15・天才と秀才
数か月後、俺はメキメキと読み書きが上達し、ちょっと難しい本でも一人で読めるようになった。
教えてくれたソフィア先生も自慢げだ。
この時、お互いのことを色々、話したりもした。
体質のことも彼女に伝え、なぜマラソンをしているかもわかってくれた。
その時のソフィアの顔は好奇心で溢れており、俺の特異体質について色々なことを質問する。
やはり珍しい症例のようで、俺を質問攻めにし、聞き取ったことをフンフンと鼻息荒く、ノートに記録していた。
あとは父親が下町で食堂をやっていることや、その手伝いをしていたこと、母親は死んでいないことも話した。
ソフィアは少し悲しそうな顔をしていた。
そして、彼女の方は、実は教団が運営する学校に通っているが、授業が簡単過ぎてつまらないので、この図書館に入り浸っていると教えてくれた。
初めて会った日も、授業を抜け出してこの図書館前でサボっていたらしい。
そんな時、全身ピンクの男を発見した。
一目見て、以前から噂されているマラソンマンだと気付いた。
この時、彼女の母親は妊娠しており、母親の安産祈願のためにマラソンマンを探していたらしい。
そのおかげかどうか、最近元気な妹が生まれたと嬉しそうに教えてくれた。
もちろん、母親も元気だそうだ。良かった…。
読み書きを習得してから、しばらく経ったある日、ソフィアは俺に勉強したいこと、興味のあることはないかと質問してきた。
少し考えた俺は、魔力について学びたいと答えた。
成長異常はこの時、だいぶ緩和されていたが、マラソンを止めてしまうとまた元に戻ってしまうだろう。
この体質を完治することは無理でも、少しでもこの体質と上手く付き合っていくには、魔力関係全般の知識が必要だと以前から考えていたが、それは建前である。
本音は、出来るだけ難しそうな学問を学べば、これからもソフィアと一緒にいられる時間が増えるかもと考えた。
この時は、こちらの本音…下心の方が強かったと思う。
当時はソフィアとの勉強会が楽しくて仕方なく、自分の身体のことは、正直もうあまり気にしていなかった。
化け物と言われた俺にも、ソフィアはいつも明るく無邪気な笑顔を向けてくれるのだから…。
そんな下心も知らず、ソフィアはまた、あの不気味な顔をした後に数冊の本を持ってきてくれた。
俺にも比較的わかりやすい内容だという。
彼女の魔力学に対する知識は大人顔負けで、以前から難しい本を読んでいるようだったが、俺自身が本を読めるようになって改めて彼女の凄さと、異質さが理解できた。
六歳児の知識量ではなかった。
しかも、魔力学だけではなく、様々な学問に精通しているようだった。
彼女のことを人は、天才と呼ぶのだろう。
そんな天才ソフィアと俺の、二人だけの研究会がここに始まった。
そして、数年後…
ーーーー
「ウィル!この新しい論文読んだ?」
「ああ、今読んでいた所だ。いままでにない切り口だな。でも、これまでの魔力力学論と矛盾してないか?」
新年が明けて、しばらく立ったある日。
その日も少し遅れて図書館にやってきたソフィアと、先に新しい魔力学の論文に目を通していた俺は、彼女との議論に花を咲かせる。
下心から始めた魔力学だが、その魅力にすっかりハマってしまった。
ソフィアの指導のおかげもあり、今では魔力学の論文を読むまでに俺は成長していた。
あれから…六年が経ち、俺たちは十三歳と十二歳になっていた。
俺はというと、成長異常はかなり緩やかになっていた。
身体もデカいの範疇に収まり、なんとか化け物は卒業できている。
十三歳の身長ではないのは、確かだが…。
成長異常を抑えるために、魔素の排出は継続している。
化け物を卒業したからと言って油断はできない。
それに、ソフィアとの身長差も考えると…。
話は変わるが、以前は魔素排出のために一日中走っていたが、今はその方法を少し変えている。
一日中走ると、勉強の時間が取れないのだ。
勉強の時間も欲しいと考えた俺は、今度はマラソンをしながら、勉強しようと考えた。
しかし、そんなこと出来るはずもなく、本を読みながら走ってみたら、木に当たるわ、川に落ちるわ、人にぶつかりそうになるわで散々な目にあった。
俺の走るスピードで人に衝突すると、相手は怪我では済まないと思う…。
二度とこんな危険なことはしないと心に誓った。
そこで、取り入れたのは筋トレである。
筋トレだと、家の中で本を読みながら出来るし、今の俺にはうってつけだった。
以前から筋トレというか、家での運動は行っていたが、走る方が性に合っていた俺は、あまり筋トレで魔素排出を行ってこなかった。
しかし、一度本格的に筋トレを始めると、これもなかなか楽しく、これにもハマっていく。
この頃になると、かなり筋肉も付いており、以前の長もやしから大根くらいには、俺の身体は進化していた。
そんなことをある日、ソフィアに話すと、走りながらでも勉強が出来る良い方法があると教えてくれた。
[並列思考法]とソフィアが呼ぶ思考技術。
思考の並列化によって、別々の思考を同時に可能とする特殊技術だ。
彼女はある日、大好きな本を同時に何冊も読みたいと考えたらしい。
そして、五歳の時にこの思考法を独自開発した。
さすが天才である。
発想がぶっ飛んでいる。
彼女の、あの不気味な顔はこの思考法を行っている時に出てしまう顔だそうだ。
余談だが、この並列思考法は教団研究者内で広まり、[瞑想思考法]として教団で秘匿されていくのは別の話である。
閑話休題。この思考法を用いれば、走りながら、全く別の思考をしても大丈夫だと彼女は簡単に言っていた。
走りながら、本だって読めるよ!と、自信満々だ。
「左右の目でそれぞれ、本と前を見れば良いんだよ!」
と、なにか不思議なことを言っている。
その話を聞いた時は、人間には絶対に無理だと思っていたが、ソフィアは「ほら!」と言いながら事も無げにやってしまった。
人間に不可能がないことを知った俺は、まずソフィアに並列思考法のコツなどを教えてもらいながら訓練に励む。
何とか並列思考を稚拙ながら身に付け、次に走りながら本を読む為の技術[思考走法]を習得するために修練を始める。
最初、俺は[疾風迅雷読書術・裏]と呼んでいた。
しかし、ソフィアから物言いが入った。
「そんなの長いしダサいし…裏ってなに?」
とかなんとか言い、無理やり改名させられた。
女子にはあの名前のカッコ良さはわからんのだ…。
主に修練場所は王都郊外の林の中だ。
木を人に見立て、すり抜ける修練をするためである。
[並列思考]を発動し、林の中を本を読みながら兎に角、走り込む。
木に一万回は激突しただろうか?
五年間の訓練と修練の結果、なんとか[並列思考]と、しっぷ…[思考走法]の習得に成功した。
それと同時に、強靭な打たれ強さも獲得していたらしい。
一度、マラソン中に魔道車に轢かれたことがある。
その時は魔道車は大破していたが、俺は無傷だった…。
これも魔臓暴走の影響かもしれないが…。
いまでは、筋トレ、マラソン、勉強を高いレベルで両立出来ている。
さらに余談だが…本を読んでいるマラソンマンに出会えると、試験に合格できるらしいという噂が王都に流れた。
毎年、受験シーズンが近づくと、受験生たちはマラソンマンを血眼になって探し始めるのであった。
一方、ソフィアはというと、以前からの明るさと元気の良さはそのままに、少し天然気味ではあるが、年相応に成長している。
最近、腰まで伸ばしていた銀髪を肩口ぐらいまでバッサリと切ってしまった。
どうやら今の研究活動に、少し邪魔だったらしい。
以前の長い髪も良かったが、今の短い髪もいつも元気なソフィアにとても似合っているし、あと、まぁこれは特に気にもしてないことだが、強いて言うならだが…、日に日に大人っぽく、さらに可愛くなってきているような気がしないわけでもない…。
以前の舌足らずの話し方を茶化してからかうと、ウィルのバカと頬を膨らませる。
それがまぁまぁ可愛いので、ついつい彼女に意地悪をしたくなるのが最近の悩みだ…なぜだろう?
そのソフィアは二年前に、教団が運営する学校を飛び級で卒業し、今は教団本部内のある研究室に所属しているらしい。
前例がないほどの、異例中の異例中なんだよ、とドヤ顔で説明してくれた。
そこで、ある研究をしているそうだが、どんな研究なのかは詳しくは教えてくれなかった。
話しぶりからは、魔力学の研究室ではないらしい。
守秘義務がどうとか言っており、少し忙しそうにしている。
そんなこともあり、今は以前ほど毎日は会えなくなっていたが、週二〜三度のペースで研究会を開いていた。
そして最近、妹が教団本部敷地内にある学校に入学したと、嬉しそうに話していた。
とても可愛く、賢い子で私の自慢なんだと、胸を張っている。
ソフィアが所属する研究室と学校はそこまで遠くないようで、お昼には一緒にお弁当を食べていると、ニヤニヤしながら楽しそうに話してもいた。
意外と姉バカなのだな、とソフィアのまた新たな一面を見ることが出来て俺も嬉しい。
今度、会わせてくれるらしい。
そんなある日、ソフィアが俺にこんなことを言う。
「もし良ければ、教団の魔力学研究室へ見学に来ない?」
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ソフィアは教団始まって以来の天才です。
ウィリアムは秀才の努力家です。そして、ソフィアからの影響を大いに受けております。




