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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第99話 学期末の近づき

# 第99話 学期末の近づき


## 学期末の気配


 月曜日の朝。


 担任教師がホームルームで黒板の前に立った瞬間、セラは何かを察した。


 空気が違う。


 いつもならそのままテキストを開いて授業に入るところを、今日は黒板にチョークを走らせている。手の動きに迷いがない。あれは「伝えることが決まっている」人間の動きだ。


「諸君、学期末の予定を発表する」


 教室が一瞬静かになった。


 それから——誰かが息を呑む音がした。


「期末試験は三週間後。日程は以下の通りだ」


(三週間後。どの世界でも「学期末」「期末」「締め切り」という言葉の破壊力は変わらない。普遍的にこの言葉に弱いんだ、生き物は)


 黒板に日程が書かれていく。魔法理論、魔法実技、魔法史、属性魔法学、錬成基礎——五科目の試験。一日目から三日目に分けて、科目ごとに時間帯まで書き込まれていく。


「試験の比重は各科目の最終評価の三十パーセント。残りは平常点と課題提出だ。諸君には各自、しっかりと準備してほしい」


 教室がざわめいた。


「えー、もう三週間後なの!?」

「早くない? 先週試験終わったばっかりじゃん」

「魔法実技、全然できてないんだけど」

「それ毎回言ってる」

「毎回できてないんだから仕方ない!」


(世界が違っても、人間の反応は同じだ。「早い」「できてない」「仕方ない」の三段階。さらに「でも頑張る」が来るのも同じ。最後は誰でもそこに着地する)


 セラは手元のノートに日程を書き写しながら、静かにため息をついた。


(五科目。ランクアップ試験の準備もしてる。クエストも週末にある。ミサトとのことも気になってる——詰め込んでるな。でもまあ、「詰め込んでいる」のと「詰め込まれている」のは別だ。主語を間違えなければ大丈夫だ)


「セラ、大丈夫そう?」


 隣のアリアが小声で言った。


「まあ。優先順位を決めれば何とかなるよ」


「さすがセラ。私は魔法実技が少し心配」


「アリアが心配することないだろ。実技は誰より安定してる」


「でも……先生が言ってた「感情制御」のところが曖昧で」


「それは一緒に対策しよう。感情制御の実技、俺も苦手意識があったから」


(「感情制御」。魔法でも、感情が魔力に影響するという理論がある。怒れば魔力が乱れ、穏やかなら安定する。この世界の魔法理論で感情が組み込まれているのは、案外理にかなっている。俺自身、最近感情の幅が広がった気がする。ここでの生活のせいかもしれない)


 アリアが少しほっとした顔をした。


「セラと一緒に勉強できるなら安心。ありがとう」


「お互い様だよ」


 授業が始まった。担任が魔法史の試験範囲を説明していく。「第一章から第五章まで。ただし第六章の基礎知識があると有利です」——その一言が引っかかった。


(試験範囲外の知識が有利に働く。こういうのは下調べをしておくやつが差をつけるパターンだ。図書館で一度確認しておこう)


 ノートの端に「第六章・図書館」と書き添えた。


## 勉強会の提案


 昼休み。


 廊下が学期末特有のざわめきに包まれていた。どこのクラスも同じ状況らしく、参考書を抱えた生徒があちこちで立ち話をしている。


「セラ!」


 クラスメイトのエリックが近づいてきた。いつもは余裕のある表情をしているタイプだが、今日は目が少し焦っている。こういう顔を見ると、余裕の表情は「余裕がある」のではなく「そう見せている」だけなんだなと思う。


「魔法理論の試験対策、どうするつもり? セラ、前回も良い点だったじゃないか」


「まあ、自分なりに整理してたから」


「勉強会やらないか。前にちょっと教えてもらって助かったし、セラに教えてもらえたら絶対理解が深まる」


(また来た。「教えてくれる人」ポジションだ。でも、教えることで自分も整理できる。損ではない。そういえば前に誰かに聞いたことがある——「説明できないことは理解していないのと同じだ」と)


「いつにする?」


「今週末……は?」


「今週末はクエストがあるから」


「来週の金曜の放課後は?」


「それなら大丈夫」


「ありがとう! ほんとに助かる!」


 エリックが去ると、別のクラスメイトのサクラが寄ってきた。サクラは勤勉なタイプで、成績も上位にいるはずだが、今日は少し眉を寄せた顔をしている。


「セラ、私も参加していい? 魔法史の「古代エルフの魔法」のところが全然頭に入らなくて……」


「もちろん。古代エルフの魔法か——あそこは確かに難しいよな」


「年代と人物が多くて、どれがどれかわからなくなる」


「覚え方にコツがある。年代と人物をセットで覚えるんじゃなくて、出来事の流れで繋げるんだ。原因と結果で覚えると、流れが見えてくるよ」


「ああ……そういうことか。直接教えてもらえると全然違うと思う。本当にありがとう」


 サクラが頭を下げた。その目が真剣だ。こういう顔を向けられると、ちゃんと教えようという気持ちになる。


 昼休みが終わる前に、勉強会への参加希望者が六人になっていた。アリアを含めると七人だ。


「セラ、知らないうちに人が集まってる」


 アリアが面白そうに言った。


「気づいたらこうなってた」


「向いてるんだよ、セラ。みんな、セラの説明がわかりやすいって言ってる」


「わかりやすいかどうかわからないけど——人に説明するのは割と好きなんだ。自分の頭の整理にもなるし」


「また前世って言いかけた」


「気のせいだ」


「……まあ、いつか話してくれると思うから」


(アリアはいつも「いつか話してくれると思うから」と言って、それ以上聞かない。信頼ということなんだと思う。「いつか」を待てる人間がいるということ——それだけで、俺にとっては相当な安心感だ)


## 図書館での勉強


 金曜の放課後。


 魔法学園の図書館は、普段より人が多かった。学期末の気配を受けて、自主的に勉強しに来た生徒が増えている。あちこちの机に参考書と魔法具が広がっていた。窓から差し込む西日が、黙々と本を読む学生たちの後ろ姿に当たって、なんとなく絵になる光景だった。


 セラたちは奥の長机に陣取った。最終的に参加者は八人。エリック、サクラ、もう五人のクラスメイト、そしてアリアだ。


「じゃあ、始めようか。今日は魔法理論と魔法史を中心に。どっちから聞きたいことがある人は?」


「魔法理論! 変換式が全然わからない!」


 二人が同時に言った。


(同時に言ったことで笑いが起きた。いいな、こういう空気。笑いながら学べる場所の方が、頭に入るものだ)


「まず、変換式が何をしているかを考えよう。魔力を放出するとき、生の魔力をそのまま出したら何が起きると思う?」


「……暴走する?」


「そう。生の魔力は不安定だ。変換式というのは、その魔力に『形』を与える手順書みたいなもの。だから式を覚えるんじゃなくて、なぜその手順が必要かを理解すると、自然に計算できるようになる」


「あ……そう考えたら確かに」


「試しに第四章の例題一を解いてみて。わからなくなったら止めてくれれば一緒に考えるから」


 エリックが参考書を広げ、式を見つめた。眉を寄せる。考える。セラの説明を思い返すように視線が動いて——


「あ、この変換係数って、ここで使うのか?」


「そう。最初に属性を確定させてから変換する。順番が大事だよ」


「なるほど! なんかわかった気がする!」


 一人が理解すると、他の人も同じ方向で理解しようとする。質問が飛んでくる。セラは一つずつ答えていった。


「俺も聞いていい? 感情制御のところで、自分の感情が強い時と弱い時で魔力出力が変わるのはなんで?」


「感情が魔力のバッファに作用してるから。怒りが強いと魔力の流れが乱れやすくなる。逆に、穏やかで集中した状態だと制御しやすくなる。だから魔法実技の前に精神集中をするのは、理論的にも意味があるんだ」


「じゃあ感情が豊かなやつは魔法も強い?」


「感情が豊かなだけじゃ駄目で、感情を『制御できるかどうか』が大事。暴走した感情は魔力も暴走させる。制御した感情は魔力も制御できる。持っているだけと使えるようになることは、別の話だ」


(これは自分自身に言い聞かせたい言葉でもある。感情を押し込めるんじゃなくて、持った上で制御する——それを意識するようになったのは、ここに来てからだ)


「サクラは? 魔法史の方の質問は?」


「ここのところ——古代エルフの魔法技術が第二魔法戦争に与えた影響。どう理解したらいい?」


「それは流れで説明しよう。第二魔法戦争の前に、まず魔力枯渇の時代がある。各国が魔力資源をめぐって対立していた。そこに古代エルフの魔法技術——大量の魔力を効率よく使う技術——が出てきた。各国がその技術を奪い合う形で戦争が加速した。だから古代エルフは戦争の原因じゃなくて、触媒みたいなもんだ」


「触媒か……」


「最初から流れで覚えれば、誰が何をしたというのも自然に繋がってくるよ」


「確かに……ありがとう、セラ!」


 サクラが頭を下げた。そのまま参考書に向かって書き始める。


 時間が経つごとに、机の空気が変わっていった。最初は「わからない」という焦りが漂っていたのが、少しずつ「わかった」という安堵に塗り替えられていく。質問の声が弾んでくる。


 勉強会は二時間続いた。


(自分が教えながら、自分でも整理されていくのがわかる。「説明できないことは理解していないのと同じ」——今になって実感できている。理解とは、他人の言葉を借りずに話せるようになることだ)


## ミサトとの遭遇


 勉強会が一段落したところで——


「何してんだ、あんたら」


 ミサトが現れた。


 図書館の奥の通路から、参考書を一冊抱えて歩いてくる。セラたちの長机を見て、少し驚いた顔をした。驚きと、それを隠そうとする表情が、ほんの一瞬だけ重なった。


「ミサト? 図書館に来たんか」


「参考書を探しに来た。こんなに人が集まってるとは思わなかった」


「勉強会してた。一緒にどうです?」


 エリックが椅子を一つ引いた。


「私は——」


「座ったらいいですよ」


 セラが言った。


 ミサトは一瞬迷ったが、素直に椅子に座った。


(珍しい。デートの後から、ミサトが少し違う。プライドが邪魔をして断る、という場面で断らなくなってきた。……変化を感じ取るのは、細かいことかもしれないが、確かに変わっている)


「何の科目で詰まってる?」


「……魔法史の、第六章以降。試験範囲は第五章までと言われたが、第六章を知らないと解けない問題があると気づいた」


「それは鋭い。第六章の背景を知ってると第五章の理解が深まる。軽く説明しようか」


 ミサトは参考書を開き、セラの方に向けた。


 勉強会に途中から加わった形になったが、誰も気にしていない。エリックもサクラも、ミサトが来たことに少し驚きつつも、すぐに自分の問題に戻っていた。


(図書館で勉強するミサト。騎士の仕事と学業の両方をこなしているということは、俺より忙しいはずだ。それでも来ている。真剣さが、座り方にも出ている。背筋が伸びている)


「第六章の核心は『魔法の標準化』だ。古代の魔法は個人の才能に依存してたが、第六章の時代に魔法の手順を体系化して、才能がなくても使えるようにした。それが現代魔法の基礎になってる」


「つまり……第六章がなければ、今の魔法学園のカリキュラムも存在しないと」


「そういうこと。だから第五章の試験問題に「なぜ古代魔法から現代魔法への移行が起きたか」という問いが出た場合、第六章の知識がないと答えられない」


「……なるほど。担任も試験範囲外とは言ったが、参考にはなると言ってたな。そういう意味か」


「そういう意味だと思う」


 ミサトは参考書に書き込み始めた。集中している顔だ。騎士として訓練された精神力があるのか、一度集中すると全部がそこへ向かっていく。手が止まらない。疑問が出たら即座にセラを見て、説明を聞いたら書き込む。迷いがない。


(ミサトのこういう顔——一点に集中した時の顔が、俺は好きだ。「好き」という感覚を保留し続けているが、これは信頼感だけじゃない気もする。とりあえず、まだ保留しておく)


「ミサト、試験うまくいきますよ。ちゃんと理解しようとしてるから」


「……激励か?」


「本音です」


「あんた、なんでそんなに人をやる気にさせることが言えるんだ」


「昔からそういう役回りだったのかも」


「前世って言いかけてたな」


 セラは飲み物を一口飲んで、目線をそらした。


「気のせい」


「三回目だぞ」


「気のせいだ」


 ミサトは追及しなかった。でも、少し笑っていた。声には出さない、口元がわずかに動く程度のものだったが——見えた。


(この笑い方が好きだ。声を上げて笑うんじゃなくて、笑うのを止めきれなかった、という感じの笑い方。また「好き」と思ってしまった。保留、保留だ)


「勉強会、次もあれば声をかけろ」


「来週もあるかもしれない。連絡する」


「ああ」


 ミサトは立ち上がり、参考書を閉じた。


「邪魔したな」


「邪魔じゃなかった。来てくれてよかった」


 ミサトは返事をしなかった。でも、図書館の出口に向かう時の背筋が、来た時よりわずかにまっすぐになっていた気がした。


 エリックが「セラさんってすごいですね」と小声で言った。


「何が?」


「なんか、ミサト先輩が笑いましたよ」


「俺のせいじゃない」


「絶対そうですよ」


(俺のせいじゃない。ミサトがそういう気分だっただけだ。多分)


## 冬休みへの期待


 夜。


 寮の部屋に戻ると、ルームメイトのリオが机に突っ伏していた。


「リオ、大丈夫か?」


「……ぬほ……試験……死ぬ……」


「死なないから起きろ」


「セラ……魔法理論の変換式……教えて……」


(またか。でもリオは本当に困ってるんだろうな。助けを求める時間に早いも遅いもない。困った時に声が出せるのは、それ自体が力だ)


「今夜は変換式だけ教えよう。あとは自分でやれ」


「神か……!」


「違う、エルフだ」


「どっちでもいい……救われた……」


 アリアが部屋を覗き込んできた。


「何してるの?」


「リオに試験対策を」


「私も! 今日の勉強会で少し残ってた疑問があって」


「もちろん」


 三人で机を囲んで、もう一時間ほど勉強した。


 リオが「わかった!」と声を上げるたびに、アリアが「良かったね」と笑った。セラはそれを見ながら、この時間が好きだと思った。


(同じ「夜に机に向かっている」でも、誰かのために向かっているのが、全然違う。疲れない。それどころか、どこか満たされる感じがある)


「冬休み、楽しみだね」


 アリアが言った。


「そうだな。ランクアップ試験が冬休み中にある」


「え!? 冬休みに試験があるの?」


 リオが顔を上げた。


「俺たちのランクアップ試験。冒険者ギルドの」


「冒険者の試験……! 格好いい! 私も受けたい!」


「リオは冒険者登録してたっけ?」


「してない……」


「じゃあまずそこから」


「ぬほ……試験期間中に追加でやることが……」


(リオは忙しくなる宿命なんだろうな。でもそういうタイプは成長が早い。「忙しい人ほど動ける」——これは本当のことだ。やることが増えるごとに優先順位が鋭くなる)


「冬休みに一緒に何かしよう。ランクアップ試験以外でも」


 アリアが言った。


「何をするの?」


「みんなで冒険に行ったり、王都を散策したり」


「ミサトも誘う?」


 アリアがセラを見た。目に何かが宿っている。からかいというより——確認、かもしれない。


「……来るかわからないけど、声だけかけてみる」


「来ると思うよ。セラが誘えば」


「なんでそんなに確信がある」


「えへへ」


(なんかアリアに全部見透かされてる気がする。気のせいか、気のせいじゃないか——どっちでもいい。ミサトに声をかけるかどうかは自分で決める)


「まずは試験を乗り越えよう。それから考える」


「そうだね。試験が終わったら、思い切り遊ぶ!」


「アリアはいつもそれを言う」


「試験が終わったら頑張った自分に優しくしないと!」


(その通りだ。試験が終わっても「次のことを考えなきゃ」ですぐに自分に負荷をかけてた。こっちのアリアの「遊ぶ!」という発想、案外正しいんじゃないかと思えてきた。自分に優しくすること——それは甘えじゃない)


 夜の寮の部屋。三人の笑い声。


 試験の緊張と冬休みへの期待が、同じ空間に共存している。


「セラ、ランクアップ試験の実技は何を選ぶの?」


 リオがふと聞いた。


「実戦クリア。模擬戦より、実際のクエストをクリアする方を選ぶ」


「なんで?」


「模擬戦は対人で、相手が人間だから制限がある。実際の魔物の方が、自分の本来の動きができる気がして」


「なるほど……かっこいい発想」


「かっこよくはないよ。単純に自分に向いてる方を選ぶだけだ」


「それが一番かっこいいんだよ!」


 アリアが言った。


「そう?」


「うん。自分に向いてることをちゃんとわかってて、それを選べる人って、あんまりいないよ」


(アリアの言葉が、俺の中の何かに刺さる。向いてるかどうかを考える前に、選択肢があることを疑ってた時期があった。こっちでは選べる。それが根本的に違う)


「リオは実技、何を選ぶ?」


「模擬戦にしようかな……冒険者経験ないから実戦クリアは怖くて」


「それも正しい選択だよ。自分の限界を把握してるのは強みだ」


「そういう言い方してくれると、リオも考えが整理できる。セラって説明がうまいね」


「昔から、人に説明するのは好きなんだ。自分の考えを整理するためにもなるから」


「また前世って言いかけた」


 リオが指摘した。今度はアリアじゃなくリオに言われた。


(二人に指摘されるようになった。ますます気をつけないといけない)


「……気のせいだ」


「怪しいなあ」


「気のせいだって」


「まあいいや。おやすみ、セラ」


「おやすみ、アリア。リオも」


「……おやすみなさい……変換式は明日も復習します……」


「それでいい」


 部屋に戻って窓から外を見た。王都の夜。学期末の空気が街に漂っている。遠くに灯火がいくつか見える。どこかの学生が今夜も机に向かっているのかもしれない。


 三週間後の試験。ランクアップ試験。冬休みの計画。ミサトのこと。アリアとの約束。


 やることはある。でも、一人じゃない。


(それだけで、だいぶ違う。本当に、だいぶ違う)


 月明かりが窓から差し込んでいた。セラはしばらくその光の中に立っていた。


(ミサトが今日、素直に椅子に座った。先週からミサトが変わってきてる気がする。プライドで動く場面が減って、正直な行動が増えた。それは気のせいかもしれないが、なんとなくそう感じる。気のせいじゃないといいな、と思う程度には、気になっている)


 ランクアップ試験の参考書を開いた。


「Eランク魔物の分類と対処法」。


 今度は頭に入ってくる。昼間ぼーっとしていた時と、同じ本のはずなのに。


(集中できる時とできない時の差って、結局「頭が何かに引っかかっているかどうか」なんだよな。今は、頭の引っかかりが取れてる)


 一時間ほど読んで、本を閉じた。


 眠くなってきた。試験と勉強会と、充実した一日の疲れが来ている。


「三週間後の試験。ランクアップ試験。来週はミサトも含めて三人のクエスト」


 独りごとを言った。


「詰め込んでるな、俺」


(でも、全部やりたいことだ。「詰め込まれている」じゃなくて「詰め込んでいる」のが、俺の今の状態だ。主語が自分にある。それが大事だと、ここで学んだ気がする)


 ベッドに入った。


 目を閉じると、今日の勉強会の声が断片的に蘇ってくる。エリックが「なるほど!」と言った顔。サクラが「ありがとう」と頭を下げた瞬間。ミサトが素直に椅子に座った時の、少し驚いた自分の感覚。


(良い一日だった。また明日、良い日にしよう)


 セラは眠りに落ちた。


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