24 忠誠心の所在
落ち着け、前回の私の世界に彼はいたか?否。一度たりとも彼が私の視界に入ったことはない。
「あなたは、私が王に操られ、この力を酷使されていたら助けてくれたのかしら」
ポツリと落とすように口にした言葉に、慈悲深く目を細めて彼は微笑んだ。剣に手をかけたまま。
「もちろんだ」
優しい言葉、優しい微笑み。それが何だというのか。
前回、私のことを知らなかったわけがない。それでも私に顔を見せたことすらない。
喉元に手がかかって初めて捻り出された言葉に一体どんな価値があるというのか。
馬鹿にするな、と叫びたい。そっと目を閉じて深呼吸をする。惑わされてはいけない。
腹芸ができないなんてとんでもない。さすがは高位貴族。脳筋だと舐めてかかれば揺さぶられるのはこちらだ。
「優しいのね」
聖女推しは効かなさそうだと切り替える。
「大人として当然のことだ」
もしも彼が、前回の時も私を助けるために動いていたならば、ぐらぐらに揺れていただろう。
ああ、良かった。大切な人はわずかでいい。
貴方が口だけの人で良かったと心底思える。
「ねぇ、貴方ほど人格者で、優秀な人があの王に忠誠を誓い続けていることがどうしても不思議だわ。何かきっかけがあったの?」
張り詰めていた空気を溶かすように、つとめて明るい笑顔で部屋のソファに腰掛けた。まずは褒め言葉、相手の価値観を引き出したい。
「そう褒められると照れてしまうが。貴族が王家に忠誠を誓うことに理由がいるか?君についた貴族たちが異端なんだよ」
領地を他国に売ろうとしていた者たちだ。たしかに彼の方が正しかろう。次は同意と共通認識を。親しき間柄だと錯覚を与えたい。
「それはそうね、私だって貴族たるもの本来は王権に最期まで尽くすべきだと思うわ」
「そうだろう。しかし意外だな、君がそんな言葉を吐くなんて」
何より私こそが王家の転覆を目論んでいるというのに、と言いたげな瞳に首を振る。こちらが外装を解けば、既にプライベートな状態である彼に親近感を与えるだろう。
くくっていたポニーテールを解き、寛いで微笑んだ。
「人格者である貴方だから言えるけれど、私だって本当は疑問に思うわ。誰も彼も国を思っていない。民も、貴族も、王も自分のことだけ。主が助ける価値のある国なのかしら、と」
瞳に疑惑の色が浮かぶ前に畳み掛ける、
「本当は宰相や貴方みたいな人が王になるのが良いのでしょうね」
ギラリ、と野心が瞳に燃えた。
やはりそうか、と上りそうになる口角を抑え眉を下げる。
「本当は全部燃やしてもいいんじゃないかと思ったわ。燃やし尽くして一から主の理想の国家を築けば良いと」
冷たく聞こえるように、人ならざる存在の言葉に聞こえるように、なるべく感情を殺す。
「だけど、宰相に出会って考えを改めたわ。貴方の言う通り、私は神の遣い、政治には向かないでしょう。膿を一掃した後は王家の血筋に玉座を返すつもりよ」
不快気に歪む表情に本人は気がついているのだろうか。
「貴方と先に出会っていれば、玉座に近い場所は貴方に任せたかもしれないわ。だって私と同じ考えなんですもの」
「......宰相も将軍も、そう囁いたのか」
「いいえ。彼らはそれを求めていないもの。私は神の御使。働きに忠実な子らに相応の見返りを与えるだけ」
なるべく感情を殺して、
「王になりたい?」
息を呑む。その瞳が一瞬飢えた獣のように獰猛な色を帯びる。
なんて事はない。彼こそ、自身が王になるために、この王家の側に付くのだろう。与し易い方へ。宰相と将軍に守られた聖女など、今更味方になろうが重要なポジションへ着けるかも怪しい。
何度も宰相の名を口にしたのも、同年代で同爵位の彼がより王に重宝されている今までが気に食わず、聖女の治世になった際も重宝されるであろうその状況に我慢がならないのだろう。
「なんて、貴方には失礼な質問かしらね。夜分に失礼したわ」
布石は打った。あとは2日後。
最後にほんの少し鞘から手が離れたのを確認して、行きと同様にテレポートした。




