第十七話:甘味という新たな武器
「……落ち着いてきたな」
店内を見渡して、俺は呟いた。
猫人はスティックを舐め、
犬人は静かに肉系をかじり、
人間はパンと茶でくつろぐ。
席は埋まり、
流れも安定している。
「“日常”は作れたな」
リオナが帳簿を閉じる。
「ああ」
だが――
「次だな」
「次だ」
即答だった。
「何が足りない」
俺が聞くと、リオナは少しだけ考えて言う。
「“報酬”」
「報酬?」
「頑張った後に食べるもの」
(ああ……ご褒美か)
「日常の上に乗せる価値」
「だから高くてもいい」
(つまり単価アップ商品)
俺は画面を開く。
甘味カテゴリ。
そして――
「これだな」
翌日。
新しい札が出る。
――【本日より販売:甘味】
店内がざわつく。
「甘味?」
「なんだそれ」
並んだのは二つ。
小さな器に入った、なめらかな黄色。
そして――
ふっくらと膨らんだ丸い菓子。
「まずはこれ」
スプーンを渡す。
猫人が首をかしげる。
「……液体か?」
一口。
「…………!!」
固まる。
次の瞬間――
「なにこれ!!」
声が跳ねた。
「甘い……!」
「柔らかい……!」
「溶ける……!」
プリン。
この世界に存在しない食感。
「次」
シュークリーム。
「中に何かあるぞ」
「危なくないか?」
犬人が慎重にかじる。
サクッ。
「……!」
中からあふれるクリーム。
「うまいな……これは」
静かながら、明確な評価。
「甘すぎない」
「だが満足感がある」
(いい反応だ)
カスタードクリームとホイップクリームの二種類がある。
その瞬間。
空気が変わった。
「もう一個!!」
「さっきの黄色いの!!」
「カスタードクリームとホイップクリームの両方くれ!!」
猫人が暴走。
犬人は理性を保ちつつ、確実に追加。
人間は――
「これ、持ち帰れるか?」
(文化が進んだな)
リオナがすぐに制御に入る。
「一人二個まで」
「持ち帰りは箱代込みで追加」
「なんでだよ!」
「崩れるからだ」
即答。
文句を言いながらも、全員従う。
夕方。
在庫、全滅。
「……早すぎるだろ」
俺が呟くと、
リオナは冷静に言う。
「当然だ」
帳簿を見せる。
「利益率が高い」
「回転も速い」
(完全に当たり商品だな)
夜。
店は静かだが――
客の声が残っている。
「明日もあるか?」
「次はいつだ?」
完全に“待たれる商品”になった。
「毎日出すか?」
俺が聞くと、
リオナは首を振る。
「出さない」
「なぜ」
「価値が落ちる」
(やっぱりそうか)
「“限定”にする」
数日後。
――【本日、甘味あり】
この札だけで、人が集まる。
猫人は朝から並び、
犬人は時間を守って来て、
人間はまとめ買いする。
「イベント化したな」
「狙い通りだ」
さらに――
変化が起きる。
「これ、贈り物にしたい」
一人の人間が言う。
「娘が喜びそうだ」
別の客も言う。
「世話になった相手に渡したい」
(来たな)
消費が変わる。
自分のためから、
誰かのためへ。
夜。
「甘味は強いな」
俺が言うと、
リオナは静かに頷く。
「だが、それだけじゃない」
「何がある」
「これは“交渉材料”になる」
(交渉……)
「甘いものは、警戒を下げる」
ゆっくりと言う。
「特に、上に立つ者ほどな」
頭に浮かぶのは――
領主。
酒で興味を引き、
燻製で信頼を得た。
だが――
「もう一段、上げるか」
俺は笑う。
「最高のやつを持っていく」
リオナもわずかに笑う。
「落ちるな」
断言だった。
甘味。
それはただの菓子じゃない。
欲望を刺激し、
記憶に残り、
人を動かす。
そして――
「次は、上を取りにいく」
商売は、また一段上へ進む。
この世界はまだ知らない。
“甘さ”が、支配に変わる瞬間を。




