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救国の悪女  作者: 由芽


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28 王の愚考

「どうなっておるのだ!」


 神が儂を救うために時間を戻したのでは無いのか?

 あの時、聖女は我らの命を奪おうとしていた。空に巨大な魔法陣が浮かんだ後、周囲の兵たちが次々に倒れた。聖女が禍々しく微笑んだ瞬間、1年前の聖女召喚の儀に戻っていた。


 救われたと思ったのだ、あの聖女を騙る魔女が放つ魔法から。この貴き身を救うために神が儂を助けたのだと。


 どれほど強大な魔力を持とうとも、召喚されたばかりの聖女は赤子も同然。すぐに殺すつもりで声を上げたというのに。


 誰なのだ、あれは。


 愚かで、御し易い、異世界の子ども。強大な魔力を有しながらその使い方を理解していない憐れな生贄。


 聖女とはそういうものであったはずだろう。


 だというのに、だというのに。どういうことなのだ。何故あの女は真っ直ぐ、まるで凱旋するかのように悠々と王宮へ向かってきているのだ。


 辺境軍や有力貴族を従えて、民に平伏されながら。おかしいだろう。それは儂のものだ。儂の立場だ。

 何故あの卑しい娘がそこにいる。


 聖女が何か怪しい魔法を使ったに違いない。


「司書を呼べ」


「は、しかし」


「司書を呼べと言っておる」


 愚鈍な側近に再度大声で指示を出すと慌てて部屋を出て行った。司書など、今更呼んでどうするのだと、言いたいことはわかるが、仮にこれが聖女の魔法ならば儂が逃げられる道があるのでは無いか。


「王よ、私のことはとっくに忘れられたものと思いましたが」


「うるさい。今日まで生かしてやった恩を今返してもらおう」


 先王の時代からの相談役であった賢者を、煩わしさから司書として王宮図書館へ幽閉した。

 本当は罪をなすりつけて処刑するつもりだったが、流石に貴族たちからの反発が予想されたこと、何よりこの優秀な魔法使いを殺す術を持たなかったことから、本人の希望通り図書館へ幽閉することとなった。


「はは、面白いことを。殺せるのならば殺してもらっても構わなかったのですがね」


 相変わらず人を食ったような物言いで、年齢不詳な若者の姿が人外じみて気味が悪い。自分よりも遥かに年上であろうに。


「相手の立場を奪う魔法はあるか」


「殿下が魔法に興味を持たれるなんて、昔では考えられませんな」


「うるさい。いつまで教師気取りなのだ。儂は陛下だ」


「これは失礼。そのようなざっくりした魔法はございません」


 それではあの小娘は魔法の力で儂の地位を脅かしているわけでは無いと言うのか。


「では......時を遡る、例えば1年遡るようか魔法はあるか」


 そもそもあの魔法から逃れられず正常に作動したとすれば、この状況はあの魔女が引き起こしたということでは無いか。


「ございます」


「やはりそうか!」


 では儂も1年時を遡れば良い、そして聖女を召喚し無ければ良いのだ。


「やり方を教えろ」


「まず頭上に魔法陣を描きます」


 すす、と浮かび上がった魔法陣に、まずそのやり方を教えるべきだろうと苛立ちが募る。何故賢者であるのにそのようなこともわからぬ。


「ああ、陛下には難しゅうございましたね。では地面に書いてください」


「それをはじめに言わんか」


「次に生贄として陛下が名前も顔も知らない1000人を用意いたします」


「は?1年だぞ」


「ええ、ですから1000人と」


「今からそのような人数用意できるはずが無いだろう!」


 単純な数ならその辺りにいる使用人どもを使えば良いが、名前と顔の知らない、の基準が曖昧すぎる。

 当然名前は覚えていないが、顔だけならば覚えてるものも中にはいるだろう。


「何故顔も名前も知っていてはいけないのだ」


「術の行使時に意識を向けてしまうと、その人物も記憶を有した状態で過去へ戻ってしまうからです」


「それの何が問題なのだ」


「1000人の命を犠牲にして、私欲のために時を戻したと、多くの人間に認識されてしまうことですよ」


 苛々させてくれる。だから、民が儂のために命を使うことの何が問題だと言うのだ。皆栄誉に思うことだろう。


 そう、口を開きかけて、気が付いた。


 儂がここにいるということは、やはりあの時聖女は時を遡る魔法を使ったのだろう。

 あの場にいる1000人の命を引き換えにして。


 許し難い。この貴き命を、幾百の凡夫達と同等に扱うなどますます許し難い。


 しかし、これは良い交渉材料になるのでは無いか。

 儂の記憶があるということは将軍にも記憶があるはずだ。そもそもあの者は反逆者であるが、自らの命を使われたと知っては聖女への盲信も覚めるはずだ。


 我ながら冴えた思いつきに、口角があがる。


「司書よ、魔法陣を用意しろ。念のためだ」


 近衛を呼び出し1000人を王宮聖堂に集めておくよう指示を出す。

 魔女を断罪するには、あの場以上にふさわしい場所もあるまい。


「君の魔力じゃあ1000人の命を吸ったとて、過去に戻ることはできまいが」


 ぼそりと、何事かをつぶやいた司書へ目をやると、何事も無かったかのように頭を下げて部屋を出て行った。

 昔から、何を考えているかわからぬ不気味なやつだ。


 まあ良い。聖女を無効化する方法も、この場で断罪する方法も手の内にあるのだ。有効に活用するとしよう。


体調不良で更新ストップしておりました。

まだしばらく不調は続きますので不定期で更新していきます。

完結まで書きたいと思っておりますので、しばしお付き合いください。

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