第十五話:犬人族と忠義の味
「……また増えてるな」
広場の端。
猫人たちの列は、もはや名物になっていた。
「例のやつ、まだか!?」
「一人三本までだって言ってんだろ!」
完全に制御不能寸前。
(これはこれで成功なんだが……)
その時。
「……妙な光景だな」
低い声。
振り向く。
そこにいたのは――犬人族。
がっしりした体。
落ち着いた目。
猫人とは対照的な雰囲気。
「それ、そんなに旨いのか」
興味はある。
だが、飛びつく感じではない。
(タイプが違うな)
俺は少し考えて――
「猫人向けの商品です」
正直に言う。
「……猫人ばかりズルくないか?」
犬人は眉をひそめる。
「……種族で分けているのか」
「いや」
俺は首を振る。
「“合うもの”が違うだけだ」
そして、画面を開く。
(あるな)
選ぶ。
別の商品。
少し硬め。
香りは肉寄り。
食感重視。
――犬用スティック系。
「こっちはどうだ」
一本、差し出す。
犬人は少し警戒しながら受け取る。
匂いを嗅ぐ。
「……肉か」
軽く頷く。
そのまま、一口。
「…………」
噛む。
もう一口。
さらに噛む。
「……悪くない」
反応は地味。
だが――
尻尾が、ゆっくり揺れている。
(分かりやすいな)
「もう一本あるか」
「ある」
差し出す。
今度は迷いなく受け取る。
「……これはいいな」
言葉は少ない。
だが評価は高い。
「腹に溜まる」
「噛みごたえがある」
「無駄に甘くない」
(猫人とは真逆の評価軸)
その日の午後。
――犬人族の列ができた。
ただし。
猫人のように騒がない。
静かに並ぶ。
順番を守る。
「次」
「……一本」
「はい」
淡々としている。
だが――
減り方は同じだった。
「在庫切れです」
「……そうか」
引き下がる。
だが翌日。
また来る。
確実に。
「リピート率、高ぇな……」
行商人が呟く。
「猫人は“爆発”」
「犬人は“継続”だな」
俺は帳簿を見る。
数字が、安定して伸びている。
「どっちも強い」
数日後。
問題が起きる。
「……ちょっといいか」
犬人の一人が、静かに言う。
「なんだ?」
「これ」
見せられたのは――
袋。
似ている。
だが、粗い。
「またか」
偽物。
「味が違う」
「固さも変だ」
犬人は眉をひそめる。
「だが、見分けがつきにくい」
(来たな、第二波)
猫人の時より厄介だ。
犬人は理性がある分――
“納得できない”と離れる可能性がある。
「……対策する」
俺は即答する。
翌日。
新しい札が出た。
――【正規品印:刻印入り】
商品に、小さな焼印。
簡単には真似できない。
「これが本物だ」
犬人たちは、無言で頷く。
「……分かりやすい」
「助かる」
信頼が、戻る。
夜。
「面白いことをするな」
領主が言う。
机の上には――
猫用。
犬用。
両方並んでいる。
「種族ごとに最適化か」
「結果的にそうなりました」
「で?」
領主が、犬用を手に取る。
「これは、人間には?」
(来たな)
「食べられます」
嘘ではない。
「ただし――」
少し間を置く。
「おすすめはしません」
「ほう?」
「合う人と、合わない人がいます」
領主は少し笑う。
「ますます面白い」
広場。
猫人の熱狂。
犬人の静かな列。
二つの流れが並ぶ。
「……世界が分かれてきたな」
行商人が言う。
「ああ」
俺は頷く。
「“好み”で分かれる」
そして――
それはつまり。
「市場が、増えたってことだ」
画面を開く。
次の商品カテゴリ。
【種族特化】
(まだまだあるな)
指を動かす。
この世界は――
まだ、満たされていない。
そして俺は。
それを全部、埋めていく。




