17・ウィリアムとロバート教授
「お、おい!ソフィー。ロバート研究室なんて聞いてないぞ!」
俺はコソコソとソフィアに、小さな声で耳打ちをする。
「そう? 言ってなかっけ? ごめんね?」
「こんな大事なことは先に言ってくれ!」
ソフィアは特に悪びれもせず、平常運転である。
「君がウィリアム君だね?」
落ち着いた渋い声だ。
あのロバート教授が、俺なんかの名前を呼ぶ。
今まで生きた中で、一番緊張しているかもしれない。
名前を呼ばれた俺は、ビシッと直立不動になり、
「は、はい!! う、ウィリアム・バッカスです! お、お会いできて光栄です!」
と、まるで軍隊の新兵のような返事を返す。
それを見た隣のソフィアは、クスクスと笑っている。
ロバート教授も俺の大きな声に驚き、苦笑している。
「元気があって宜しい。私はロバート・ステンシルだ。君のことはソフィア嬢から聞いているよ。よろしく頼む」
ロバート教授はそう言いながら、俺に手を差し出す。
俺はその手を両手で握り返す。
緊張のあまり手汗でびっしょりで、その汗はいつも通りピンク色だ。
焦ってそのまま教授の手を握り返してしまったことに気付いた。
俺は慌ててハンカチを取り出し、教授に差し出そうとする。
最初、教授は俺の汗がついた自分の手の平を興味深げに見つめていた。
しかし次の瞬間、まるで新しい玩具を手に入れた無邪気な子供のような顔でこちらに視線を戻す。
似た表情をどこかで見たことがあるような…。
「ソフィア嬢に聞いていたが、君は珍しい過剰魔素吸収症なんだってね。それに魔臓持ちなんだろ?いやー珍しい組み合わせだ! 私が会ったのは初めてだよ。この疾患は以前は魔臓無しにしか発症しないとも考えられてきた。君を含めて過去に十人もいない極めて少ない症例なんだ。後で君の汗をサンプルとして貰えないか? できれば血液も分けてほしいな。少しだけ、ほんの少しだけで良いんだ。」
ロバート教授は物凄い勢いで話し始めた。
しかも徐々に距離を詰めてくる。教授もかなり大柄な人だから、圧も凄いし顔も近い。
俺はその圧に負けて、ジリジリと後退りしていく。
「教授ー。ウィルが困ってるよ!」
と、ソフィアが助け船を出してくれた。
その声に、ハッとなった教授は咳払いをし、テーブルや椅子が並ぶおそらく応接スペースらしき所に歩いていく。
「いやーすまないね、ウィリアム君。許してくれたまえ。年甲斐もなく興奮してしまった。おーい、誰かこちらのお客様方にお茶を淹れてくれないか? さぁ、さぁ、君たちこちらに掛けなさい」
いそいそと応接スペースを片付け、俺たちに椅子を用意してくれた。
ソフィアとグレイスは遠慮することなく椅子に座り、その後から俺も緊張しつつ、おそるおそる椅子に座る。
丁度、所属研究員の男性が四人分のお茶をテーブルの上に置いてくれている。
その時、「ありがとうございます」と言いながら、チラリとロバート教授を観察する。
齢はおそらく五十代くらいだろうか。
長い金髪を後ろで縛り、眼鏡をかけている。
目尻が下がり、優しそうなおじさんだ。
お茶を運んで来てくれた男性と、ソフィアとグレイスを交えて談笑している。
凄くおしゃべりなおじさんなのかも知れない…今も何か一方的に喋っている。
先程も気になったが、骨太で体格が良く、身長も俺と同じくらいだ。
胸板も厚く、鍛えているようで、話が合うかもしれない。
体格だけを見ると学者というより、どこか肉体派の印象がある。
なにかスポーツでもやっているのだろうか?
緊張の為か喉が渇いてしまった俺はお茶を一口飲む。
すると少し落ち着いてきたようだ。
キョロキョロと周りを見渡す余裕も出てきた。
あそこで実施しているのは、なんの実験なのだろう?
あの器具で何を測定するのか?
あちらでは何をしているのだろう?
もっと近付いて見てみたい…
研究室に見学に来て本当に良かった! 見ているだけでも凄く興味深く、楽しい。
テンションがまた上がってきた!
「さて、ウィリアム君、君は魔力学に興味があるようだが?」
談笑が終わったのか、教授は真面目な顔で質問してくる。
その目はなにか試すような鋭さがある。
「は、はい! ソフィアに教えてもらいながらですが…ロバート教授の著作も全て読んでいます。あ、あと最近は論文も読ませてもらっています」
「ほう! 論文まで読んでくれているのかい! それは凄いな! 確か十三歳だったかな? うんうん。将来有望だね」
と、満足げに頷いているが、目は笑っていない。
「では、この論文についてはどう思うかね?」
と、一冊の論文をテーブルの上に置く。
それは数日前に読んだ新しい魔力学の論文であった。
執筆者はロバート教授ではない。
「えっと…新しい切り口だと思います…。でもこれまでの魔力力学論と…少し…矛盾しているのでは…ないかと…。あと、よくよく考察すると…アッシュバインが提唱する…魔力相対性理論とも類似性が…あと、あれも……………。」
と、感じていたことをおそるおそる、ゆっくりとロバート教授に説明する。
それを大人しく聞いているソフィアはドヤ顔をし、ロバート教授とグレイスも何故か驚き顔である。
「い、以上です。俺なんかの分析は、役に立たないと思いますが…」
「素晴らしい! ソフィア嬢から優秀だとは聞いていたが、まさかここまでだとは、驚いた! いやー試すようなことをして悪かった! 許してくれたまえ! うんうん、ソフィア嬢がいきなり会ってほしい子がいると駆け込んで来た時は何事かと思ったが、それも合点がいった。うんうん、これは是非とも推薦の件は前向きに検討しないといけなくなるな! そうだね? ソフィア嬢?」
ロバート教授は俺の分析を聞いてテンションが上がっているようだ。
そして、ソフィアと頷き合っている。
「さて、ウィリアム君。この研究室に来る気はあるかい?」
ウィリアムの師匠となるロバート教授の登場です。
ロバート教授のキャライメージは、ある漫画の主人公のお父さん。謎の骨太ムキムキ体型です。
論文分析のくだりは出来るだけ、自分が難しそうと思う言葉を並べているだけなので、特に意味はありません。文系なので…あんなものしか思い浮かびませんでした…




