第十五話 親と子1
本作品の製作にあたり、世界観・物理設定の検証およびブレインストーミングの補助として一部対話型AIを使用しています。本文およびストーリー展開はすべて作者自身により作成・執筆されたものです。
またこの作品の、タイトルはいまだ未定であり、決定次第随時変更していく次第です。
加えて、本作品には性的、差別的な内容が含まれているので苦手な方はご注意下さい。
ご理解、ご了承のほどをお願いいたします。
また、事前の告知等はするつもりなのですが、タイトル変更によって当作品の検索が困難になる場合がありますので、作者名を覚えていただくか、ブックマーク等の機能を活用していただけると幸いです。
フェイラは世間一般から見て理想的な女性と分類される人種だと思う。
整った容姿はさることながら、広い分野において稀有な才能を有しており、そのうえ勤勉で、そしてなにより人格的にも優れている。
彼女はその能力を生かして衛生的で文化的な生活を村にもたらし、住民からの期待にはできる限り応え、そのうえでおごり高ぶることもせず誰に対しても明るく接している。
息子である俺に対しても、毎日おいしいご飯を作ってくれるし、豊富な魔法の知識も与えてくれる。
たまに怒られることがあってもそのどれもが正当性を持っており、なおかつ俺自身のことを大切に思っているからこそ出てくるものだ。
そんな彼女のことを一人の人間として俺は尊敬しているし、一定の好感を持っていることも事実だ。
だが、彼女のことを「母」としてみることができない。
自分の生物学上の親であることも理解しているし、いわゆる「母」という人間が
果たすべき役割をこれ以上ないくらいにまっとうしてくれていると知ってはいる。
だが、彼女のことを「母さん」などと口に出して呼ぶことができない。
言葉が、のどを通り抜け、音としてその存在をこの世に確立する前に、気道の中にあるねばついたタンによってからめとられ、外に出ていくことができないのである。
いや、それはフェイラに対してのみそうなるとか、そういう類のものではない。
乳児院や児童養護施設の職員に対しても、彼女らを家族などではない他人の一人として優れた人間だと認識し、敬意を持つこと自体はできていたが、そのうちの誰かを「親」と慕い、「母さん」として呼ぶことは一度たりともできなかった。
乳児院の人たちをそう呼べなかったのは、まだあの女が俺のことを待ってくれていると心のどこかで信じていたから。
そして、児童養護施設の人たちをそう呼べなかったのは、あのきれいな世界を見てしまったから。
子供たちが聞くおとぎ話のような世界。
人々が真の愛の形だといい、称賛する世界。
あの世界を見た瞬間から、俺は誰かを「母」として認識することを拒むようになってしまったのだ。
もちろん、俺にだってフェイラのことを「母さん」と慕おうと努力したことはあった。
「あの女が異質であっただけで、ある程度の「母」という生き物は「子」に対し愛情をもって接してくれるものである」
そんな理性的な言葉で自身の感情を縛り、彼女を「母」と認識しようと頑張っていた。
フェイラ自身の優しく温かみのある言動を根拠に、自分の心に元に戻るように説得し続けていた。
だが、理性的に、論理的にあろうとすればするほど、残酷なある事実から目を背けられなくなる。
それは「聖職者は配偶者を持ってはならない」というものだ。
中世ヨーロッパの教会という組織では、「俗世からの解放」という名目で司教などはパートナーを作ってはならないという決まりがあった。
そしてもし男性の聖職者と肉体関係を持った女性がいたと知られれば、その女性は「悪魔」や「売女」などと蔑まれ、子供は非摘出子としてなんの権利も持たない存在として扱われることになる。
そして、転生先の世界と地球の共通点が多いことを見るに、この世界でも同じような制度が採用されており、間違いを犯した人間がどのように扱われるのかにそこまで相違がないことは想像に難くない。
そしてなにより、俺は自身の「父」に会ったことがない。
人里離れた村に女と子供の二人だけで暮らしているのを見るに、いわゆる「父」というものに捨てられたのだろう。
ではなぜフェイラほどの優れた人間が捨てられたのか、なんて、いちいち真面目に考えなくてもその答えは明白であった。
そしてある日、フェイラの、彼女の泣き声を初めて聞いた時、自然とあの女の姿が頭に浮かんでしまった。
肉体関係を持っていたというくらいだから、おそらくフェイラと俺の「父」というものは互いに愛し合っていたと思われる。
だが、子供である俺ができてしまったばっかりにフェイラはその男に捨てられてしまった。
だとしたら、その怒りが俺に対して向かっている可能性はないのだろうか?
彼女が優秀で底抜けなほど優しい人間であるから表面上は平気なふりをしているだけで、無意識の、本心とも呼ぶべき領域において俺に対し負の感情を抱いている可能性はないのだろうか?
その疑念が明確に言語化され頭の中に現れてしまった瞬間から、俺は、彼女の泣き声を無視するようになった。
もし本当に親子という関係であるなら、そうありたいと俺が願っているなら、彼女の悲痛な声に耳を傾け、支えるとまではいかなくても、そばにいるということくらいはすべきであるのだろう。
だが、もし彼女の黒い部分を知ってしまったら?
彼女ほどの優れた人間から刃物を向けられていると知ってしまったら?
そう考えると、怖くて、怖くて、たまらないのだ。
体外から勝手に電気を流されたみたいに、体が「向き合うこと」から勝手に逃げてしまうのだ。
だから俺は今日も目を閉じ続ける。
救われることがないとしても、せめてもう一度、あの美しい景色が眼前に広がることがないように。
ご愛読くださりありがとうございます。
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