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この世に一人だけの錬金術師~物作り好きのゲーマーが家族のためにアイテム革命起こします!~  作者: 鳥助
第一章

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19/98

19.素材採取(3)

「ルイ、頑張ってねー!」

「ちゃんと仕事をするんだぞー!」

「また、来てねー!」

「うん! みんな、ありがとう!」


 手を振ってくれる子どもたちに応え、私は川辺を後にした。


 子供たちのお陰で、ルーファの根は十分な量を集めることが出来た。浅瀬に生える場所や、掘りやすいところまで教えてもらえたのは、本当に助かった。


「よし、次は……」


 平原を抜け、私は森へと向かう。


 何度も歩いた道だ。踏み慣れた土の感触と、木々の匂いに、自然と肩の力が抜ける。


 ほどなくして、見慣れた森の入り口に辿り着いた。


「最後は、アレアの花の根だね」


 辞典の記述を思い返しながら、私は小さく呟く。


「森の明かりが少ない場所に生えてる……ってことは、木々が密集してる辺りかな」


 木漏れ日が減り、足元が薄暗くなる方角へと歩を進める。この森は、もう何度も足を踏み入れている。まるで自分の庭のように、なんとなく地形が頭に入っていた。


 頭の中に描いた地図をなぞるように、奥へ、奥へ。


 ――その時。微かな気配が、肌を撫でた。


「……?」


 足を止め、周囲に意識を向ける。


 森の手前には、スライムやホーンラビットが多い。けれど、この辺りまで来ると、出没するのはゴブリンだ。


「もしかして……」


 私は木の棒を手に取り、ぎゅっと握りしめた。


 一歩、また一歩。慎重に進むにつれて、その気配は確実に近づいてくる。


 だけど――。


「……声が、しない?」


 ゴブリン特有の、耳障りな笑い声や喚き声が聞こえない。


「別の魔物……?」


 胸がどきりと跳ねる。心臓の音が、やけに大きく感じられる中、私は覚悟を決めて、さらに前へ進んだ。


 そして――。


「あっ、アマリアお姉様」

「やっぱり、ルイだったのね」


 木々の隙間から現れたのは、見慣れた人物だった。


 金属の鎧に身を包み、身丈ほどもある大剣を帯びた女性。凛とした佇まいで立つその姿は、どう見ても魔物ではない。


「……よかったぁ、アマリアお姉様だったんだね」


 思わず、胸を撫で下ろす。緊張が一気にほどけた私を見て、アマリアお姉様は小さく微笑んだ。


「でも、どうしてここに?」

「今日は早めにやることが終わったから、ルイのお手伝いをしようと思ってね」


 良く見ると、アマリアお姉様の体は結構汚れていた。一つにまとめている髪だって、ぼさぼさになっていて、激しい戦闘が行われたのが良く分かる。


 もしかして、私のお手伝いをするために、無理をしていた? その気持ちに嬉しくなる一方で、心配な気持ちも膨らんだ。これは注意をしなければ。


「もう、お姉様は無茶しすぎ。もし、怪我をしたら、数日は動けなくなるんだからね。その辺、分かってるの?」


 腰に手を当てて、怒った顔を見せた。すると、アマリアお姉様はしゅんと肩を落とした。


「ご、ごめんなさい……。ルイがもし、怪我でもしたらと思うと……」

「怪我くらい大丈夫だよ」

「いえ! 怪我でもして、私みたいに痕が残ったら大変だわ! 大事な妹の体に痕でも残したら、と思うと!」


 落ち込んだり、いきり立ったり。相変わらずアマリアお姉様の感情の起伏が激しい。ちょっと疲れるけれど、それだけ思ってくれることだ。


「まぁ、でも気持ちは嬉しいよ。ありがとう」

「ルイ……。ルイは絶対に私が死んでも守るからね! 死んだとしても生き返るわ、アンデッドとして!」

「いや、重いって!」


 妹としては安らかに眠って欲しいんだけど……。でも、アマリアお姉様なら根性でアンデッドになって生き返りそうだ。


「それで、ルイは素材を探しているのよね? 私も手伝えるかしら?」

「き、切り替えが早いね。うん、素材を探しているの」

「じゃあ、付き合うわ。護衛は私に任せなさい」

「ありがとう、助かるよ」


 こうして、私はアマリアお姉様を伴って、森の奥の近くを歩き出した。やっぱり、一人だと不安だけど、アマリアお姉様がいると心強い。


 お陰で集中して素材探しを出来た。


「あっ!」


 視界の奥、木々の影に、ぱっと橙色が差し込んだ。暗い森の中でもはっきり分かる、温かみのある色。


「……見つけた」


 間違いない。あれがアリアの花だ。思わず一歩踏み出しかけて、私ははっと足を止めた。


 花の周囲を、黒い影がぶんぶんと飛び回っている。目を凝らすと、それが一匹や二匹ではないことが分かる。


「……ハチ」


 低く唸る羽音。数はかなり多い。しかも、近くに巣があるのか、花の周りを巡回している。


「素材は見つかった?」

「うん。でも……ハチが邪魔なんだよね」


 指さして説明すると、アマリアお姉様は状況を一目見て、静かに頷いた。


「あら、本当ね。あれは近づいたら危ないわ」


 そう言いながらも、表情に焦りはない。


「だったら、私が片付けてあげる」

「えっ!? そんなこと出来るの?」


 思わず聞き返す私に、アマリアお姉様は何も言わず、すっと剣を抜いた。


 金属が擦れる音が静寂の森に小さく響く。


 次の瞬間――アマリアお姉様の姿が、ぶれた。


「――っ!」


 踏み込みと同時に、巨大な剣が風を切る。重いはずの剣が、まるで細剣のようにしなやかに動いた。


 空中で小さく弾ける黒い影。一匹、また一匹と、正確に、迷いなく切り落とされていく。


「え……」


 私は、ただ呆然と見ていた。


 ハチは小さく、動きも速い。それなのに、剣先は寸分違わず軌道を捉え、無駄な動きが一切ない。


 振り回している、なんてものじゃない。狙って、当てて、切っている。


 羽音が、次第に減っていく。最後の一匹が逃げるように旋回した瞬間――。


「終わり」


 軽く振り抜かれた一閃が、それを空中で断ち切った。剣を下ろした森に、静寂が戻る。


「……す、すごい」


 思わず、声が漏れた。


 あれだけいたハチが、一匹残らずいなくなっている。花の周囲は、安全そのものだった。


「ごめんなさい。時間がかかってしまったわ。私が魔力を扱えれば、もっと早く片付けられたのに……」


 そう言って、アマリアお姉様は申し訳なさそうに視線を落とし、肩を小さくすぼめた。


 アマリアお姉様には、魔力を発現できない障害がある。


 魔力とは、この世界に生きる者なら誰もが体内に宿している不思議な力だ。詠唱によって魔法へと変換され、あるいは意識するだけで身体能力を引き上げる。それが当たり前の世界。


 だが、ごく一部の人間には、その魔力を外に表せない者がいる。


 魔力不顕症。


 体内に魔力は確かに存在しているのに、魔法にも力の増幅にも使えない。誰もが「出来るはず」のことが、どうしても出来ない障害。


 そのせいで、アマリアお姉様は職業が剣士なのに、魔力を使えないという理由だけで「中途半端な剣士」だと烙印を押されてきた。


 どんな努力をしても、血の滲むような鍛錬をしても、決死の覚悟も。すべてを無視される。


 ……そんなの、間違ってる。


「大丈夫。アマリアお姉様は、十分すぎるくらい強いよ」


 私は一歩近づいて、迷いなくそう言った。


「魔力が使えなくても、あれだけ正確に、あれだけ速く動ける人なんていない。私は……何度も助けられてる。いつも、守ってくれてありがとう」


 その手を、ぎゅっと握る。逃げ場も言い訳も作らないように、想いを込めて。


「ルイ……ありがとう」


 アマリアお姉様は、少しだけ驚いたあと、肩の力を抜いて微笑んだ。その笑顔は、さっきまでよりずっと柔らかくて。どこか、救われたようにも見えた。


 胸の奥が、きゅっと締めつけられる。


 だったら、いつか必ず。魔力不顕症を解消して、アマリアお姉様が胸を張って剣士と言えるようにする。


 錬金術でも、鑑定でも、私に出来るすべてを使って。アマリアお姉様が胸を張って剣を振れる未来を、私が作る。


 それは、願いじゃない。決意だ。


 いつか必ず、お姉様の問題も解決してみせる。

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