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オーバー・レブ・ヒストリー 〜車を愛し過ぎた少年の国家魔改造録〜  作者: tky@複数作品を同時連載中
第4章:軍縮と国防強化の先にあるもの

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第44話 白煙の軌跡と、無人なる戦場

昭和二十一年(一九四六年)春。


史実におけるこの時期、日本は無条件降伏という悲劇の底にあり、国土は焦土と化し、進駐軍の占領下で飢えと虚脱に喘いでいるはずであった。


欧州ではウィンストン・チャーチルが「鉄のカーテン」演説を行い、アメリカとソビエト連邦による冷戦の足音が世界を覆い始めていた。


アメリカでは、大戦を勝ち抜いた圧倒的な工業力を背景に、重厚な装甲を持つ次世代戦車や、より強大な爆弾を運ぶ戦略爆撃機の開発が急ピッチで進められている。


世界は未だ「より分厚い装甲」と「より大きな大砲」という、旧来の物理的な力比べの呪縛に囚われていた。


だが、九条芳信の「鋼の防潮堤」によって灰燼を免れ、主権を保ったまま復興と高度な技術革新の道を歩む大日本帝国は、世界の軍事常識から完全に逸脱した、未知の領域へと足を踏み入れようとしていたのである。


***


富士の裾野に広がる広大な演習場には、春の暖かな風が吹いていた。


陸軍中将へと昇進した進藤拓也は、コンクリートで覆われた強固な観測壕の中から、双眼鏡を構えて前方を見据えていた。


数キロ先の荒野には、演習の標的として廃棄された旧式の重装甲戦車が何両も点在している。


かつての進藤であれば、あのような強固な陣地を抜くために、どれほどの砲弾と兵士の血が必要になるかと、冷や汗を流して計算したことだろう。


泥濘を這い、銃弾の雨を潜り抜け、肉薄して爆雷を投擲する。


それが進藤の知る「陸戦」であり、その過酷さを少しでも和らげるために、彼は九条芳信の造るトラックや装甲車を憤欲に求めてきたのだ。


しかし、今まさに進藤の目の前で起ころうとしている光景は、彼が長年信じてきた「軍人の常識」を根本から破壊するものだった。


「総員、退避完了。これより、新型対戦車誘導弾『雷火』の発射試験を開始する」


拡声器から無機質なアナウンスが流れ、観測壕の隣に設置された小型のランチャーから、凄まじい轟音と共に筒状の飛翔体か飛び出した。


ロケットモーターの強烈な白煙を曳きながら、それは一直線に標的の戦車へと向かっていく。


大砲の弾とは違い、飛翔体は空中で生き物のように微かに軌道を変えながら飛んでいく。


ランチャーの傍らに座る技術将校が、小さなレバーのついた箱型の操縦装置コントローラーを握り、飛翔体の後部から伸びる極細の誘導線を伝って、手動で進路を微調整しているのだ。


「目標、捕捉……命中します」


技術将校の静かな声が響いた直後、飛翔体は標的戦車の最も装甲が薄い上面トップへと、真上から突き刺さった。


次の瞬間、耳を劈くような爆発音と共に、何十トンもの重装甲を誇るはずの鉄の塊が、内側から吹き飛んだように完全にスクラップと化した。


進藤は双眼鏡を下ろし、唖然としてその光景を見つめた。


「……信じられん。あの薄っぺらい飛翔体一発で、戦車が消し飛んだというのか」


「モンロー効果を応用した成形炸薬弾頭です。装甲の厚さなど、もはや何の意味も持ちませんよ」


背後から聞こえた、底冷えのするほど落ち着いた声。


振り返ると、仕立ての良いスーツを着こなした九条芳信が、無表情に爆発の煙を眺めていた。


「大砲の弾は撃ち出したら最後ですが、これは有線で操縦できる。物陰に隠れた歩兵が、遠く離れた敵の重戦車を一方的に破壊できる時代が来たということです」


芳信は淡々と、まるで明日の天気を語るかのように恐ろしい事実を口にした。


進藤の背筋に、冷たい汗か伝う。


かつて進藤は、軍馬を捨ててエンジンを選んだ。


それは人間を前線へ早く、安全に運ぶための機械化だったはずだ。


だが、芳信が今提示しているのは、全く別の次元の話だった。


「九条。貴様は……戦場から兵士を消し去るつもりか?」


進藤の絞り出すような問いに、芳信は初めて視線をこちらへ向け、冷たく笑った。


「ええ、その通りです。人間は脆く、遅く、不正確で、何よりコストが高すぎる。一人前の兵士を育てるのに二十年かかりますが、このミサイルなら工場で一日千発造れる」


芳信は観測壕の窓から、上空を指差した。


そこには、先日テストを終えたばかりの回転翼機ヘリコプターが、カメラを積んでホバリングし、戦場の状況を後方の司令部へと送信していた。


さらにその遥か上空では、無線で遠隔操作される無人偵察機が、敵の配置を完璧に把握している。


「情報も、打撃も、すべて機械か行う。軍隊とは、巨大な自動処理システムになるんです。血湧き肉躍る白兵戦などという野蛮なロマンは、もう過去の遺物です」


芳信の瞳には、狂気すら感じさせるほどの絶対的な合理性が宿っていた。


進藤は、深い恐怖に包まれた。


この男は、国家を守るという軍人の矜持すらも「非効率な精神論」として切り捨て、すべてを論理と数字で上書きしようとしている。


もしこの技術が完成すれば、日本に地上戦で挑もうとする愚かな国は世界から消え失せるだろう。


無数の無人機と誘導弾が、近づく敵を自動的にすり潰すだけの「防衛工場」が国土を覆うのだから。


圧倒的な力による平和。


しかしそれは、進藤の知る軍隊の死を意味していた。


「……俺は、恐ろしいよ。九条」


進藤は震える手でタバコを取り出し、火を点けた。


「お前かどこまで先の未来を見ているのか、俺には想像もつかない。だが、俺たち陸軍は、お前の描いた恐ろしい図面の上を歩くしかないんだな」


「それが、最も出血か少なく、最も確実に国を守る方法ですから」


芳信は冷徹な怪物の顔のまま、静かに頷いた。


白煙か晴れた演習場には、破壊された戦車の残骸だけか、古い時代の墓標のように無惨に転がっていた。

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