第17話 親と子3
本作品の製作にあたり、世界観・物理設定の検証およびブレインストーミングの補助として一部対話型AIを使用しています。本文およびストーリー展開はすべて作者自身により作成・執筆されたものです。
またこの作品の、タイトルはいまだ未定であり、決定次第随時変更していく次第です。
加えて、本作品には性的、差別的な内容が含まれているので苦手な方はご注意下さい。
ご理解、ご了承のほどをお願いいたします。
また、事前の告知等はするつもりなのですが、タイトル変更によって当作品の検索が困難になる場合がありますので、作者名を覚えていただくか、ブックマーク等の機能を活用していただけると幸いです。
ダレルは賢い子だと思う。
数学といった高度な学問については分からないけど、少なくとも日常で必要になる足し算や引き算といった四則演算は非常に早く正確にできるし、物覚えもかなり良い。
なにより、無駄なことをしない。
訓練が厳しいだとか、もう休みたいとか、小さな愚痴をこぼすことはあるけど、なんだかんだやるべきことはしっかりやるし、休む時と頑張るときのメリハリがしっかりしている。
多分、頭がいいから意味のないこととあることを正しく判断できるんだろう。
しかも、あの子は誰に対しても優しい。
ほかの子供たちに頼られれば基本的には手助けをするし、私に対しても皿洗いや洗濯といった家事の手伝いをお願いすればやってくれる。
(まあ私のことを「ゴリラ」に例えるとか、少し、いや、かなり失礼なところはあるけど...)
それでも、最後には人のために行動できる子だと思う。
私は、そんなダレルのことを誇らしく感じるし、そのまままっすぐ育っていってほしいと願っていた。
だけど、あの子はたまにすごく暗い顔をするようになった。
目からは光が消え、全身から力が抜けてしまい一切の生気が感じられない姿。
それは、虫の抜け殻のような、輪郭は残っているのに中身が空っぽになってしまった置き物のようだった。
始めてその姿を見たときには、「なんで」とか、「いつから」とか、いろいろな疑問がアリみたいにうじゃうじゃ出てきたけど、そのどれか一つすらダレルに聞くことはできなかった。
明確な理由があったわけではないけど、言葉を発しようとするたび、なぜか口を動かしたくなくなってしまう。
もしかしたら、無意識のうちに恐怖を感じていたのかもしれない。
自分が原因かもしれないという恐怖を。
そして、それに向き合うことで今の幸せを壊してしまうかもしれないという恐怖を。
まるで、部屋にいたゴキブリを見失ったときみたいだ。
見えないだけですぐ近くにいるわけだから、対処しなければいけないことは分かっている。
だけど、その醜い存在と再び相対することを恐れ、同時にいま手にしている安心感を手放したくないから、探すことを億劫に感じて、結局動かないままになってしまう。
でも、その平穏に意味なんてない。
だってその存在は勝手にいなくなることは決してあり得ないし、時間が経てばどんどんその数は増えていってしまうのだから。
今思えば、あの時にはすでに気づいていたのかもしれない。
ダレルと私の間に、ぼんやりとした、だけど確かな、溝があることを。
ある日、生まれてから今まで、ダレルが私のことを「母さん」みたいに呼んだことがないことに気づいた。
最初は、「単なる偶然」と考えていた。
たまたまダレルが「母さん」という言葉を使わないだけで、私とあの子の間には「母と子としてのつながり」があると思っていた。
だけど、見当違いなことを考えているという感覚がどこかにあって、漠然とした不安みたいなものがなくなることはなかった。
そのぼんやりとした薄黒い雲は、時間が経つにつれて、気体ではなく液体へ、液体から固体へと変わり、いまでは私の頭の中で確かな存在感を持つものとなった。
そうして出来上がった黒い塊が、私の頭の中にすくうゴキブリたちの餌になって、どんどんその数を増やしていく。
数が増えていくたびに、私の「向き合う」という気持ちは、どんどん小さく、弱々しいものになってしまって、今では「聞いてみよう」という気概すらなくなってしまった。
もしかしたら、息子の悩みを聞くことすらできない私を、ダレルはすでに親とは思っていないのかもしれない。
(だから、「母さん」って呼んでくれないのかな...)
だけど、それでも、私はあの子には幸せになってほしい。
普通に生きて、体を動かして、ご飯を食べて、大切な人を見つけて、挫折しても立ち上がって、最後には屈託のない顔で笑って過ごせる。
そんなありふれた、だけどかけがえのない幸せを手に入れてほしい。
(だって私は、あなたの、「母さん」だもの)
だから私は、あの子が大人になってから困らないように、魔法をはじめとして様々な知識や技術を教えるようにした。
向き合うことができなくても、せめて少しは母らしいことをしてあげたいという一心で。
だけど、ふとした瞬間にあの子の暗い顔を思い出してしまって、そのたびにある考えが頭によぎってしまう。
「あの子は父を恋しく思っているのではないのか」と。
「あの子から父という存在を奪ってしまった私を嫌悪しているのではないのか」と。
そんな侵入思考が浮かんでくるたびに、自分の過去とダレルの暗い姿が同時に思い出されて、涙が止まらなくなってしまう。
情けないとわかっているのに。
私の体は自身の水分を外に出すことをやめてくれることはなかった。
そんな日々が続いていた中、今日の朝方、ダレルのことでレオディンが声をかけてきた。
「最近のダレルはやる気が満ち溢れているんだけど、何かあったのかい?」
「さあ...?もしかしたら前やった模擬戦でのことが悔しかったのかも。」
「あぁ...あの泥だらけになってた時のことか。確かに彼は負けず嫌いだからリベンジに燃えているのかもしれないね。」
「まだまだあの子には負けないけどね。」
「あはは。確かに君はすごく強いからダレルが勝つまでにはまだまだかかりそうだ。
だけど、あの子も筋はいいし、飲み込みも非常に早いから、意外と負ける日も遠くないかもよ?
なにより彼は君の子なんだから、きっと優れた才能を持っているだろうしね。」
(私の子供、か...)
そう思っているのは私だけかもしれないのに?
(いや、卑屈になりすぎているわね)
自身の沈んだ心のうちを悟られないために、なにもなかったかのように返す。
「そうね。まあ、あの子ってさっぱりしているから、私のことを「お母さん」みたいに思ってない気がするけどね。
もしかしたら、日ごろから怒ってるからクソババアとか思ってるかもしれないし。」
「そんなに悲観する必要はないと思うけれど。
口ではいろいろ言うけれど、ダレルは君のことをちゃんと愛していると思うよ。」
「そうかしら?」
「きっとそうさ。それにフェイラだって「母」としてやるべきことをしっかりやっているし、そんな君にあの子は深く感謝してると思うよ。
そして何より、君たちの間には確かな「親子の絆」がある。
目には見えないかもしれないけどね。
だからきっと大丈夫さ。
もし、なにか不安に思っているのならいっそ口に出してみるといい。
案外何とでもなるはずだよ。」
「...そうね。ありがとう。」
口に出してみる、そういわれて少しだけ胸のつかえがとれた気がした。
正面から向き合う覚悟はまだ持てない。
だけど、少し素直になってみよう、そう思わせてもらえた。
もしかしたら、レオディンは私の悩みに気づいていたのかもしれない。
夕方になって、ダレルが訓練から帰ってきた。
また、この子が家に帰ってくるまでに泣いてしまったけれど、いつもの気丈な姿でふるまって誤魔化す。
いつも通りご飯を食べて、いつも通り寝る準備をする。
そして、ダレルが寝室に行ってからは、いつも通り涙が出てくる。
今まで、幾度となく繰り返してきた日常。
だけど、今日だけは、少しだけでもいいから、ダレルと向き合いたかった。
面と向かって話せなくても、寝ていたとしても、
あの子に謝りたかった。
自分の思いを伝えたかった。
扉を開けて、彼の前まで歩いていく。
起こさないように静かに、だけど一歩ずつ確実に。
そして、すぐ目の前までついた時には、自然と言葉が漏れ出ていた。
「ダレル...ごめんね、悲しい思いをさせちゃって...
私がバカだったばっかりに、あなたから色んなものを奪っちゃって...
あなたが、ふとした時に悲しそうな顔をしているのは...きっと私のせいなのよね...?
私がこんなんだから、あなたは私を「母さん」って呼んでくれないのよね...?
本当にごめんね...」
いままで伝えられなかった本音。
恐怖から逃げ続けたことで話すことができなかった本音。
それがこぼれ出ていく。
「バカな私に涙を流す資格なんてきっとない...
だけどね、あなたのことを愛しているの...ほかの誰よりも、愛しているの...
あなたはそうではないのかもしれないけど、私はあなたを大切な家族だって思っているの...
だから...もしも、もしも、私に機会をくれるなら...あなたのことを支えさせてほしいの...
私のことは嫌いなままで構わない...だけど、あなたが苦しそうな顔をしているのは耐えられないのよ...
だって、あなたはこの世にたった一人の....大切な...大切な...私の大好きな息子で、私はあなたのお母さんなんだから...」
母としての思い。
あの子に伝えたかった思い。
そのすべてが涙とともにあふれ出てきた。
だけどやっぱり、ダレルが聞いていないんじゃ意味がない気がしてくる。
「なんて...寝ているあなたに言ったって意味ないわよね...
ダレルが私のことを許してくれるわけもないのに...」
(やっぱり、私にはダメなのかしら...)
そう思って、部屋を出ていこうとする。
だけどその時。
「母さん」
という声が聞こえた。
あの子の声で、そう呼ばれたいと、ずっと願い続けていた言葉。
驚いて振り返ってみると、そこには私の大切な息子が、真剣なまなざしでそこに立っていた。
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