第十六話 親と子2
本作品の製作にあたり、世界観・物理設定の検証およびブレインストーミングの補助として一部対話型AIを使用しています。本文およびストーリー展開はすべて作者自身により作成・執筆されたものです。
またこの作品の、タイトルはいまだ未定であり、決定次第随時変更していく次第です。
加えて、本作品には性的、差別的な内容が含まれているので苦手な方はご注意下さい。
ご理解、ご了承のほどをお願いいたします。
また、事前の告知等はするつもりなのですが、タイトル変更によって当作品の検索が困難になる場合がありますので、作者名を覚えていただくか、ブックマーク等の機能を活用していただけると幸いです。
深夜、ダレルは目が覚めた。
ここ最近、朝まで満足に眠れずに中途覚醒する回数が増えてきている。
その物理的な原因は壁が薄いため、別の部屋にいるフェイラの声がよく聞こえてきてしまうから。
そして、精神的な原因は、彼女の悲痛な泣き声によって、「彼女のような優しい人を自分が泣かせてしまっている」、「彼女に恨まれている」といった考えが否応なしにあふれ出てきてしまっているからである。
ダレル自身はそんな自分に対し、「そんなことを考えても意味がない」、「自身は悪であるのだから、自分が苦しむのは当たり前のことだ」、「被害者ぶって自分に酔いたいだけだろ」と考え、無駄なことをやめろと自分の脳に命令している。
しかし、彼の無意識は、理性による束縛に対抗して、心の奥底にある不安をただ赤裸々に頭の中で言語化するという行為を繰り返し続けていた。
そんな理性と本能の葛藤によってダレルの心身はすり減り、結果として睡眠の質などに影響が出てきてしまっていた。
体内で起こっている闘争が激しくなっていく中で、彼はレオディンとの会話を思い出していた。
「師匠、なんでフェイラってあんなにすごいの?」
「答えるのが少し難しいな。
まず、客観的事実として彼女は人より圧倒的に優れた才能を天より賜り、そのうえで努力を欠かさなかった。
そんな彼女の積み重ねが彼女の今の在り方を確立したというのは間違いではないんだけど、それは彼女のもつある一面でしかない。
そして、そのほかの要因というのは君にはよくわかっているだろう?」
「みんなに対する思いやりを持っているから、より力を発揮できるみたいな話?」
「まあそれもあながち間違ってはいないんだが、みんなというのはちょっとだけずれているかな。
彼女は不特定多数の誰かに対して無償の愛を与えるのではなく、自身の友達や君みたいな家族に対して深い慈愛の心を持っている。
その強い思いの発露として、今のような強く、偉大で、明るい人物となったんだと僕は思う。」
「えー...そうかな。確かに、フェイラが俺のことを大事に思ってくれてるのは分かるんだけど、でもそこまで特別に思われているかって言われたらなんとも言えない気がする。」
(そもそも、俺は望まぬ子であった可能性も高いし)
フェイラはよくできた人物だからそれを自分やレオディンたちに悟られぬよううまく隠しているのだと考えているダレルに対し、レオディンは続ける。
「たしかに、普段の様子からじゃ君のことを特別愛しているようには思えないかもしれない。
だけどね、母というのは子供のことを無条件で愛するものだ。
少なくとも、彼女はそういう人だと僕は信じている。
君もいつか彼女の思いに気づく日がきっとくるから、ちゃんと彼女のことを支えてあげて。」
(母は子供を愛するものだ、か...)
レオディンの言葉を思い出し、ダレルは自身の過去に思いをはせる。
夜の公園で泣いていたあの女は自分のことを愛すどころか恐れていた。
その事実が、レオディンの言葉を信じることに待ったをかける。
確かにレオディンの言っていることには一理があり、一般的には間違っていないということは疑いの余地もない。
しかし、一般を外れた例外があるというのもまた疑いの余地もない事実なのだ。
そして、女の独白を聞き、フェイラの涙も目撃してしまったダレルには、レオディンの言を心から信じるために必要な人格的要素が著しく欠如してしまっている。
そのため、不安ばかりが渦巻き、泣いているフェイラを支えるために一歩を踏み出すことから目を背け続けていた。
(くずだな。)
そんな自分に対して強い自己嫌悪を抱く。
だがそれと同時に、このまま何も知らないまま終わりたいという思いもダレルの胸の内にはあふれかえっていた。
正しくないということは当然理解している。
しかし、正面からフェイラと向き合おうとするには、ダレルはあまりに傷を負いすぎてしまっていた。
心にできた崖によって、他人との距離が広くなりすぎてしまったのだ。
このまま、今日も気づかないふりをしてしまおうと目を閉じようとしたとき、突然扉が開く音がした。
フェイラがダレルの部屋の中に入ってきたのだ。
彼女の方からは、まだかすかにすすり泣く声が聞こえてくる。
ダレルが寝ていると信じているフェイラは、音を立てないように静かに彼に近づいてくる。
(嫌だ)
ダレルは瞬間的にそう思ってしまった。
始めてフェイラの涙を目撃してから今まで、フェイラが泣いているときに同じ空間を共有することはダレルには一度もなかった。
フェイラ自身が誰かがいる前では泣こうとしなかったことに加えて、ダレルも泣いている彼女と向き合う勇気がなかったからだ。
そんな初めての状況に出会い、ダレルは反射的に逃げ出したくなってしまったのだ。
が、フェイラが目の前にいる手前そんなこともできず狸寝入りをするしかなくなってしまう。
こんな状態では耳をふさいで彼女の声を無視することはできず、一言一句彼女の言葉を聞き取れてしまう。
ダレルは焦り、そして、恐怖を感じていた。
「もしここで、この人の本心を聞いてしまったらどうなるんだろう」
「この人に憎まれていると知ってしまったらどうなるんだろう」
そんな思いが濁流のようにあふれ出してくる。
手も汗で湿ってきて、動悸が止まらない。
自身の体の平衡感覚が失われて、ぐらついているような錯覚を覚える。
自身の脳みそが、誰かによって無理やりゆすられているような気分だ。
そんな中でも、フェイラが止まることはない。
そしてとうとう、ダレルのすぐ目の前まで来てしまう。
体をかがめダレルをのぞき込んでいるのか、彼女の吐息がかかってくる。
相も変わらず彼女の口からは泣き声が漏れ出ており、その声をきいて、一層ダレルの精神は揺らぐ。
(やっぱり俺は...)
これから聞こえてくるであろう罵詈雑言を想像し、とうとう正気でなくなってしまう、そんなときに、母の声が、息子の耳に届く。
「ダレル...ごめんね、悲しい思いをさせちゃって...
私がバカだったばっかりに、あなたから色んなものを奪っちゃって...
あなたが、ふとした時に悲しそうな顔をしているのは...きっと私のせいなのよね...?
私がこんなんだから、あなたは私を「母さん」って呼んでくれないのよね...?
本当にごめんね...」
意味が分からなかった。
彼女はやるべきことを切実にこなしていたのだから、謝る理由はない。
「母さん」と呼べないのも、自身の問題であるのだから、フェイラが心を痛めることではない。
そして何より、なぜ憎んでいるであろう相手に対して「ごめん」といっているのか、何一つダレルにはわからなかった。
ダレルが呆然とする中、フェイラはそのまま続けた。
「バカな私に涙を流す資格なんてきっとない...
だけどね、あなたのことを愛しているの...ほかの誰よりも、愛しているの...
あなたはそうではないのかもしれないけど、私はあなたを大切な家族だって思っているの...
だから...もしも、もしも、私に機会をくれるなら...あなたのことを支えさせてほしいの...
私のことは嫌いなままで構わない...だけど、あなたが苦しそうな顔をしているのは耐えられないのよ...
だって、あなたはこの世にたった一人の....大切な...大切な...私の大好きな息子で、私はあなたのお母さんなんだから...」
言葉が、届いた気がした。
深く刻まれた傷が癒え、崖がなくなったわけではない。
だけど、彼女の言葉がその深淵に落ちるのではなく、確かに自分の元に届いた、そんな感覚がダレルにはしたのだ。
「なんて...寝ているあなたに言ったって意味ないわよね...
ダレルが私のことを許してくれるわけもないのに...」
そうつぶやき、フェイラは部屋を出ようとする。
(大好きな息子とお母さん、か...)
まだ、過去のトラウマが消えたわけではない。
だけど、それでもここで、この人とちゃんと向き合いたい、そう思いダレルは両の目を開いた。
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