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1人でウンウンと唸ってたら、幼竜君にべろりと顔を舐められてしまった。
「うぉ!顔が!顔がヨダレでベタベタに!」
《シェラ!イダイナ リュウ!マモッテ クレタ!ダカラ マモル!シェラ マモル》
…幼竜君。
君にはわかっていたんだね。
「守るなんて言われたの初めてだ。ありがとう幼竜君」
コンコンコン
控えめなノックの音と共に入室してきたのは、ランス隊長だった。
「お?起きてたのか。心配したんだぞ?あれから3日も眠り続けていたし、そいつも、おまえの側から離れないし。陛下なんて毎日様子を見に来てたんだぞ?」
!なんてこった!!
「そんなに眠ってたんですか…」
「無理に魔力を放出したせいで、体に負担がかかったんだろうってことらしい。にしても、よく生きてたな。おまえのお陰で戦いは終わったよ」
よかった。サベル国の兵士達は気の毒だが、ルーの国が守れたことが嬉しい。
「サベル国はどうなりました?」
「あの魔族の一件で、王は反逆者として処刑された。魔族と通じた罪でな。…魔族なんて伝説級の化物が現れて、利用しようとしたんだろうが、結果的に自分の首を絞めることになったんだ。サベル国は今後、ウチの従属国になることが決定した」
従属…では少なくとも、サベルとの戦いは終わったんだな。
「で、だな、そこの幼竜なんだが…どの騎士も選ばなかったんだ。どーしたもんかって思ってたが、どうやらこいつはもう主を決めてるようだな」
んん?
それって…
「私…ですか?」
ランス隊長は大きく頷いた。
「名前を付けてやれ。陛下が特別に魔導騎士隊と竜騎士隊の兼任を許可してくれた。」
竜が竜騎士って、どうなのさ?
でも、この子が望んでいるなら…
「わかりました、名を付けます。最後まで面倒を見ると言ってしまいましたしね。今更、嫌だなんて言えませんよ」
名前か…
「ヴィラ。君の名前はヴィラだ」
私の名前の一部を君に。
ヴィラザバード・シェラハ・メリストフとヴィラの魂を繋ぐ。
《ヴィラ… ボクノナマエ…》
突然、ヴィラの灰色の体が、光だした。
「名前を付けた事によって、魂で繋がれた永遠のパートナーになったな」
ランス隊長は眩しそうに目を細めながらヴィラを見つめていた。
光が収まると、そこには白銀に輝く美しい竜がいた。
《僕の名前はヴィラ。あなたに永遠の忠誠を誓います。偉大なる聖なる竜王よ》
もうここにいるのは小さく弱い幼竜ではない。
立派な成体になった、竜王の眷属だ。
魂が繋がったことで、私の姿に引きずられたな。サイズは違うが、見た目がそっくりだ。
「よろしく、ヴィラ」
***
あれから、ヴィラは竜舎に戻ってもらって、ランス隊長は陛下に私が目を覚ました事、ヴィラの事を報告する為に出ていった。
知らない部屋だと思っていたけど、ここは竜騎士隊の隊舎の医務室らしい。
私を連れて帰って来た時からヴィラが離れようとしなかったから、竜騎士隊の隊舎に連れてきたんだそうだ。
大事な人が、愛しい子が増えていくのはなんだかくすぐったいような、不思議な感覚だ。
全てなくしたと思っていたのに、気づけばこんなに沢山の大切なモノに囲まれている。
それに気づけたのはルーのお陰だ。
ほんわかと浸っていたら、再びノックの音が部屋に響いた。
「はい、どうぞ?」
ドアから顔を覗かせたのはルーだった。
「へ、陛下!」
「目を覚ましたと聞いてね。どう?体の調子は」
わざわざ、私の為に…
「はい、ご心配をおかけしましたが、お陰様で元気になりました。…毎日来ていただいていたとか、本当にありがとうございました」
「当たり前だよ。私は結構怒っていたんだよ?魔族相手に1人で戦うとか。魔族が消滅したと思ったらシェラは倒れるし、幼竜…じゃなくて、ヴィラはパニック起こしてシェラから離れないし。……でも、よかった」
本当に心配をかけてしまったんだな。
仕方なかったとはいえ、ルーのトラウマを刺激してしまったようだ。
「私を置いて、死ぬな。この国にいる全ての人々が私の大切な家族なんだ」
「はい。私は陛下を置いて死んだりしません。ずっと一緒です」
ルー、約束だから。
ずっと一緒だよ。
たとえ君が、奥さんをもらって、子供ができて、やがて生を全うして眠りについても、私は君のいるこの国を、君の子供達を守り続けよう。
永久に…
第二章 完