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救国の悪女  作者: 由芽


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27 決戦開始

 決戦に相応しい快晴で、昨日よりも楽に馬に乗りミシェルに手綱を握ってもらう。


 昨晩は思わず弱音を溢してしまった。

 ラファエルに励まされ、心配されて、その言葉に胸が軽くなった。


 だけど、これで最後だ。戦争が始まってしまえば、玉座に上がってしまえば、こんな弱音は吐けなくなるだろう。改めて気を引き締める。


「あなたにも、心配をかけたかしら」


 顔だけを後ろに向ければ、口元に笑みを湛えたミシェルがゆるく首を振った。


「体調が戻られて何よりです」


 精神的な不調だとは微塵も思っていなさそうなその瞳に、ある意味でほっとしてしまう。

 あれほど恐ろしかった狂信者だけれど、彼にまだ神の遣いだと認められていることに安堵する。


「ミシェル、あなた初めて私に言ったことを覚えている?」


「勿論でございます。待ち望んだ聖女様との出会いを忘れるはずもございません」


「国を救ってくれ、と私に言ったわね。今日が一つの区切りよ」


 真に救うとなれば、何年何十年とかかるだろう。それでも目先の滅亡を止めるために、そして今後の救国の礎として、今日がある。


「信仰に、忠誠に応えましょう。最後まで付いて来なさい」


 感動で打ち震える気配を背中に感じながら、視線を眼前に移す。

 王都の前にズラリと並んだ辺境軍は壮観で、ラファエルの実力が伺えた。


 南門のゾフィー侯爵は既に待機済みとの伝令が届いていた。後は開戦の狼煙を上げるとともに、ラファエルとシモンに東門西門へと走ってもらい、私と宰相は正当性を主張するために堂々と正門から攻める。


 正門を突破した暁には、ミシェルと共に王の元まで一直線に進む予定だ。

 本当は暗殺の方が簡単だけれど。自軍にもやむを得ない場合を除きなるべく殺さないよう言い含めている手前、殺して終わりとはいかないだろう。


 それに、私と同じようにあの塔の上でこの国の行く末を見届けてほしい。それこそが、彼にとっては死ぬよりも辛い罰だと思うのだ。


 期待に満ちた兵達の視線を受けて周囲を見回す。

 青空は高く、雲ひとつない。


 絶好の革命日和だ。


「あなた達の後ろには私がついている!怯まず進め!自国を悪虐の手から守るために!」


 ラファエル、シモンの頷きを視線の端に捉えて、腹から声を張り上げた。


「全軍前進!」


私の一声と共に、3方向に分かれて進み出す。

 手薄に見せた東西の門が先に落ちるだろう。国王側に兵を分散する余力は無いはずだ。

 正門を攻める私たちは、前軍の兵達の頭上に簡易的な盾を魔法で構築し、弓を弾きながら進む。

 盾を2つ出してしまうと、高度な転移魔法や治癒魔法は流石に使えないが、陣を掘り込んである攻撃魔法ぐらいなら発動できる。

 そして、それで十分だった。


 正門へ複数の魔法陣を展開させる。

 握り込むと共に爆発音が響き渡った。出力は大幅に下げている。門の前の住人達や、兵達がこれで逃げてくれれば良い。


「門は私が切り開こう。止まらず進め」


 敵にまで聞こえる声を響かせて、今度は出力を上げて魔法を発動した。先程よりも大きく門が崩れる。

 怯えたように一斉に射られた弓は頭上に展開した盾に弾かれた。


 門からも溢れ出て戦闘が始まるかと思ったがそうはならない。東西の戦闘に人員を取られて、この数の兵を相手にするだけの余力が残っていないのだろうか。


 当たらぬ矢をひたすら撃ち続けていた兵達も、盾の効果を目の当たりにして、私たちの前進に恐れ、次々と逃げ出した。

 伝令に各門への正門陥落の言葉を伝えに行かせて、悠々と、正門をくぐり抜けた。


 味方の兵達が、敵兵を縛り上げるのを確認しながら辺りに視線を巡らせる。


「私の名はハルカ!召喚されし救国の聖女である。私がこの国を救い新たに神の国を打ち建てる瞬間に立ち会えることを誉に思え!国民は等しく、愛すべき神の子である」


 兵に怯える王都の民に広く伝わるように声をかける。正義がこちらにあると。正しく意識に刷り込めるように。


「敵兵すらも我が民よ。投降すれば危害は加えません」


 そう縛られた兵達に微笑みかければ、ポロポロと涙を流した。前線に立たされている彼らは正規の兵ではなく、スラムから無理矢理連れてこられた素人かもしれない。


 さぞ怖かったことだろう。

 

 家の中からコッソリと覗き見る王都の民達に、馬上から手を振る。

 既に王城まで真っ直ぐ開けた道を、凱旋パレードのように悠々と微笑んで通り抜けた。


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