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カートに入れるだけで世界を変える ~異世界通販で文明侵略~  作者: レモンティー


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13/31

第十三話:口に入る支配

数日後。

呼び出しが来た。

「……領主様がお会いになる」

(早いな)

俺は小さく息を吐く。

広場での一件。

あれで終わるとは思っていなかったが――

「場所は屋敷だ」

「分かった」

俺は用意していた箱を持ち上げる。

「……それ、持っていくのか?」

行商人が呆れたように言う。

「ああ」

俺は荷を軽く叩く。

「挨拶は大事だろ」

中身は――

燻製ハム。

燻製チーズ。

ソーセージ。

そして、高級ワイン。

「挨拶にはちょうどいい」

「いや、ちょうどいいってレベルじゃねぇだろ……」

(分かってる)

これは“贈り物”じゃない。

「仕込みだ」

屋敷。

石造りの高い門。

整えられた庭。

無駄に広い空間。

通された部屋は、やけに静かだった。

(分かりやすいな)

通されるままに進む。

重い扉の前で止まり――

開く。

中。

領主が座っていた。

「来たか」

落ち着いた声。

先日の男。

だが、今は“上”の席にいる。

「お招きありがとうございます」

俺は頭を下げる。

「例の商人か」

「はい」

「……面白いものを扱うと聞いている」

視線が、こちらの箱に落ちる。

(当然、そこ見るよな)

「つまらないものですが」

俺は箱を開ける。

中身を並べる。

燻製ハム。

艶のある断面。

生ハム。

綺麗な薄ピンク色、

燻製チーズ。

濃い香り。

ソーセージ。

脂がじわりと光る。

そして――

瓶。

深い色のワイン。

部屋の空気が、わずかに変わる。

「……ほう」

領主が身を乗り出す。

「これは?」

「保存の効く肉と乳製品です」

「長く持ち、味も落ちません」

ナイフを借りる。

その場で、ハムを切る。

一枚。

皿に乗せ、差し出す。

「まずは、こちらを」

領主は一瞬ためらい――

口に入れる。

咀嚼。

止まる。

「……旨いな」

静かに言う。

だが、その声は確かに変わった。

「香りが……深い」

「燻製です」

「煙で仕上げています」

次に、燻製チーズ。

「こちらも」

一口。

「……濃い」

眉がわずかに上がる。

「酒に合うな」

(そこ来るよな)

俺は笑う。

「ですので――」

ワインを手に取る。

「こちらを」

栓を抜く。

ふわりと香りが広がる。

この世界の酒とは、明らかに違う。

グラスに注ぐ。

深い赤。

光を受けて揺れる。

領主はそれを手に取り――

飲む。

数秒。

沈黙。

そして。

「……なんだ、これは」

低く呟く。

「酒、か?」

「はい」

「ぶどうから作った酒です」

「……こんなものが、あるのか」

もう一口。

今度はゆっくり味わう。

「……先日のものも良かったが」

視線がこちらに戻る。

「これは、別格だな」

(掴んだ)

俺は軽く頭を下げる。

「気に入っていただけたなら何よりです」

「いくらだ」

即座に来た。

(やっぱりな)

「まずは、お試しということで」

「本日は代金は結構です」

「なに?」

「その代わり――」

少しだけ間を置く。

「今後、継続してお取引いただければ」

領主は俺を見る。

じっと。

「……安くはないのだろう?」

「ええ」

正直に答える。

「ですが、それだけの価値はあります」

沈黙。

そして――

「いいだろう」

グラスを置く。

「気に入った」

「定期的に持ってこい」

(成立)

「承知しました」

頭を下げる。

領主は小さく笑う。

「面白いな、お前」

「商人ですので」

「今後に期待しよう」

「はい」

部屋を出る。

扉が閉まる。

静寂。

そして――

「……はぁ」

小さく息を吐く。

(一段、上がったな)

外に出ると、空気が軽い。

空を見る。

「これで――」

領主。

市場。

流通。

全部、繋がった。

「次は」

小さく笑う。

「供給だな」

画面を開く。

【食品】

【酒類】

選択肢は、いくらでもある。

「いくらでも増やせる」

カートに入れるだけで、

上に届く。

「ほんと、便利だよな」

だが――

その裏で。

静かに、歪みも広がっていた。

既存の酒造。

既存の商人。

「……黙ってないよな」

俺は呟く。

「まあ、いい」

視線を前に向ける。

「来るなら、全部受ける」

口に入るものは、

簡単に手放せない。

つまり――

「もう、逃げられない」

この街は、

完全に“味”で支配された。

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