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この世に一人だけの錬金術師~物作り好きのゲーマーが家族のためにアイテム革命起こします!~  作者: 鳥助
第二章

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58.薬師協会専属の冒険者(2)

 それから、スウィンがクロヒョウの獣人へと連絡を取ってくれた。結果を待つ間、胸の奥が落ち着かず、鼓動だけがやけに大きく感じられる。


 そして返事は、予想以上のものだった。とりあえず、一度会って話をしてもいい。そう言ってもらえたのだ。


 可能性は、確かに生まれた。けれど、ここからが本番だ。彼を本当に動かせるかどうかは、私の言葉次第。説得できなければ、この機会も無駄になってしまう。


 迎えた数日後。私たちは、薬師協会の一室で彼と面会することになった。


「そろそろ時間だね。ルイ、話す内容は決まった?」

「うん、大丈夫」


 スウィンと並んで部屋で待っていた。緊張のせいか、胸の鼓動は少し早い。けれど、不思議と心は乱れていなかった。焦りはなく、言葉も頭の中で整理されている。これなら、ちゃんと話せる。


 その時、扉が控えめにノックされた。返事をすると、ゆっくりと扉が開く。


 そこに立っていたのは――あの日に見た、クロヒョウの獣人だった。


 背は高く、無駄のない引き締まった体躯。漆黒の毛並みは手入れが行き届いており、光を受けて静かに艶めいている。


 鋭さを宿した金色の瞳は、威圧するわけでもなく、ただ真っ直ぐにこちらを見据えていた。その佇まいには、獣人特有の力強さと同時に、どこか騎士のような高潔さが感じられる。


「待たせた」


 短くそう告げると、彼は音も立てずに室内へ入り、私たちの向かいの椅子へと腰を下ろした。


「この場に集まってくれてありがとう。僕から紹介するね。彼女がルイ・グレンジャー。この世でただ一人の錬金術師。彼がアルビス・ヒカーソン。Aランクの冒険者で薬師協会の専属冒険者だ」


 スウィンが話し出すと、私とアルビスさんが目があった。その目は私を値踏みするように鋭く、油断が出来ない圧を感じて緊張する。


 すると、先にアルビスさんが動き出す。手を差し出してきて、握手を求めてきたのだ。


「アルビスだ。よろしく頼む」

「ルイです。今日は来ていただいてありがとうございました」


 ギュッと手を握ると、力強さ良く分かる。アルビスさんの強さが良く分かると、ますますこの人に依頼を受けてもらいたい気持ちが膨らんでいった。


「話しは大体分かっている。錬金術は可能性のある魔法技術だな」

「本当ですか!? そう言ってもらえて嬉しいです。錬金術は希望を実現する魔法技術だと思ってます。だから、それを使って人の役に立ちたいんです」


 その一言が嬉しくて、思わず身を乗り出して早口で喋ってしまった。自分でも分かるくらい、声に熱がこもっていく。


「錬金術は、ただ物を作るための技術じゃありません。失われたものを補って、足りないものを埋めて、人が前に進むための選択肢を増やせるんです」


 言葉を選びながら、必死に続ける。錬金術を知ってから、私の中で何度も浮かんでは消えた光景がある。


「私は、奇跡を起こせるなんて思っていません。でも……努力と工夫で、現実を少しだけ良い方向に歪めることは出来る。錬金術は、そのための力です」


 一度、言葉を区切って深く息を吸う。視線の先で、アルビスさんは黙ったまま、こちらを見ていた。


 金色の瞳は揺れていない。けれど、最初の値踏みするような鋭さとは違う。今は、真剣に聞いている目だった。


「だから……今回の依頼も、ただ危険な仕事を押し付けたいわけじゃありません。あなたの力があれば、この錬金術は形になります。誰かの命を守るための、確かな一歩になるんです」


 最後は、思わず祈るような気持ちでそう告げた。室内に、短い沈黙が落ちる。


 アルビスさんは、ゆっくりと腕を組み、少しだけ視線を伏せた。


「……理想論だな」


 低く、重い声。胸が、きゅっと締め付けられる。


「だが」


 その一言で、彼は再び顔を上げた。


「その理想を語る目は、本物だ。少なくとも、軽い気持ちで人を巻き込もうとしているわけじゃない」


 金色の瞳が、まっすぐに私を射抜く。


「錬金術には、可能性がある。それも……未知の可能性だ」


 アルビスさんは、そう言ってから一拍置いた。


「これからの使い方次第で、薬にもなるし、毒にもなる。俺には、そう感じた」


 その言葉が、胸の奥に静かに沈んでいく。


 それは、錬金術そのものの話だけじゃない。そう、直感的に思った。


 彼はきっと、技術の優劣や理論だけを見ているわけじゃない。それを扱う私を見ている。


 錬金術の可能性が、救いになるか、災いになるか。それを決めるのは、式でも素材でもなく――使う者の在り方だと。


 私が、どんな人間なのか。どこまで覚悟を持って、この力を振るうつもりなのか。アルビスさんは、それを確かめようとしている。


 この依頼を受けるかどうかを決める前に、錬金術の未来じゃなく、錬金術師の心を量っているのだ。


 そう思うと、背筋が自然と伸びた。ここで誤魔化せば、きっと見抜かれる。でも、正直に向き合えば――この人には、届くかもしれない。


 アルビスさんは、しばらく私を見つめたまま黙っていた。やがて、静かに口を開く。


「なら聞こう」


 低く、けれど曇りのない声。


「その錬金術で……お前は、何を成し遂げたい?」


 問いは短い。けれど、逃げ場のない問いだった。


 一瞬、言葉が喉に詰まる。格好のいい答えも、壮大な理想も、頭には浮かばなかった。


 だからこそ、私は正直に答える。


「……新しい可能性を、形にしたいです」


 自分でも驚くほど、落ち着いた声だった。


「まだ誰も知らない錬金術の使い方を見つけて、それで……人を助けたい」


 視線を逸らさず、続ける。


「病気や怪我で苦しんでいる人。危険な仕事で命を落としかねない人。今までは『仕方がない』で片付けられてきたことを、錬金術で覆せるかもしれない」


 それは、野心でも自己顕示でもない。ただの、切実な願いだ。


「全部を救えるなんて思っていません。でも、救える可能性があるなら……それを見つけ出して、試して、実用にする。それが、錬金術師として私に出来ることだと思っています」


 一拍置いて、はっきりと言った。


「私は、錬金術で人を助けたい。それ以外の目的はありません」


 室内に、再び静寂が落ちる。


 アルビスさんは、しばらく無言で私を見つめていた。その金色の瞳から、値踏みの色は消えている。


「……なるほどな」


 小さく、息を吐くように呟いた。


「危うい力を扱う覚悟はある。だが、振り回されるつもりはない……か」


 彼は、ゆっくりと口元にわずかな笑みを浮かべた。それは、戦場に立つ者が、信頼に足る相手を見つけた時のそんな表情だった。


「この先、見たくなった。協力させてほしい」

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