第十四話:猫人族と禁断の一本
「……なんだ、その匂いは」
門の外で、耳がぴくりと動いた。
獣人族。
その中でも、しなやかな体と鋭い感覚を持つ――猫人族。
琥珀色の瞳が、じっと俺の手元を見ている。
「いや、これは……ただの試作品で」
「寄こせ」
食い気味だった。
完全に。
(早いな……)
俺は内心で苦笑しながら、小さな袋を取り出す。
柔らかいペースト状。
細長い容器。
押し出して舐めるタイプの食品。
――通称、CIAO〇ゅ〜る風。
本来は猫用。
だが、この世界の“猫人”にはどう作用するか。
「一応、食べ物だが……」
「早く」
もう待てないらしい。
袋の先を切ると、ほのかに魚の香りが広がった。
その瞬間。
「ッ……!!」
猫人の耳がピンと立つ。
尻尾が、ぶわっと膨らむ。
(やばい、反応がデカすぎる)
恐る恐る差し出すと――
ぺろ。
「…………」
ぺろぺろぺろぺろぺろ。
止まらない。
目が、完全にトロけている。
「なにこれ」
「……美味いか?」
「美味いとかじゃない」
ぺろぺろぺろぺろぺろ。
「これ、ダメなやつ」
断言だった。
(終わったな、これは)
数分後。
猫人は、ふらふらと後ろに下がる。
「……もう一本」
「いや待て」
完全に中毒の顔だ。
だが――遅かった。
「おい!!それ何だ!!」
別の猫人が寄ってくる。
さらに一人。
また一人。
「匂いがする……」
「それ寄こせ……」
「さっきのやつ何食ってた……?」
囲まれた。
(あ、これダメな流れだ)
最初の猫人が、震える声で言う。
「それ……売るのか?」
「……売るつもりではある」
「いくらだ」
「……銅貨三枚」
一瞬、静寂。
次の瞬間。
「買う!!!!」
「俺も!!」
「全部くれ!!」
爆発した。
――その日。
猫人族の間で、“例の一本”が広まった。
最初は噂。
次に行列。
そして――争奪戦。
「一日三本まで!!」
「嘘つけ昨日は五本食ってただろ!!」
「転売するな!!!」
完全に社会現象だった。
酒の時とは違う。
理性が吹き飛んでいる。
(やばい商品を出してしまったかもしれん……)
だが、売上は跳ねた。
銀貨。
金貨。
信じられない速度で増えていく。
そして――
数日後。
領主館から呼び出しが来た。
「……猫人族が、暴れているらしいな」
領主が、静かに言う。
「原因は――お前の“餌”だ」
(餌って言うな)
だが否定はできない。
「……申し訳ありません」
頭を下げる。
すると領主は、少しだけ口元を緩めた。
「まあいい」
そして、机の上に一本置かれた。
――未開封。
「これ、私の分はあるのか?」
(あ、終わったな)
静かに。
だが確実に。
この世界は――次の段階へ進もうとしていた。




