ!」
リオナが小さくため息をつく。
「やっぱり来たか」
「知ってたのか」
「噂が上まで届いてる」
姫はもう席に座っていた。
「早く出せ!」
「何をだ」
「全部だ!!」
(雑すぎる注文)
「おすすめを」
リオナが静かに言う。
数分後。
テーブルに並ぶ。
プリン。
シュークリーム。
茶。
そして――甘酒。
「おお……!」
姫の目が輝く。
「これが……!」
まずはプリン。
一口。
「――うまい!!」
即答。
シュー。
「軽い!!」
さらにもう一口。
さらに。
さらに。
「止まらんぞこれ!!」
数分後。
「……きつい。甘ったるい。」
(知ってた)
そこに、リオナ。
「こちらを」
茶を差し出す。
姫、ぐいっと飲む。
「……ん?」
もう一口。
「……あれ?」
三口目。
「……戻ったぞ!?」
「なんだこれ!!」
立ち上がる姫。
「さっきの限界どこいった!?」
犬人がぽつり。
「リセットだ」
姫、目を見開く。
「リセット……!」
一拍。
にやり、と笑う。
「面白い!!」
「もう一周だ!!」
「やめろ」
遅かった。
二巡目、開始。
周囲の客がざわつく。
「あれが……王都の……」
「姫様ってあんななのか?」
ひとしきり食べたあと。
姫は満足げに椅子にもたれた。
「いいな、ここ」
そして、言う。
「王都に持ってこい」
静まる店内。
「命令だ」
俺は腕を組む。
「断ったら?」
姫は笑う。
「その時は――」
一拍。
「私が通う」
リオナが口を開く。
「条件があります」
全員の視線が集まる。
「王都での販売は制限させていただきます。」
「なぜだ?」
姫が眉を上げる。
「価値を保つためです」
「いつでも手に入るものは、軽くなる」
姫、少しだけ考える。
そして――
笑った。
「いい」
「その代わり――」
指を一本立てる。
「私のところには優先で持ってこい」
さらに姫は続ける。
「あと、これ」
甘酒を指す。
「これも気に入った」
「王都は寒い」
「これは流行るぞ」
リオナが頷く。
「分かっています」
帰り際。
姫は振り返る。
「楽しかったぞ!」
満面の笑み。
「また来る!」
嵐のように去っていく。
静寂。
猫人がぽつり。
「すげぇな……」
犬人が言う。
「嵐だな」
俺はため息をつく。
「……面倒そうだな」
リオナは違った。
少しだけ笑っている。
「違う」
一言。
「一番大きいのを引いた」
王都。
中心。
そこに――
繋がった。
「……忙しくなるな」
俺が言うと、
リオナは静かに答える。
「もう始まってる」
甘味。
茶。
甘酒。
そして――
姫。
全部が絡み合い、
物語は次の段階へ進む。
静かに、
だが確実に。
俺の商売は――
ついに王都を飲み込みに行く。




