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勇者酒場 〜おっさん元勇者と封印の巫女〜  作者: 古太十三
第二章 邂逅

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13/23

13・マラソンマン

俺は聖ハズマ王国の王都ロデイルの下町で生まれた。

その時、母親は俺を産んで亡くなったらしい。

なので、母親の顔は知らない。


父親は泣き叫ぶ俺を抱きながら放心していたそうだが、近所の下町のおっかさんたちに助けられ、なんとか俺を育てたらしい。


両親とも敬虔な教団信者だったようで、特に母親は巫女候補にもなったことがある教団員だった。


どういう訳か、冴えない父親と結婚し、下町に移り住んだらしい。

黒髪の美人で気立ても良かったが、少し気が強かったと父親は酒を飲みながら教えてくれた。

少し泣いていた…どうやら俺の黒髪は母親譲りらしい。


父親は小さいながらも下町で食堂を営んでおり、評判は上々だった。

俺も赤ん坊の時から食堂で寝かされていたらしい。

下町食堂の喧騒が、俺の子守唄替わりだったわけだ。

物心ついた後は父親の真似をして、食堂を手伝っていた。


しかし、俺はどうやら特異体質、珍しい病気だったようだ。


過剰魔素吸収症


魔力を持つ者、持たない者がいるが、全ての人間は常に魔力の素となる魔素に晒されて生きている。


食べ物や空気中にごく僅かながらも魔素が存在しているからだ。


魔素が濃い地域に行くと、赤い霧として見ることができる。

これが魔素である。


質が高く濃い魔力も赤い煙や湯気のように見え、誰でも視認可能だ。


この魔素を留める器官を魔臓、溜めた魔素を魔力と呼ぶ。

魔力持ちとは、つまり魔臓持ちだ。

魔臓持ちは約一〇〇〇人に一人と少ない。


魔力を持たない者、魔臓無しとも呼ばれる者が魔素を吸収すると、すぐに汗や排泄物と一緒に体外へ排出される。

魔素自体の人体への影響はないと言われている。


過剰魔素吸収症は、魔素を過剰に吸収してしまう体質である。

珍しい体質だが、魔臓を持たなければ特に問題はないらしい。

血尿と勘違いしやすいが、小便の色が少し赤っぽくなるだけだ。


しかし、俺は母親譲りか幸か不幸か、弱いながらも魔臓持ちだった。


俺のように魔臓持ちがこの特異体質になると、どうなるか?


通常であれば、魔臓が魔力でいっぱいになると、身体は魔臓への魔素供給を止め、吸収した魔素は魔臓無しと同じように体外へ排出される。


しかし、俺の場合はこの特異体質のせいか、魔臓への魔素の供給が何故か止まらない。

そして魔臓暴走が起こっている。

そもそも、この魔臓暴走自体が珍しいらしい。


当時の俺には分からなかったが、酒の飲み過ぎで肝臓を壊すのと似ている気がする。

毎日、大酒を飲むようなものだ。


そして、魔臓暴走が招く異常は人それぞれで個人差があるらしい。


魔臓持ちとこの特異体質の組み合わせは、大変珍しい症例なのだ。

魔臓暴走と合わせて、正直なにも分かっていないと、医者は申し訳なさそうに言っていた。

今のところ命の危険はないはずだが、最悪、魔物化の可能性もあるとかないとか…。


そして俺の場合、魔臓暴走が招く異常は[成長異常]だった…。


俺は五歳くらいで、周りの子供より頭一つ分も二つ分も大きく育ち、七歳の時にはこの国の男性平均身長ほどの父親と同じになっていた。


父親も、生まれてからどんどん大きくなる俺を見ながら、こんなものなのかな?と気楽に考えていたらしい。

ひとりで初めての子育てでよくわかっていなかったと、笑いながら話していた…。


日に日に大きくなる俺を見た元看護師の近所のおばさんが、念のためと病院に連れて行ってくれたので、この特異体質が判明した。


医者も、俺がまだ子供だと聞いてひどく驚いていた。

見た目は大人、(かお)は子供なのだから。

当時の俺は背だけが大きいヒョロヒョロの長もやしだったが。


その医者は、詳しくは教団の病院に行くべきだとも言っていた。

しかし、実験動物のような扱いも嫌だし、家にそんな金もなさそうなので、それは保留とした。


ーーーーーー


どんどん大きくなる俺は、周りの子供から当然化物扱いを受けた。

初めはゲンコツで黙らせたが、この身体で同い年を殴ると、大人が子供を虐めているようにしか見えない。


何度か事情を知らない巡警に追いかけられたこともある。

体格が全く違う相手に、弱いものいじめをしているようで、自分でも少し反省していた。


そんなこともあり、俺は周りの子供と距離を置くようになった。


この特異体質は魔素を常に吸収し、魔臓暴走を引き起こす。

ではどうすれば良いか?

単純だ、吸収したそばから排出すれば良い。

だから、俺はひたすら走ることにした。

そして、水を大量に飲む。


深酔いした酔っ払いの扱いと同じだ。

水を飲ませて、小便を大量に出させれば良い。


当時の俺も、吸収し続ける魔素を汗と小便で排出しようと考えたのだ。

ちなみに、当時の俺の汗や小便は薄い赤、ピンクのような色をしていた。


当時の俺は、このままどんどん大きくなり、最終的に巨人型魔物になると考え、本気で恐怖していた。

成長痛で関節が常に痛んだが、そんなことも言っていられない。


俺は必死だった。


初めは休み休み、下町の端から端まで、慣れると王都中を西へ東へ、とにかく朝から晩まで走り続けた。

さらに慣れると、物凄い速さで王都中を走れるようになった。

これも魔臓暴走の影響かもしれない…。


そんなマラソンを雨の日も風の日も毎日続けていたら、当時の王都では俺のことをマラソンマンと呼び、出会うとその日一日良いことがあるなどと噂されていたらしい。


なぜか、俺を追いかけようとする奴や、手を合わせて拝む婆さんがいて、不思議でならなかった。


当時の俺は、いつも白い肌着と白い短パンで走っていたので、汗が染み込んだそれを着た俺は全身ピンクになっていた。


自分でも気付いていたが、同じような服しか持っておらず、走るのに必死で見た目など気にしていなかった。

だが周りの人々からすると、全身ピンクの男が毎日もの凄いスピードで走っているのだ。


変態や化け物と勘違いされても不思議ではない。

逆に幸福を呼ぶなにかと好意的に受け止められて、良かったのかもしれない。


そんな努力の結果か、俺は巨人型魔物になることもなく、成長もだいぶ緩やかになっていた。

そして、無尽蔵のスタミナを手に入れていた。


そんなある日…。

その日は、日課の王都マラソンFコース、スタートから折り返し地点に差し掛かった時だった。

目印にしている大きな建物から引き返そうとした時、大きな声が聞こえた。


「おじさん!マラソンマンだよね!?」


辺りを見渡してもおじさんなどおらず、この場には俺と、声を発したニコニコ笑う銀髪の少女しかいなかった。

どうやら、この元気な少女が俺に話しかけてきたようだ。


俺とソフィアの出会いだった。

魔力だの魔素だの魔臓だの、紛らわしくて申し訳ありません。

アルコールと肝臓の関係と似ていると、なんとなく読んでもらえればなぁと思います。作者もよくわかっていません笑。

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