第十六話:管理者という名の要
「……無理だな」
帳簿を閉じて、俺は天井を見上げた。
猫人。
犬人。
そして増え続ける商品。
酒、ジュース、パン、燻製――
さらに例のスティック系。
「手が足りないな……」
朝から晩まで売って、補充して、数えて、交渉して。
気づけば夜。
(このままだと回らん)
その時。
「困っている顔だな」
振り向く。
そこに立っていたのは、一人の女。
落ち着いた目。
無駄のない動き。
簡素だが清潔な服。
「……商売人か?」
「元、だ」
短い返答。
「今は職を探している」
「何ができる」
「見ることと、数えること」
「具体的に」
「在庫、金、流れ、人」
即答だった。
「嘘を見抜くのも得意だ」
(当たりだな、これ)
「名前は」
「リオナ」
その日のうちに試した。
「じゃあ、これ全部任せる」
山のような商品。
猫人の列。
犬人の列。
混ざり始めた人間客。
普通なら混乱する。
だが――
「猫人は右列」
「犬人は左」
「人間は中央で待て」
一声。
それだけで、流れが整う。
(おいおい……)
さらに。
「次、三本まで」
「はい、銅貨九枚」
計算が速い。
間違えない。
「偽物は持ち込むな。焼印を見ろ」
犬人が頷く。
猫人は文句を言いながらも従う。
「……すげぇな」
思わず漏れる。
リオナは振り向かない。
「まだ足りない」
そして――
帳簿を手に取る。
「これ、ずれている」
「は?」
「昨日の猫人の売上、三本分多い」
「……なんで分かる」
「減り方が違う」
(怖ぇなこの人)
夕方。
売上をまとめる。
「銀貨……こんなにか」
以前とは比べ物にならない。
「管理する者がいなかっただけだ」
リオナが淡々と言う。
「売れる仕組みはできている」
「だが、漏れていた」
核心だった。
夜。
「条件を聞こう」
俺は言う。
リオナは少し考え――
「日当ではいらない」
「じゃあ何だ」
「割合だ」
(やっぱり来たか)
「売上の一割」
高い。
だが――
「いいだろう」
即答した。
「その代わり」
「なんだ」
「全部、任せる」
リオナは初めて、少しだけ笑った。
「いい判断だ」
翌日。
変わった。
明確に。
「在庫はここ」
「高級品は別」
「猫人商品、犬人商品、人間商品で棚を分ける」
整理される。
見やすくなる。
回転が上がる。
「……速ぇ」
行商人が呟く。
「昨日の倍は売れてるぞ」
猫人は相変わらず騒がしい。
犬人は静かに買う。
人間は様子を見ながら増えている。
そして――
全てが、滞りなく流れる。
昼。
「……あの人、誰だ」
誰かが言う。
「新しい管理者だ」
「怖いな」
「だが安心する」
評価が広がる。
夜。
「いい流れだ」
俺が言うと、
リオナは首を振る。
「まだ序盤だ」
「何が足りない」
「“縛り”がない」
(縛り?)
「今は誰でも買える」
「誰でも売れる」
そして、静かに言う。
「だから奪われる」
横流し。
価格崩壊。
「じゃあどうする」
「簡単だ」
リオナは帳簿を閉じた。
「仕組みにする」
その目は、冷静だった。
「契約と、独占」
広場の灯りが消えていく。
だが――
商売は、次の段階に入る。
力任せの売りから、
支配へ。
「……いい人材拾ったな」
俺は呟く。
その横でリオナが言う。
「いい商売を見つけただけだ」
静かに。
だが確実に。
“組織”に変わり始めていた。




