18・いざ!研究室
最初、このおしゃべりなおじさんが何を言っているのか理解できなかった。
並列思考法を使おうか迷ったほどだ。
しかし、徐々に教授の言葉が脳に浸透し、やっと理解し、驚愕する。
驚いた俺がソフィアを見ると、ソフィアはぱっと目を逸らす。
さらにじっと睨んでいると、諦めたのかバツが悪そうに説明してくれた。
どうやら、この見学会はソフィアが仕組んだ、俺の面接を兼ねた教授との顔合わせだったようだ。
「びっくりさせたかった」
「でももし言ったらウィルが緊張しちゃうでしょ?」
「まぁ言わなくても緊張していたけどねー」
などと捲し立て最後は、あはは!と楽しそうに笑っていた。
ソフィアは、急激に魔力学を習得する俺を見て、このまま図書館の研究会で終わらせるのは勿体ないと考えたそうだ。
必ず、ウィルは良い研究者になるはずだと。
そこで、顔見知りだった魔力学研究室のロバート教授に相談したという。
「凄く優秀な子がいるから一度会って貰いたい。教授も絶対気に入るはずだ!」
教授の研究室に入れてあげて欲しいと頭を下げたらしい。
熱心に頼み込まれた教授も、あのソフィアがここまで推挙する俺に興味をもった。
研究室に入れるという話は一先ず保留して、まず俺と会ってみようということになったらしい。
しかし、いざ俺に会って試してみると、予想以上に優秀で研究室入りも吝かではないと思い直したようだ。
俺自身はというと、これまで比較対象がソフィアしかいなかったのだ。
自分が教授に評価されるほどの知識を身に付けているとは全く気付いていなかった。
ソフィアに比べると、まだまだ大人と子供なのである。
当然、俺は魔力学・第一研究室に入りたい。
憧れのロバート教授の元で魔力学の研究をしてみたかった。
あと…今では週に二、三回しか会えないソフィアと毎日会えるかもしれない。
それに、この頃、下町の少年と教団で活躍するソフィアとでは、吊り合いが取れないと引け目を感じ始めていたのだ。
少しでもソフィアのいる場所へ近付きたかったのである。
しかし、教授が俺のことを気に入ってくれたのは良いが、それだけで研究室に所属できるほど世の中は甘くない。
様々なハードルを越えていく必要があるらしい。
そもそも、教団研究者になるには、教団が運営する学校を卒業せねばならない。
学校は六歳の春から入学し、十五歳の春に卒業である。
その後、卒業生たちは各々の進路に舵をきっていく。
十三歳の俺には遅すぎたようだ。
しかし、何事にも抜け道があるようで、研究室へ優秀な人材を迎え入れる推薦制度なるものがあるらしい。
四年に一度行われるこの試験制度は、年齢問わず希望者に対して、一般教養筆記試験と各々の研究対象への論文の提出を課す。
筆記試験結果の上位者かつ論文を室長を含む五名以上の上位研究者が評価し、推薦人になってくれれば、晴れて研究室に所属できるというものだ。
この試験が二年後にあるらしい。
上手くいけば、周りと同じように十六歳のタイミングで研究室入りできる。
そしてもう一つ…これは絶対条件だが、教団信者でなければならないという。
俺の父親は敬虔な教団信者なので、俺は生まれた時に洗礼を受けている。
しかし、ここでいう教団信者とは、洗礼を受けただけの一般信者というわけではない。
正式な儀礼や教典の知識を正しく身に付けた、高位信者という意味らしい。
宗教団体らしい条件である。
大抵は学校や日々の礼拝で儀礼や知識は身に付くので問題はないが、これまでマラソンと魔力学と筋トレに全振りしてきた人生なので、そちらの方は全くからっきしだった。
父親に礼拝に誘われたことは何度もある。それはもうしつこいぐらいに…でもその度に忙しいと断っていた自分を殴りつけたい気分だ。
そこで教授が提案したのは、今から聖職者見習いとして修行してはどうかというものだ。
そうすれば、おそらく一年程真面目に修行すれば、儀礼などが身に付くはずだと言ってくれた。
聖職者見習いはいつでも門戸が開かれているので、今からでも始められる。
俺が目指すのは、もちろん二年後の試験である。
六年なんて待ってられるか…。
聖職者見習いをしつつ、試験勉強と論文を二年で仕上げる…さらに日々の魔素排出の日課も消化しなければならない。
これはなかなか厳しい戦いになりそうだ。
余談だが、見習い聖職者になって修行してくると、父親に伝えたら、泣いて喜んでいた。
将来、俺は陸上選手になると思っていたらしい。
そして、二年後、俺は念願の魔力学・第一研究室の所属を勝ち取ったのである。
研究室入りした俺はソフィアと共に、いや、主にソフィアが色々とやらかしていくのだが…。
やっと、ウィリアム過去編、取り敢えずの終了です。
この後の2人の活躍もアフターストーリーか別視点か、はたまた本編かわかりませんが、書いていきたいですね。
ウィリアム君とソフィア嬢とは、暫しのお別れです。




