92.錬金術で作るお酒
「さてと、お酒か……」
自室に籠り、お酒の事を考える。お酒の材料は様々ある。まず基本になるのは、糖だ。
発酵というのは、酵母が糖を食べてアルコールを生み出す現象。つまり、糖を含んでいれば、大抵のものは酒に出来る。
「穀物、果実、蜂蜜……この辺りが定番かな」
指折り数えながら、思考を整理していく。
穀物、例えば麦や米。これらはそのままだと甘くないが、加工することで糖に変わる。麦ならビール、米なら日本酒のように、安定して大量に作れるのが利点だ。
「ただ、仕込みの手間がかかるんだよね」
麦芽化や麹のような工程が必要になる。知識があれば出来るが、設備と時間も食う。気軽に始めるには少し重い。
次に果実。
「これは分かりやすい」
ぶどうやリンゴのように、最初から糖分を多く含んでいるものは、そのまま潰して発酵させるだけで酒になる。いわゆるワイン系だ。
香りも良く、貴族受けもいい。
「でも、季節に左右されるのが難点かな」
収穫時期を逃せば作れないし、保存にも気を使う必要がある。
そして、蜂蜜。
「これが一番シンプルかもしれない」
ぽつりと呟く。蜂蜜はそれ自体が高濃度の糖。水で薄めて酵母を加えれば、それだけで酒になる。
「ミード……蜂蜜酒」
頭の中に、琥珀色の液体が浮かぶ。保存も効きやすく、加工も比較的簡単。何より、味の調整がしやすい。
「さらにハーブやスパイスを加えれば、メセグリンにも出来る。これは珍しいんじゃないかな?」
ただ甘いだけではない、香りと風味に幅を持たせた酒。例えば、体を温める香草。気分を落ち着ける花。あるいは、少し刺激のある根菜。
「この世界なら、薬効のある素材も多いし……」
単なる嗜好品に留まらない可能性がある。回復、強化、集中力の向上。組み合わせ次第で、用途はいくらでも広がる。
「……となると。最初に手を出すなら、蜂蜜酒……変わったお酒を作るならメセグリンがいい」
材料の確保。製造の手軽さ。応用性。どれを取ってもバランスがいい。
「必要な物は蜂蜜、水、酵母の材料、香辛料ってところかな」
『生活圏素材辞典』を開き、該当する物がないか調べる。
「確か、酵母になる材料って糖分の蜜がたくさんあって、虫が沢山寄ってくるものがいいんだっけ。……ん? そういえば、以前に使った素材でそんなものが……」
私はレシピ帳を確認して、材料を調べた。そしたら、あった。
「あっ! ロザンお父様のアイテムで使った【アレアの花】はそうだ!」
アレアの花の特徴は森の明かりが少ない場所に自生し、花びらに自己回復能力を高める成分が含まれ、ハチの好物。ハチの大好物、というところが
酵母に相応しい。
「うん。もう一度、アレアの花を取ってこよう。これで、酵母の材料は決まった。あとは、香辛料……」
本を開いて、また調べ物をする。
「どんな味がいいかなー……。スッキリとした味わいか、ピリッとした後味か……」
んー、悩ましい。色んな物があるから、中々選べない。お酒を飲む人の好みが分かればいいんだけれど、それは出来ないし……。
「出来れば香りが強くて、味にパンチが出るような……」
ページをめくって調べていくと――。
「あっ、これなんていいんじゃない?」
【ぺーラーンズの根】
・岩場に生える、低木の根
・辛みのある味が特徴
・乾燥させると、香りが強くなる
「うん。味に特徴が出るし、香りも出る。これはメセグリンにピッタリ」
これで、材料は揃った。あとは、錬金術の魔法をどうするかだ。
「うーん、メセグリンを作るには【調合】がいいのかな? もっと、他にピッタリな魔法はあるかな?」
画面を開いて確認していく。ずらっと並ぶ魔法を確認していくと――【発酵】という欲しかった魔法の名前が出てきた。
「これ、まさにお酒造りにピッタリな魔法じゃない? 良かったー、この魔法があって。これで、安心してお酒造りが出来る」
メセグリンの材料、調合のレシピは揃った。あとは、実行あるのみなんだけど……。
「どうせなら、冷感クリームの材料も揃えておかなくっちゃ」
そう言いながら、レシピ帳を確認する。
【冷感クリーム】
材料
・冷晶
・蜜蠟
・ラベンダー
冷晶は川がある岩場に転がっている石。触ると冷たいのが特徴だ。まさに、冷感クリームになくてはならない素材。
蜜蝋はクリームになる部分で、ラベンダーは香りづけだ。この三つを合わせれば、冷感クリームが出来る。
「よし、取ってくる素材は……蜂蜜、アレアの花、ぺーラーンズの根、冷晶、蜜蝋、ラベンダーか。結構沢山あるな……一日じゃ集められなさそう」
これは、じっくりと集める必要がありそうだ。でも、どれもこの近辺にあるものだから、遠くに行く必要はない。
「善は急げ。早速、素材採取だ!」
机の上を片付けると、私は部屋を飛び出していった。




