22・ピクニック
運転手が魔道車を急停止させ、慌てて乗客に告げる。
「しばらくお待ち下さい!」
そう言うと、すぐに車外に飛び出した。
ここぞとばかりに、大男も魔道車から飛び出る。
物凄いスピードだ。
最後尾から通り抜ける黒く大きな影が、乗り合わせた客たちには、何かはわからなかったらしい。
一瞬、熊かとも思ったようだが、まさか熊のはずはない。
しかし、窓から外の様子を伺うと、やはり熊が仰向けに倒れている。
その姿が、どこかで見たことがあるな…と乗客たちが思い浮かべる。
(ああ、金持ちの家にある熊の敷物だ)
しかしよく見ると、熊のような大男が倒れているだけだと気付き、胸をなで下ろしていた。
閑話休題。熊のような大男…ウィリアムが、ハァーハァーと深呼吸を繰り返していると、アイリーンとテュルソスの少女たちもバスから降りてきた。
「ウィル、大丈夫…?」
「ウィリアム様、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だ…。問題ない…」
ウィリアムは、心配する少女二人に、ヒラヒラと手を振りながら答える。
そうして深呼吸を続けると、気分も大分楽になってきたようだ。
大男はのそりと起き上がる。
「ふー…もう大丈夫だ。心配かけたな、お前ら」
確かにウィリアムの顔色も先程の土色に比べると幾分、平常に戻っているようだ。
少女たちも、安心し笑顔で頷きあっている。
しばらく後、よっこいしょと、ウィリアムは立ち上がる。
顔色も戻り、気分も良くなったらしい。
「それにしても、なんでバスが止まったんだ?まさか俺の為ってわけでもないよな?」
そんなことを言いながら、バスの前部に運転手がいるようなので、そこに歩いていく。
その後から、不思議そうな顔を見合わせながら付いて行く、少女二人。
そこで三人が見たのは、土砂や倒木に塞がれた山道であった。
「おいおい!こりゃどうなってやがんだ?」
「それが、この辺りは昨日まで大雨が降ってまして、そのせいで土砂崩れが発生したみたいです。いやー困ったなぁ。引き返すしかないかぁ…」
ウィリアムが驚きなのか、喜びなのか良くわからない声で運転手に声をかける。
運転手も困った顔でいきなり現れた熊…大男に状況を説明してくれた。
カイナに引き返すしかないらしい。
「次の街まで、どのくらいなんだ?」
「えっと…あと二時間くらいですかね…この山道を抜けたらすぐですね」
そうか、とウィリアムは車内へ戻ろうする。
そして、少女二人へ嬉しそうに声を掛ける。
「二人とも、ここから歩くぞ!」
ーーー
ウィリアムが時刻を確認すると、正午を少し過ぎたくらいである。
このまま、運転手が言うようにカイナまで引き返したら王都到着が一日以上遅れてしまう。
目的地である街まで魔道車で二時間の距離まで来たのだ、山を突っ切れば、遅くとも夜には到着するだろう。
最悪、野営になっても準備はしてきている。
登山に関しては、テュルソスは問題ないだろう。
アイリーンも、巫女修行で山籠りくらいしているはずだ。
必要であれば、少女の一人や二人、担いで登っても良かった。
そのように判断したウィリアムは、ここからの登山を決断。
決して、魔道車に乗りたくない為ではない…。
運転手は、この辺りは野生動物や、下手したら魔物が出るかもしれないと心配していた。
「そんなもの、今日の晩飯だ!」
と、ウィリアムは吐き捨てる。
そうして、三人は土砂崩れで塞がれた山道から横に逸れ、やや迂回したルートから次の街を目指すことにしたのである。
王都育ちのウィリアムだったが、マラソンで鍛えた健脚がある。
しかも、研究員時代にはソフィアらと共に、魔石が眠る場所、所謂魔素溜まりを探して山中でフィールドワークを繰り返していた時期がある。
そうした理由から、山に対しては一家言あるのだった。
念の為にと、等高線が入った地図も持ってきたウィリアム。
決して、魔道車に乗りたくない為に持ってきた訳ではない…。
その地図を慣れた様子で、これも念の為にと用意してきたコンパスと一緒に方角を確認し、ルートを決定する。
その間、少女二人には昼飯のお弁当を食べさせる。
まるでピクニックのようでもある。
ウィリアムも、朝からほとんど食べていないので、片手間にサンドウィッチを食べる。
昼飯も終わり、ルートも決定したので、三人は登山を開始した。
ウィリアムはアイリーンに登山経験を確認したところ、やはり修行の一環で経験があるらしい。
それなら大丈夫そうだと安心し、次にウィリアムはテュルソスを見る。
小さな相棒も登山には文句はないらしい。
むしろ、キョロキョロと周りを見渡して、自然を楽しんでいるようだ。
そうして、順調に歩みを進める三人。
先頭にテュルソス、真ん中にアイリーン、そして最後尾にウィリアムである。
昨日までの大雨とやらで、地面は多少ぬかるんでいるが、そこまで問題にはならない。
一番心配していたアイリーンも難なくついてきている。
テュルソスも後ろを歩く少女を気遣う余裕はあるようだ。
これなら、予定より早く目的の街に到着するかもしれない。
そう考えていたウィリアムだったが、彼の顔にポタッと水滴が一つ落ちてきた。
上空を見上げると先程まで晴れていたはずが、いつの間に雲がかかっている。
山の天気は変わりやすいと良く言う。
よりにもよって、今かと、彼は苦々しく空を見上げていた。
そして、雨が降ってきた…。
慌てて、雨宿りできそうな木や岩場を探す
「こっち…!」
テュルソスがなにか見つけたようだ。
彼女が指さす方を見ると、大きく口を空けた洞窟のような入口がある。
急いで三人はそこへ避難するのであった。
「フー。助かったな。ちょうどよく洞窟があって良かったぜ。良く見つけたな!ルー!」
「ルーの観察眼を褒めるが良い…」
「ルーちゃん!凄い!」
テュルソスがドヤ顔で胸を張り、アイリーンがパチパチと手を叩いて褒めている。
その様子を苦笑しながら見ていたウィリアムだったが、何かに気が付く。
「ん?これは…なんだ?」
よく見ると洞窟だと思っていたその場所には、何か紋様らしきものが刻まれている。
明らかに人工的に作られた形跡…ここは遺跡であった…。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
もし少しでも「続きが気になる!」「面白いかな?」と思って頂けたら、下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援頂けたら今後の励みになります。
ブックマークも嬉しいです。
よろしくお願いします!
熊の敷物はお金持ちの家にあるイメージです。
今はあるのでしょうか?
そういえば、大小コンビの服装の記載ないなぁと気付きました。
そのうちどこかで入れ込みます…。




