23・古代遺跡
洞窟…遺跡らしい空間からウィリアムは外を眺める。
まだ雨は降り注いでおり、先程より雨脚が強くなっているようだ。
自分一人であれば強行軍を行っても良いのだが、少女二人連れでは何かあってからでは遅い。
「ここで、しばらく足止めだな…」
大男は少女二人に声を掛ける。
アイリーンとテュルソスの二人もこの場所がただの洞窟ではなく、何かの遺跡だと気付いたのだろう。
興味深げに周りを見渡している。
ウィリアムも辺りをより詳しく観察する。
入口付近は人間二人分くらいの幅があり、よく見ると何かが動いた形跡がある。
おそらくこの遺跡は長い間、岩などで塞がれており、最近の大雨でその岩が流され、入口が開いたのかもしれない。
今、雨宿りをしている、この通路の様な空間は充分な広さがあり、高さはウィリアムが立っても余裕がある。
横もウィリアム三人分程の幅だろうか。
奥の方は、おそらく地形的に下に続いているらしいが、暗くてどこまで続いているか分からない。
クンクンと鼻を利かせると、奥の方からカビ臭さが漂ってくる。
やはり長い間、塞がられていたのだろう。
十年、一〇〇年、それともそれ以上か…。
ウィリアムは遺跡研究の専門家ではないが、様式や紋様を見る限り[魔法帝国時代]の未発見遺跡だと予想する。
[魔法帝国時代]
教団の成立以前、そこからさらに前時代に栄えたといわれる古代文明。
この聖ハズマ王国が位置する大陸全域を支配し、今では考えられない高度な魔法技術で栄華を極めたらしい。
教団の教典では、その傲慢さが神の怒りに触れ、一夜にして大火に焼かれ、大水に流されたと教えている。
現代ではこの聖ハズマ王国内でも、この時代の大小様々な遺跡が発見され、その実態の研究が進んでいるようだ。
当然、学術集団の一面を持つ教団は、積極的にこのような遺跡を発掘・研究している。
そうして時折、遺跡からは古代文明の生活魔道具らしきものや、何に使うか分からない遺物、さらには魔道書などが発見されている。
現在、使用している魔道具の中には、この古代魔道具を研究解析して実用化されたものも多い。
しかし、貴重な遺物や魔導書は教団内で厳重に管理、秘匿されている。
それは教団だけではなく、他の周辺国家も似たようなものである。
ソフィアも遺跡研究に大層興味があり、ウィリアムもよく未発見の遺跡捜索に付き合わされていた。
彼女が発見解析して実用化された古代魔道具は非常に多い。
さらに何に使うか分からない物も、色々弄って起動させてしまうので、ウィリアムは気が気ではなかった。
本人はいつも楽しそうにしていたが…。
ーーー
しばらくここで雨宿りをすることに決めたウィリアムは、とりあえず濡れて冷えた身体を温めようと焚き火の準備を始める。
遺跡の入口付近に枝が落ちていたので、何本か集め着火用具で火を着ける。
枝はかなり湿っていて苦戦したが、徐々に暖かい火が灯りはじめた。
三人は荷物を降ろし、小休憩を始めるのであった。
ウィリアムは荷物からコーヒーセットを取り出し、準備を始めている。
しかし、少女二人は何か落ち着かない様子だ。
特にテュルソスがソワソワしている。
火の前に座ってはいるが、あちらをキョロキョロ、こちらをキョロキョロと忙しない。
「駄目だぞ…。今の目的はこの遺跡の探索じゃない。雨が弱まり次第すぐに出発だ。それに古代遺跡ってやつは何があるのか分からん。危険だ」
先程から何か言いたげな相棒に向かって、先に釘を刺しておく。
「じゃあ…雨が降ってる間だったら良いの…?」
「そういうことを言ってるんじゃない。屁理屈をこねるな」
ウィリアムの態度にテュルソスは、頬を膨らませて不満を訴える。
そして、チラリと隣の少女…アイリーンの方を見る。
「リンはどう思う…?ちょっとだけ…この奥…探検に行ってみなくない…?」
「え?わ、私ですか?そうですね…。危険なのはわかりますが、私も少しだけ興味があります…」
優等生な彼女からは意外な言葉である。
少しウィリアムは驚いている。
それとは逆に、その言葉を聞いたテュルソスは、どうだと言わんばかりのドヤ顔を相棒の大男にむける。
「多数決…」
短い言葉だが、有無を言わせない雰囲気がある。
ウィリアムも髪をガシガシと掻き、どうしたものかと思案顔である。
長い沈黙。
ウィリアムは無言でコーヒーを淹れる。
辺りにはコーヒーの良い香りと、パチパチと焚き火の音。
そして、ザーザーと外の雨音が遺跡内に響く。
テュルソスは、いつも眠そうな瞳を期待に染めて、ジッとウィリアムを見つめている。
アイリーンも隣に座る友達の真似をしてか、ウィリアムをジッと見つめている。
…二人の少女の視線に、遂に根負けしたのかウィリアムが口を開く。
「ハァー…。わかった、わかった。そんな目で俺を見るな。少しだけだぞ!」
やったー!と少女二人は抱き合って喜び合っている。
「ただし!俺が危険だと判断したら、すぐに引き返すこと!わかったな?必ずだぞ!」
二人の少女はわかった!と元気良い返事をするのであった。
「ハァー…。まずは、このコーヒーを飲んでからにしよう。せっかく淹れたんだ。勿体ない」
遺跡探検が始まる。
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魔法王国→魔法帝国に変更。
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