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勇者酒場 〜おっさん元勇者と封印の巫女〜  作者: 古太十三
第二章 邂逅

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14・ソフィーとウィル

「おれは、おじさんじゃない」


と、おじさんに間違われた俺はぶっきらぼうに答え、また走り出そうとする。

そんな俺を不思議そうに首を傾げながら、銀髪の少女はまた元気よく話しかけてくる。


「えー!そんなにおおきいのに、おじさんじゃないのー?じゃあ、おにいさん?」


無視すれば良かったのだが、久しぶりに同年代の子供に話しかけられたので、俺も相手に興味を持ったのかもしれない。

もしくは、ただ単純に嬉しかったのか…。

そう言われ、走り出すのを止めた俺は、目の前の少女を見る。


年の頃は俺と同じか、下のような気がした。

まだ舌足らずが残る話し方から、おそらく年下だろう。

背中まで伸ばした、ウェーブのかかった長い銀髪。

くりくりとした、好奇心が強そうな青い目。

下町ではあまり見ない、綺麗な白いワンピースを身につけている。

手には彼女とは不釣り合いな大きな本を抱えている。

そして、ニコニコと満面の笑顔をこちらに向けていた。

まるで人形のような、絵本から飛び出してきたような可憐な少女だった。


なぜか、自分の顔が赤くなるのを感じながら、俺はそっぽを向き、先ほどの問いに答える。


「おにいさんでもない。おれは子供だ。」


それを聞いた少女は、さらに首を傾げながら、俺をまじまじと見る。


「うそっだー!」


と、ケラケラ笑う。

ムキになった俺も、つい大きな声で反論してしまう。


「ほんとうだ!おれは、まだ子供だ!こんななりをしてるけど、七さいだ!」


それを黙って聞いていた少女はキョトンとしていたが、次の瞬間にはまた笑顔に戻り、そうなんだーと無邪気に頷いている。


「ソフィーは六さいだから、おにいちゃんだね!おにいちゃんがマラソンマンなんでしょ?」


俺を七歳だと信じてくれたのを少し嬉しく思いながらも、聞いたこともない名前で呼ばれたので、マラソンマン?と今度は俺が首を傾げる。


「たしかにマラソンは毎日してるけど…」

「じゃあ、マラソンマンだー!やったー!」


と、俺がなんとなしに言った言葉に、ぴょんぴょんと跳ね回り、大はしゃぎしている。

なにがそんなに嬉しいのか…本当に楽しそうに笑う少女だった。


「じゃあマラソンマンは、まいにち、ここをはしってるの?」


そして、興味深げに俺を見ながら問いかける。

すっかり、この少女のペースに乗せられている俺も、ついつい答えてしまう。


「いや…毎日ってわけじゃない。色々なコースがあって…それにおれはマラソンマンじゃない!ウィリアムだ!」


「マラソンマンはウィリアム?ウィリアムはマラソンマン?」


顔に???という疑問符を浮かべながら、少女は中空を見上げ、黙って考えだした。

それまでの楽しそうな表情が消え、ぼーっと目の前の空間を見つめているが、その目が上下左右に激しく動いている。

少女の突然の不気味な変化に、俺は唖然とする。

しばらくそうしていたが、ぱっとまた笑顔に戻った少女は、わかった!とニコニコしている。


今のはいったいなんだったのだろうか。

なにかの見間違いだったのか?

何事もなかったかのように目の前でまたニコニコしている少女を見ていると、見間違いだったのかなと思えてきた。

そして少女は、俺にぱっと手を差し出しながら言った。


「ソフィーはソフィアだよ!よろしくね!ウィリアム・マラソンマンのおにいちゃん!」


「マラソンマンはいらない。ただのウィリアムだ」


と言って、俺は手を短パンの裾で拭きながら、差し出された手をおそるおそる握る。

暖かく、小さな手だ。

初めて女の子の手を握ったかもしれない。


「うん!ウィリアムだね!じゃあウィルってよぶね!ソフィーのことはみんなソフィーってよぶよ!」


少女は俺の手を握りながら、ブンブンと振る。

そして勝手に俺の愛称を呼んでいる。

ウィルなんて呼ばれたのは、父親以外では初めてだ。

また顔が熱く、赤くなるのがわかる。

思わず俯いてしまう。


「どうしたのー?」


と不思議そうに、少女…ソフィアが下から覗いてくる。

なんでもない!と俺はソフィアに背中を向ける。

まだ顔が熱い。おそらく魔臓暴走のせいだ。


「ソフィーはまいにち、このとしょかんにいるよ!あしたもあえる?ウィル?」


背中から、そんな声が聞こえる。

そうか、ここは図書館だったのか。

俺は振り返らずに、ああ。とだけ答え、そのまま走り出した。


まだ赤いであろうこの顔を、ソフィアになぜか見られたくなかったのだ。


後ろから、またねー。という元気な声が聞こえる。

明日からはこのコースだけ回ろうと考えながら、俺は帰路につくのであった。


…今思えば、この時すでに俺は、ソフィアに参っていたのだろう…。


ーーーーー


翌日、昨日と同じ時間に図書館の前に到着した俺。

キョロキョロと周りを見渡すと、図書館の出入り口からソフィアが手を振りながら、こちらに走ってきた。


「ウィル!きてくれたんだ!」


俺の目の前まで来たソフィアは嬉しそうに、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、ニコニコと笑う。

俺も、またソフィアに会えたことが内心嬉しかったが、そんなことを表情に出さないように、わざと素っ気なく、ああ。と答える。

しかし、そんな素っ気ない俺に対しても、ソフィアはいつものニコニコ顔である。


「このごほんよんでたんだ!いっしょによもう!」


と脇に抱えていた本を俺に差し出してくる。

良くわからないが、難しそうな、大人が読むような本を読んでいるようだった。


「…おれ、字よめないし…字もかけない…」


俺は少し恥ずかしかった。

下町ではほとんどの子供は字なんて読めないし、書けない。

大人だって読めるかどうか怪しいやつがたくさんいる。


父親は店の帳簿付けや教典を読むために、読み書き計算が出来るようだったが。

そんな父親は俺にしきりに勉強させたがったが、この体質克服のための日課マラソンに時間を使うため、勉強は後回しにしていたのだ。


そのことを俺は少し後悔し、俯いていた。


「じゃあ、ソフィーがおしえてあげる!」


そう言いながら、俺の手を引き図書館に向かっていく。

俺たちは、いやいや無理だ。だいじょうぶだいじょうぶ!と、言い合いながら、二人で図書館の中へ入っていくのであった。


この図書館はどうやら教団が運営しているもので、市井の人々に常に開放されているようだ。


勿論、図書館だけあって、小難しそうな本が並んでいる。

ソフィアはその中から、比較的挿絵が多い本を持ってきて、机に俺と隣り合わせで座る。


俺は肩が触れ合う距離に少し緊張していたが、ソフィアはそんなことを気にする素振りを見せず、丁寧に文字を教えようとしてくれていた。


徐々に緊張が取れてきた俺も、わからないことがあれば積極的にソフィアに質問するようになり、どんどん読めてくると楽しくなってきた。


難しくも楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。

外を見ると、日が傾き始めていた。

そろそろ帰らなければ、下町まで飛ばしても二時間はかかる。


流石に暗くなると、走りづらい。

それにソフィアの両親も心配するだろう。

名残惜しいが今日はここまでだ。

ソフィアと明日の約束を交わし、家路につく。


俺は楽しくて、いつも以上のスピードで夕方の王都を走り抜ける。

夕方に出没する、いつもより速いレアマラソンマンを見ると、さらに幸せになれると噂になったのはまた別のお話。

タイトルを「ウィルとソフィー」から「ソフィーとウィル」に変更しました。


ウィリアム・ソフィア邂逅編です。

幼女ソフィアの口語は舌足らずの話し方を表現したかったので、漢数字以外、ひらがな表記にしています。

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