20・旅立ち前夜
「さて、今日はここまでだな! ルー! 表の看板を降ろしてくれ! おーい、酔っ払いども閉店だ! さっさと母ちゃんのとこに帰れ!」
今日、用意していた食材も少なくなり、時間も良いところなので、ウィリアムは店を閉めることに決めた。
それまで楽しそうに騒いでいた客たちも、いつものことなのだろう、特に不満もなさそうに大人しく会計していく。
「おっと、そういえば、明日から暫く休みだ! 忘れて来ても開いてないからな!」
その言葉を聞いた客たちも、これまたいつものことなのか、
慣れた様子で反応し、家路についた。
カウンター内で何かを用意したウィリアムは、そのまま店の外へ出る。
そこには数人の浮浪児たちが待っていた。
「ほれ! 今日の残りだ。冷めないうちに皆で食え。それと悪いが、明日から暫く休みだ。他の裏通りの店に当たってくれ。話は通しておく。」
浮浪児たちは元気にお礼と返事をしながら、余りものというか、彼らのために別で用意している料理を美味しそうに食べている。
浮浪児、所謂ストリートチルドレン。
彼らは両親を事故や病気で失ったり、はたまた捨てられたりしたのだろうか。
様々な理由で身寄りを失った子供たちだ。
そんな子供たちが寄り添って、この裏通りで暮らしているのである。
もちろん、この田舎街カイナにも教団が運営する孤児院は存在する。
そこの院長もウィリアムとは顔見知りで、地方の聖職者らしい穏やかな人格者だ。
しかし、どこにでも、そういった場所での共同生活に馴染めない子供は一定数存在する。
そういう子供たちが孤児院から逃げ出し、浮浪児になってしまうのだ。
無理に連れ戻しても、また逃げ出してしまう。
それならと、ウィリアムと孤児院院長は相談し、比較的治安の良いこの裏通りで浮浪児たちの面倒を長年見ているのである。
ここから巣立った子供たちの中には、この裏通りで飲食店を営んでいる者も多く、この活動にできる範囲で協力してもらっている。
今回、そうした裏通りの店に、自分がいない時の面倒を頼むつもりであった。
「ウィリアムのおっさん!ごちそうさま!今日も美味かったぜ!またなー!」
と手を振り、自分たちの寝床に帰っていった。
閑話休題。浮浪児たちに明日からの閉店を告げ、店内に戻ってくるウィリアム。
その様子を店内から覗いていたアイリーンは、メイド服姿のままで祈りを捧げている。
「素晴らしい行いです! ウィリアム様! きっと神は貴方様の行いを必ず見ておられます! おお神よ!」
「だといいんだがな…」
(その格好で言われてもな…喜劇を観賞している気分だ…フン…神か…)
と、本音を内心に留め、少女を適当に流しつつ、カウンター内へ戻る。
「さてと、今日の夕飯は何にするかね〜」
ーーーーー
昨夜同様、弱肉強食の夕食が始まる。
まだメイド服姿のアイリーンも、大分慣れてきたようで、必死に自分の食い扶持を確保しているようだ。
まぁ及第点といったところだろう。
テュルソスもまあまあかな?といった顔だ。
しかし、実はとんでもないスピードで、本人に気付かれないように彼女の皿に料理を盛り付けていた。
ウィリアムでなければ見逃していただろう。
こうして、アイリーンの食事量を(本人に気付かれないよう)増やす計画のようだ。
先程の営業でも最後の方は、テュルソスにくっついて一緒に客を案内したり、簡単な注文も一人で受けていた。
始めはモジモジして壁の花と化していたアイリーンだったが、テュルソスの急な無茶振りに応え、健気に頑張ろうとしていた。
酔っ払いどもの反応も勿論良く、声を頻繁に掛けられていたようだ。
中にはしつこく絡もうとする者やセクハラ紛いのことをしようとする者も少なからずいた。
しかし、その度にウィリアムからの殺気が容赦なく飛び、テュルソスからは物理的にナイフが飛んできた。
そんなこともあり、酔っ払いどもはビビり散らして、当たり障りのない会話しかできなかったようだ。
ーーーーー
食事も終わり、其々が自由に過ごしている。
ウィリアムは食後に、裏通りにある飲食店へ顔を出しに行っていたようだ。
面倒を見ている、ストリートチルドレンの世話を頼んで来たのだろう。
今はお茶を啜りながら、地図を眺めている。
少女二人は、先程取り込んでいた洗濯物を、アイリーンがニコニコと笑顔で畳み、テュルソスが彼女の旅装束のほつれを修繕しているようだ。
テュルソスを、ふと見ると、また何か悪い顔をしている。
碌でもないことを思いついたのだろう。
ウィリアムはその顔を見なかったことにし、明日の予定を少女たちに説明する。
「明日は、朝一番の王都方面行きの魔導バスで出発だ。さっき、お前たちにチケットを買って来てもらったからな。夜明け前に店を出るぞ。しっかり準備しておけ。何度か乗り継いで、列車も使いつつ、何事もなければ四日ほどで王都だ。そうだろ? リン?」
「はい。私がこちらに来た時も、四日で王都からこちらに到着しました」
昔は王都ロデイル―カイナ間は馬車で乗り継ぎを繰り返し、一週間以上かかったが、魔道車の普及でかなり短縮されている。
線路上を走る魔道列車なるものもあるが、王都ーカイナ間の直通は今のところ開通していない。
こんな田舎に魔道列車が来るのは、まだ遥か先のことだろう。
魔道車、魔道列車とは、魔道炉と呼ばれる動力で動く、大型魔道具の鉄馬車である。
魔道列車はそれを何台も連結させたもので、線路上を走行する。
燃料は魔素が濃い場所から採掘される魔石という魔素が凝縮された石で、国と教団が共同で管理している。
二十数年前に、どこかの天才が黎明期の魔道車に、新技術を組み込む研究をしていた。
彼女のお陰で魔道車技術が五十年進んだと言われている。
あの、いつもニコニコと笑う、明るい天才少女…。
「さぁ、明日は早い。さっさと風呂に入って寝るぞ!」
そう言って二人を風呂に行かせる。
アイリーンは昨夜と違って積極的に風呂場へ向かう。
この巫女候補は、今日は眠れるのだろうか…。
ーーーーーー
深夜…
ウィリアムは眠っているようだが、うなされている。
…が効かないぞ…!なんで…が勝手に動くんだ…という意味不明な寝言をいっている。
アイリーンは余程疲れたのだろう、風呂に入り直ぐに眠りについた。
どうやら今回は羊は数えなかったようだ。
そして、テュルソスの部屋からは光が漏れている。
まだ起きているようだ。
何やらチクチクと針仕事をしている。
「…ここの内側をこうして…ここに…これを入れて…フフ…」
また何か企んでいるようだが、このことが明るみになるのは、まだ暫く先のようである。
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アイリーンはモジモジしながら頑張っていたようです。
ウィリアムの殺気なんて想像もしたくないですね。




