19・策士
正午もだいぶ過ぎ、そろそろ夕方になろうとする頃、ウィリアムは開店に向けて仕込みなどを忙しそうにしていた。
勇者酒場の営業開始時間は基本、午後四時からである。
閉店時間は、その時々の客の入りや食材の余り具合で変わるようだ。
昨日は早めに閉店してしまったので、食材が余り気味だ…今日は安く提供するかな、などと考えながら開店準備を進めている。
そこに、アイリーンとテュルソスが外から帰ってきた。
しばらく前に、アイリーンが教団本部へ報告書を送りたいと言い出したので、洗濯も終わっていたテュルソスが郵便取扱所へ案内していたのだ。
ついでに足りない食材の買い出しと、ある用事も頼んでいたので、市場にも寄ってきたらしい。
ちょっとした荷物を二人で抱えている。
二人の頭にはお揃いの髪飾り。
羽根をあしらったデザインで、イミテーションの宝石が装着されている。
色はそれぞれ瞳の色で選んだのだろう。アイリーンが青で、テュルソスは赤だ。
出掛ける前には着けていなかったものなので、おそらく市場で買ったのだろう。
お揃いのものを身に着けられ、アイリーンは満面の笑顔である。
そうこうしているうちに、いよいよ開店の時間が迫ってきた。
この時、テュルソスが何かを思い出したように、わざとらしく手のひらをポンと叩く。
「あ、そうだ…さっき…良いものを買ってきた…」
そう言うと、ゴソゴソと先程の荷物を漁っている。
取り出したのは、1枚の衣服だった。
所謂メイド服というもので、膝丈上の黒のワンピースに、白のエプロンが既に装着されている。
おしゃれな喫茶店などでよく見かける、女性従業員の制服だ。
テュルソスがドヤ顔で持つメイド服は、それより幾分スカート丈が短い気もする。
「これを着て…リンもお店手伝って…?」
テュルソスは、アイリーンに気付かれないようこっそりこのメイド服を買ってきたようだ。
してやったりでメイド服を掲げている。
それを見たアイリーンは顔を真っ青にしながら、もちろん拒絶している。
いくら友達の頼みでも簡単には了承できなかったようだ。
「だ、だ、ダメです。ダメです。そんなうら若き乙女が人前で足を晒すなど、は、破廉恥です! 神のお怒りに触れます!」
昨夜同様、聞いたこともない教義を喚いている。
その時も軽く指摘したが、女性教団員、特に研究員たちは夏場に限らず普通に肌の露出が多い者もいる。
教団には服装に関する規定や教義は一切ない。
封印術など、知識の流出には目を光らせているが、服装の規定は元々学術集団ということもあり、かなり緩いのだ。
流石に女性聖職者たちは楚々とした服装を好むが、夏場は普通に薄着である。
この場合、ただ単純にアイリーン本人が恥ずかしいのだろう。
ちょくちょく言い訳に神を使っているが、その方が罰当たりのような気もする…。
テュルソスはそんな激しく拒絶するアイリーンなど、どこ吹く風である。
また楽しそうに奥の扉へズルズルと連行していく。
おそらく開店間際でメイド服を取り出したのは、アイリーンに考える時間を与えないためだろう。
なかなかの策士である。
まぁ、分かりづらいが、あの時若干セリフが棒読みだった。
ウィリアムはすぐに、何かまた良からぬことを考えているな?と気付いたが、アイリーンはまだその小さな変化に気付けなかったのだろう。
そんな少女たちの背中に、呆れながらも声を掛ける。
「おーい! もうすぐ店開けるからなー、さっさとしろよー」
「た、助けてーー…」
アイリーンの虚しい助命の声が店に響いていった。
「フン。騒がしくなったもんだ…若いっていいねぇー…」
中年の切実な想いである。
数分後、奥の扉から満足げな顔のテュルソスが姿を見せる。
遅れること数秒、スカートの前を下に引っ張りながら、アイリーンはモジモジしながら登場。
顔を真っ赤にし、もちろん耳まで赤い。
不承不承、メイド服を着用し、白のニーソックスと白のカチューシャも装着している。
その周りではテュルソスがフンフンと鼻息荒く、最終チェックをしているようだ。
ウィリアムはそんな少女たちを、昨夜も同じ顔を見たなぁと、なんとなく傍観している。
「さぁ! 開店だ! ルー、看板を出してくれ!」
いよいよ、本日の勇者酒場の開店である。
開店と同時に数組の客が来店する。
昨夜いた常連客もその中にいるようだ。
あんなことがあったのに有難いことである。
テュルソスは素早くテーブルへ案内する。
アイリーンは店の端っこでまだモジモジしているようだが、よく耳を傾けてみると、小さな声でいらっしゃいませと、言っているようだ。
彼女なりに精一杯頑張っているのだろう。
ウィリアムはテュルソスに任せておけば大丈夫だろうと、特に気にしていない様子である。
次々と客が来店し、店は忙しくなってきた。
ウィリアムは料理や酒を次々と用意する。
テュルソスは案内と注文を受ける。
アイリーンはモジモジしている。
こうして、勇者酒場は今日も賑やかに営業を続けていくのであった。
以前にメイドメイドしている服は好きではないと言ったな?
あれは嘘だ!
銀髪美少女メイドが爆誕しました。
やはりこの3人だとよく動いてくれるので筆が早くなります。




