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救国の悪女  作者: 由芽


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12 自己満足の偽善だとしても

「シモン、ちょっといいかしら」


 翌日盾がしっかり機能していることを確認して、シモンを呼び止めた。維持し続けることは魔力上、さほど問題では無い。全くチートである。

 前回もちゃんと教えてくれる人がいればもっと上手く立ち回れたのに。


 いや、それは甘えだ。


 考えたり、過去の文献を読み込めば気がつけた可能性だってあった。

 状況に流されて、求められるがまま考える事を放棄したのがあの惨状だ。ただただ、帰るための努力しかしなかった。

 今度は絶対に考える事を辞めたりしない。


「なんでしょうか、聖女様」


 前回、ハルカ!と快活に話しかけてくれた彼の姿は無く、圧倒的な力の前に跪くだけの旧友がいた。

 寂しい、と思う資格はない。あの時奪った命の中には彼も居たのかもしれないのだから。


「重症の怪我人のところに案内してほしいの」


「しかし、女性に見せられる状態ではありませんが」


「問題無いわ」


「......かしこまりました」


 少しの逡巡のあと、私が案内されたのは攻撃を受けて片腕や片足を無くした人たちの療養する天幕だった。

 

 ポータルがあれば無くした腕を魔法ですぐに繋ぎ直してもらうこともできただろうに。

 否、あの王では兵のために使う魔力を惜しんだだろうか。


 ここで時間を過ごす間に腐ってしまった腕や足は、もう戻すことはできない。

 魔法は、無を有にするには膨大な魔力量と技術が必要になる。彼らにその伝手があるのなら、そもそもこの戦場にはいないだろう。


 前回、役立たずの護衛たちは私がこの天幕に近づくのを嫌がった、不吉だと。聖女と呼ばれる私が行くべきでは無いと。


 今なら何を馬鹿な事をと思う。何が出来るでなくても、未来ある若者が心身ともに傷を負ったのだ。その心を助けられなくて、何が宗教だ、何が聖女だ。


 無宗教の私ではあるけれど、今は国教を背負って、利用してこの場に立っているのだから、その役目は果たさなくてはいけない。


「こちらです」


 想像より綺麗に保たれている天幕に、ラファエルの気遣いが伺える。それでも、彼らは一様に暗い顔で寝そべっていた。中には痛みに悶える者、幻肢痛に叫ぶ者もいる。


 胸が締め付けられるように苦しくなった。


 前回あの戦の終了後、彼らはどれだけ苦しんだのだろう。ちゃんと立ち直れたのだろうか。故郷に戻って治療を受けられたのだろうか。


 私の訪れに気がついた何人かは立ち上がり、頭を下げようとするもままならない。


 十分な治療も難しいこの場ではリハビリも出来ずにいるのだろう。


「そのままで結構です」


 一人の元へ行き、残っている方の手を取る。


「遅くなってごめんなさい」


 もしかしたら、彼らの中には一昨日腕を無くした者がいるかもしれない。私が中央で仄暗い復讐の喜びに震えている間に命を落とした者がいたかもしれない。

 すぐに彼らのことを思い出せなかった私は、どこまでも薄情で、利己的だ。


「せめて、私の祈りが届きますよう」


 驚きに目を見開き、涙を浮かべた彼の目元を拭う。


 せめて今生きている彼らだけでも元に戻せるよう。


『甦れ』


 今までで一番願いを込めた。彼らの幸が多からんことを。召喚時に私に力を授けた何者かの存在へ、彼らの無事を祈る。


 その願いに応じてか、シンプルに私の魔力量の多さ故か、ざわめきに応じて目を開ければ目の前の彼だけでなく天幕にある全ての人が治癒していた。


「こんなことって......!!」


 背後のシモンから驚愕の声が漏れる。目の前の彼らも自分たちの元に戻った部位を見て呆然としている。


「聖女様、ありがとうございます」


 涙を流しながらお礼を述べる彼に「こちらこそ、私たちの国を守ってくれてありがとう」と頭を撫でた。


さらに涙を流す彼を見て、少しだけ報われた。

 1000人の命と引き換えに戻ってきたこの過去に意味があったのだと、何より自分が思いたかったのかもしれない。






 自分の天幕に戻り、ミシェルに誰も通さないよう言い置く。転移魔法で王宮の執務室へ行くと、数人の部下とともに執務をこなす宰相がいた。部下たちは突然現れた私に身構えたが、元々宰相から聞かされていたのだろう、私の容貌を見て納得したように仕事に戻った。


「おかえりなさいませ、聖女様」


「相変わらず誰の国なのかしらね」


 本来国王がこの執務をするはずの部屋で、ほぼ全ての国政を宰相が行なっていた。

 王は今頃後宮にいることだろう。酒に女に欲深いことだ。


「そのおかげでやりやすいではないですか。首尾はいかがですか」


「西の国境に大規模な盾を展開してきたわ。『偉大なる神の盾』よ」


「会議では口に出しにくい名ですね」


「みんな盛り上がっていたわよ」


「......それで、将軍閣下の勧誘は成功したのですか」


「まだ。明日から馬でこの国に帰ってくるわ。災害に苦しむ民や何もしない貴族を見せてから話すつもり。頼んでいたあれは?」


「纏めておきました」


 この状況下でしっかりと領地経営をしている貴族と徒に財産を食い潰している貴族、領地にろくに帰らず治安が悪化しているような貴族のピックアップをお願いした。


 前者は味方に引き込むために、後者はこの帰路のルートとして通るために。より悲惨な土地を見せて、ラファエルに決断を急がせたい。


「前者の彼らと一度話す機会が欲しいわね。内密に機会を作れる?」


「この段階での接触は危険では?」


「彼らの中には近隣諸国に高値で領地を売って亡命するために経営している家もあるでしょう。この国に残ってもらうためにはこちらが本気を見せなければ。優秀な人材が居なくなっては意味がないもの」


「は、出過ぎた事を申しました。ご慧眼さすがでございます」


「社交辞令は結構よ。あとは魔獣被害についても出没区域と被害をまとめてもらえるかしら」


「かしこまりました」


 少しでも早く行けば、それだけ助かる人がいる。前回遅れた分助けられた人がいるはずだ。

 自分のエゴで巻き戻したこの国の時間を、せめてこれぐらいは巻き戻した意味を見つけたかった。





 

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