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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第98話 ミサトとのデート

# 第98話 ミサトとのデート


## 誘い


 中庭のベンチで、セラはぼーっとしていた。


 昼休み。陽だまりの中庭。噴水が水を吐き出している。鳥が飛んでいる。空は青い。魔法学園の日常というのは、静かで穏やかで、こういう時間があるのがありがたい。


 ページをめくる。「Eランク魔物の分類と対処法」。文字は追えているが、意味が頭を通過している感じがする。


(駄目だ、集中できてない。こういう時は無理に読んでも頭に入らないから……)


「……何してんの、あんた」


 声がした。


 低め。少し刺のある口調。


 聞き覚えのある声。


 顔を上げると——ミサトが立っていた。


 近衛騎士団の制服ではなく、学園の生徒としての格好をしている。栗色の髪が風に揺れている。腕を組んで、少し上から目線でこちらを見下ろしていた。


「ミサト? 珍しい、こんな時間に中庭に来るの?」


「悪いか」


「悪くはないけど」


 ミサトが昼の中庭に来るのは珍しい。いつも生徒会室か訓練場にいるイメージだから。


「参考書、読んでるのか」


「一応。でも頭に入ってない」


「そういう時は読んでも無駄だ。切り替えろ」


「それはそうなんだが、切り替えるものが——」


「……街に行かないか」


「え?」


 ミサトが少し視線をそらした。


「今日、午後は自由にしていい時間がある。特に予定もないから、その……王都を回りたいと思って」


 言い終わって、ミサトは少し顔を赤くした。


 セラは三秒ほど固まった。


(ミサトが——誘ってきた?)


「ミサトが、誘ってきた?」


「変なことか」


「変ではない。ただ、珍しい」


「……うるさい」


(照れてる。明らかに照れてる。ミサトがこんな顔をするのは、あまり見ない。耳まで赤くなってる)


「わかった、行こう」


「え?」


「いや、だから行く、って。断る理由もないし」


 ミサトがまた少し顔をそらした。今度は耳まで赤くなっている。


「……わかった。じゃあ午後の授業が終わったら門を出よう」


「了解。どこに行く?」


「あんたが決めろ」


「決めていいの?」


「……好きにしろ」


(「好きにしろ」という言葉を、こんなに可愛い感じで使えるのがミサトという人間の不思議なところだ。ミサトの「任せる」は、ちゃんと信頼して任せてる感じがする)


## 街へ


 午後の授業が終わり、二人は学園の正門を出た。


 王都の大通りが広がった。商人の声、子供の笑い声、馬車の音——いつもの王都の昼過ぎの顔だ。


 ミサトは制服ではなく、青いシンプルなワンピースに薄手のコートをはおっていた。


 セラは一瞬止まった。


「どうした」


「……その格好、見たことなかったから」


「あ、あんたは何が言いたい」


「似合ってると思って」


 ミサトが固まった。


 完全に固まった。三秒。四秒。


(本音を言った。特に計算はない。ただ、思ったことが口から出た。問題あったか? でも本当に似合ってる。青色が栗色の髪に合ってて、いつもの鎧姿とまるで別人みたいだ)


「……そういうことを、急に言うな」


「急でもないよ。見た瞬間に思った」


「それが急だって言ってるんだ。まったく……」


 ミサトが前を向いて歩き始めた。でも、口元が少し緩んでいた。


(怒ってはいない。これは——喜んでる)


「どこに行くんだ」


「そっちの通り。雑貨屋があるんだ、一回行ってみたかった」


「雑貨屋……」


「嫌か?」


「……別に嫌じゃない」


 大通りを歩きながら、様々な店が並んでいる。魔道具屋、食料品店、服屋、武器屋、本屋——王都は、エルフの森の生活とはまるで違うスケールの日常が詰まっている。


「王都、慣れた?」


 セラが聞くと、ミサトはしばらく考えた。


「まあ……慣れてきたとは思う。最初は騎士団の任務で来ることしかなかった。今は学園にも通ってるから、街に出ることが増えた」


「故郷とは違う?」


「まるで違う。故郷は小さな村だ。こんなに人が多い場所は、最初は騒がしくて仕方なかった」


(ミサトの故郷が小さな村。意外でもあるし、それを想像するとなんとなく理解できる気もする。最初は圧倒されて、でも慣れていく——そのプロセスが、ミサトの騎士としての歩みに重なってる気がする)


「今は好きか、王都が」


「……嫌いじゃない。学園に来てからは、特に」


「学園があるのとないのじゃ違う?」


「同じ年頃のやつらと話すのは、騎士団にいるとなかなかない。悪くない」


 少し意外な返事だった。ミサトが「悪くない」と言う時は、かなり良いという意味だ——それはなんとなくわかってきた。


(今のミサトは、騎士としての顔じゃなくて、ただの一人の学生の顔をしてる。こういう表情を見せてくれるのは、どのくらいの人間に対してなんだろう。たぶん多くはない、という気がする)


 大通りの途中、ミサトが足を止めた。


「あの店」


「ん?」


「武器屋だ。見てもいいか」


「どうぞ」


 武器屋の前に来ると、ミサトの目が少し輝いた。


(騎士が武器屋を見る時の顔は別格だ。本職の人間の目になる)


 入ってみると、棚に様々な剣と短剣が並んでいる。ミサトはメンテナンス用の砥石を手に取り、しばらく確認していた。


「剣を自分でメンテナンスするのか」


「当たり前だ。自分の武器の状態は自分で管理する。騎士の基本だ」


「そういうのって、師匠に習ったのか」


「……師匠、か。騎士団に入ってから上官に叩き込まれた。最初の一年は剣の管理だけを延々とやらされた」


「一年間?」


「戦い方より先に、道具との向き合い方を覚えろということだ。今でも、その訓練があったから今の自分があると思ってる」


(自分の道具との向き合い方。ミサトは根が真面目だ。こういう話を自然にしてくれるようになってきた。最初の頃はこんな話をしてくれなかった)


 砥石を一つ買って、ミサトは店を出た。


「ありがとう、付き合ってくれて」


「俺も面白かったよ。ミサトが武器屋を見る時の顔、こういう顔をするんだって思った」


「どんな顔だ」


「本職の顔」


 ミサトが少し目をそらした。


「……当たり前だ」


(否定しなかった。それが答えだ)


## 雑貨屋


 雑貨屋の中は、小物と生活用品で埋め尽くされていた。


 水晶細工、小型の魔法具、香油の小瓶、刺繍の入ったハンカチ、精巧な木工細工——こういう店、好きだ。


(一人だったら「いいな」と思っても声に出す相手がいなかった。今は隣にミサトがいる)


「何があるんだ」


 ミサトが半歩だけ店内に踏み込んで、目を細めた。


「色々。この水晶の置物、面白い。中に光が封じてある」


 セラが手に取ったのは、小さな球形の水晶だった。中に緑の光が瞬いている。観賞用の魔法具だ。


「綺麗だな」


「値段は銀貨二枚」


「高い」


「ミサトは厳しいな」


「妥当な評価だ。装飾品にそこまで出す必要はない」


「実用的な人だな」


「当たり前だ。騎士は実用性で装備を選ぶ」


(ミサトの「実用性で選ぶ」という考え方。でも装飾品には「気持ちが上がる」という実用性があると、この世界で少し思うようになった)


「でも、これ見てる時のミサトの顔、興味あった」


「う……べつに興味はない」


「あ、でもあっちの棚が気になってる」


「なってない」


「見てるじゃないか」


 ミサトが少し鼻を鳴らして、棚の方へ歩いた。香油の小瓶が並んでいる棚だった。


 一つを手に取り、蓋の部分をかすかに開けて匂いを確認する。表情が、ほんの少しだけ柔らかくなった。


「ラベンダー系か?」


「そうみたいです、って書いてある。睡眠補助用だって」


「……眠れないことがある」


 ぼそっと言った。


(仕事のプレッシャーだろうな。近衛騎士団の人間として、学業との両立も含めて、背負ってるものが多い。頭が切り替わらない夜がある——その顔だ)


「試してみたら? 銀貨一枚ぐらいだし」


「……そうする」


 ミサトは迷わず香油の小瓶を持ってレジへ向かった。店主の老人が愛想よく受け取り、小瓶を丁寧に紙で包む。


 セラはその間、水晶細工の棚を見ていた。さっきの緑の光の水晶が、まだ光っている。


「あんたは買わないのか」


「これ、どうしようかなと思って」


「何に使う」


「使い道は特にないけど、なんか気に入ってしまった」


「……役に立たないものに銀貨二枚を使うのか」


「ミサトは今、役に立たないかもしれない香油を買ったが?」


「あれは睡眠補助だ。役に立つ」


「それは役立つと決めてから買った。俺のはまだ役立つかわからないが——気に入ったから買う」


 ミサトは一瞬何か言いかけて、止めた。


「……好きにしろ」


「買う」


(今世の俺、衝動買いになった。「気に入ったら買う」に変わってる。感覚的に動けるようになってる気がする——変わった)


## カフェで休憩


 雑貨屋を出て、もう少し歩いたところに、小さなカフェがあった。


 木製の看板。窓から暖かい光が漏れている。通りに面した窓に、温かい照明が滲んでいた。


「休憩しようか」


「……いいな」


 中に入ると、香ばしい匂いが漂っていた。豆を煎じた飲み物と、焼き菓子の匂い。カウンターには焼きたてらしき丸いパンが並んでいる。壁際には棚があって、珍しい茶葉の缶が並んでいた。常連客らしき老夫婦がゆったりと話している。王都の静かな昼下がりだ。


「この匂い、好きだ」


「俺も。この世界で初めてこういう匂いの店に入った時——懐かしい気持ちになった」


「懐かしい、とは?」


「いや……なんでもない」


(前世ネタが出かかった。気をつけろ俺。でもミサトは転生者だという話をされているわけではないから、「前の記憶」という話をすると妙なことになる)


 窓際の席に向かい合って座った。ミサトがメニューを見る。セラも見る。


「これにする」


「俺も同じでいいか」


「……同じでいいなら、まとめて頼む」


 注文を済ませると、少し静かになった。


 飲み物が来るまでの間、セラは窓の外を眺めた。夕方に差し掛かった王都の通り。人の流れが少し変わっている。帰路につく人間が増えてきている時間帯だ。


 外では王都の日常が続いている。商人が声を張り、子供が走り、馬車が通る。


「あんた、エルフの森のことを思い出すことはあるか」


 ミサトが突然言った。


「ある。たまに。でも今は王都の方が長い感じがしてきてる」


「そうか。私は……故郷を離れて来たから、時々思い出す」


「故郷の人たちは?」


「家族がいる。離れている。……あまり話したくないが」


「そっか、すまない」


「謝るな。聞いてくれたのは悪くない」


(ミサトなりの「ありがとう」だ。不器用なままで、でも素直に気持ちを返してくる)


 熱い飲み物が運ばれてきた。陶器の杯。湯気が立っている。一口飲んだ。香ばしくて、少し苦くて、あたたかい。この世界で一番好きな飲み物かもしれない。


「あんた、エルフなのに、なんか前の世界の人間みたいな発言をする」


 ミサトが言った。


 セラは飲み物を持ったまま、一瞬止まった。


(やばい。どのくらい気づいてる?)


「……そうか?」


「なんか常識とかものの見方が、普通のエルフと違う。アリアさんと一緒にいるとよくわかる。あの子は典型的なエルフの子で、あんたは違う」


「面白い見方だな」


「否定しないのか」


「否定できないから」


 ミサトが少し目を細めた。


(深追いするつもりか? でも、ミサトは——なんとなく、それ以上聞かないような気がした。「聞きたいけど、相手が話したくなければ聞かない」——そういう人間の顔だ)


「……まあ、いい。あんたはあんただ」


「そういう結論?」


「それで十分だろ」


(それで十分。その言葉の重さを、セラはしばらくかみしめた。前世でこの言葉をかけてもらったことが一度でもあったら、違ったかもしれない)


「ミサト、誰かを守りたいっていう気持ち、強いよな」


「……なんだ、急に」


「騎士になったのも、そういう気持ちから?」


「……わかるのか」


「なんとなく」


 ミサトはカップを持ったまま、少し黙った。


「守りたい、という気持ちは——ある。でも……あんたに出会って、少し変わったかもしれない。エルフだからといって、すべてが同じじゃないって、気づかされた」


「どういう意味?」


「あんたを見てると、背景は関係ないと思えてくる。どこから来たかじゃなくて、何をするか——それだけだ」


(かなり本音に近い言葉だ。ミサトがこういうことを言う時は、きちんと考えた上で言ってる)


「そうだな。どこから来たかより、今何をするか、の方が大事だと思う」


「……あんたは、わかってるんだな」


 外で子供が笑う声がした。


「今日、来て良かった」


 ミサトがぽつりと言った。


「俺も」


「……また、誘っていいか」


「いつでも」


## 帰り道


 カフェを出た時、夕方になっていた。


 王都に灯りが入り始めている。石畳の上に魔法灯具の光が落ちて、道が金色に見える。


(誰かと並んで夜の街を歩いて帰る。こういう感じなんだな。良い感じだ)


「来週、クエストに来るんだっけ」


「ああ。実戦経験を積みたい。近衛騎士団の訓練は型があるが、実際の魔物は型通りには動かないからな」


「確かに。昨日のコウモリもそうだった」


「コウモリ?」


「古井戸の調査で、壁の隙間から群れが出てきた。想定外だった」


「……どう対処した」


「ウィンドプッシュで散らした。閉鎖空間だったから、最小出力で」


「それは正しい判断だ。閉鎖空間での全力魔法は崩落のリスクがある」


「そういう発想、ちゃんとできてたんだな」


「当たり前だろ」


「昔は、少し考えすぎて手が遅れることがあったから」


「成長したんだな」


(ミサトに「成長した」と言われた。素直に嬉しい。胸の中が少し温かくなる)


 足取りが、さっきより軽くなっていた。


 並んで歩く。石畳の上に二人の影が伸びていた。


「来週のクエスト、いよいよ三人になるな」


「ああ。アリアさんも一緒なんだろう?」


「そう。どういう動きになるか、少し話しておきたい。俺とアリアの連携は慣れてるけど、ミサトが入ると編成が変わる」


「私は防御型だ。盾として動くか、攻撃の前線に出るかは状況による」


「それを聞いて安心した。ミサトは攻撃側かと思ってたから」


「……騎士は防御が基本だ。守れてこそ攻撃が活きる」


(全体を把握して、リスクを管理して、動ける状態を維持する。攻撃型の人間が目立つけど、守れる人間がいないとチームは崩れる)


「じゃあ俺とアリアが攻撃担当、ミサトが守りを固めてくれる形か」


「それで動けると思う。あんたの魔法の射程と、アリアさんの即応性は把握してる」


「把握してたのか」


「勉強会で見てた。あんたは遠距離から面で攻撃する。アリアさんは近中距離で単体を素早く仕留める。私は近距離で盾になれる」


(ミサトは観察していた。俺とアリアの戦い方を。騎士の目で分析していた。これはありがたい)


「ミサトが来てくれて、助かる」


「……礼を言うな」


「本音だから言う」


「……フン」


(照れ隠しのフン。これ、かなり可愛い。この世界のツンデレの「フン」は破壊力が高い。デジタル的に解読すると「嬉しいけど素直になれない」という意味だ)


 角を曲がった時、ミサトの手がセラの腕にわずかに触れた。人込みで間隔が狭まったせいだ。ミサトはすぐに離れ、何も言わなかった。セラも何も言わなかった。


(ふわっとした感触。体温。……ミサトとの距離感、なんか今日ので変わった気がする——いや、考えすぎか。でも感じた。確かに感じた)


「……次のクエスト、難易度はどのくらいだ」


 ミサトが歩きながら言った。


「依頼書には中難度とあった。ゴブリンの群れ、と複数の個体。ただ、巣が郊外にあって、奥が不明だから——潜伏してる上位個体がいる可能性を担任教師に言われてる」


「上位個体か。騎士団でもゴブリンハイロードには何度か遭遇した。あれは先読みができる」


「先読みができるゴブリンって、どんな感じ?」


「群れを使って囲む。後ろから来る。弱い個体を囮にする。——普通の討伐依頼だと思って油断した冒険者がやられるパターンが多い」


(それは怖い情報だ。でも事前に知っておいた方がいい。ミサトが戦術情報を共有してくれてる、これはありがたい)


「教えてくれてありがとう。一人だったら知らなかった情報だ」


「知らずに行って死ぬよりマシだろ。……あんたは死ぬな」


「断言するんだ」


「断言する。あんたが死ぬのは、嫌だ」


 さらっと言った。


 でも、耳が赤くなっていた。


(嫌だって言った。……ミサトが「嫌だ」って言ってくれた。なんか、それだけで来週のクエストが一段と楽しみになってくる)


「セラ、来週のクエスト、詳細を教えろ」


「ギルドで確認してから連絡する。学冒両立支援プログラムの通知先は?」


「今は生徒会室。週末は訓練場の詰め所に連絡が届く」


「了解。じゃあどっちかに送る」


「頼む」


 学園の正門が見えてきた。


「今日は、その……楽しかった」


 ミサトが言った。前を向いたまま。


「俺もだよ」


「……また、連絡する」


「待ってる」


 ミサトは門をくぐった。振り返らずに、でも歩調が少し軽くなったように見えた。


 セラは正門の前でしばらく立っていた。


(ミサトが「また連絡する」と言った。「誘っていいか」から「連絡する」に変わった。積極的な変化だ。確実に変化してる)


 夜風が吹いた。


(まあ、考えてもわからないことを考えても仕方ない。来週、一緒にクエストに行く。それだけで今日は十分だ)


 セラは門をくぐった。今日という日が、思ったより良い一日だったことを、胸の中でひっそりと確認しながら。


 水晶の置物が、コートのポケットの中で微かに光っていた。


 部屋に戻って窓から王都の夜を見た。


(今日一日を振り返ると——なろう系の主人公だこれ。ツンデレの騎士女と二人で街を歩いて、カフェで語って、夜景を並んで歩いた。現実みたいだ)


(でも、これは俺自身の現実だ。俺は確かにサラリーマンだった。それがセラになって、今日ミサトと並んで歩いた。両方が本当だ)


 ミサトの声が頭の中に蘇った。「また誘っていいか」——から「また連絡する」へ。


(ミサトの変化は確実にある。先週より今週の方が、壁が少し薄くなった感じがする。でも焦ってはいけない。ミサトのペースに合わせる方がいい)


 それと——今日ミサトと話して改めて思ったが、ミサトは騎士としての責任感と、個人としての孤独を両方持ってる人間だ。


(「プロとして完璧にやる」という姿勢が、人との繋がりを薄くしてしまうやつ。ミサトはそのバランスを取ろうとしてる。今日の街歩きも、その一環だったのかもしれない)


 セラは水晶の置物を取り出してみた。緑の光が、暗い部屋の中で静かに瞬いている。


「気に入ったから買う」


 今日のその判断は、正しかったと思う。


(役に立つかどうかわからなくても、「好きだから」「気に入ったから」という理由で選べるようになってきた。感覚的に動けるようになってる——それでいい)


 ベッドに横になった。


「来週、ミサトも一緒のクエストか」


 独りごとを言った。


(三人のパーティ。俺とアリアとミサト。どういう動きになるか、想像してみる。ミサトは防御型で安定している。俺は広域魔法が得意。アリアは機動力がある。バランスとしてはかなり良いパーティだ)


(良いチームというのは「違うタイプが補い合った時」だ。来週がそれになれるかどうか——楽しみだ)


 窓から夜風が吹いてきた。


(そういえば——ミサトが「あんたが死ぬのは嫌だ」と言った。あれ、耳が赤かったな。ミサトにそんなことを言わせるとは。俺も変わったが、ミサトも変わってる)


(最初の頃のミサトは、セラに対してどこかよそよそしかった。エルフというだけで一線を引いてた。でも今日、二人で歩いて、話して——そのよそよそしさがだいぶ薄くなってる。近付いてきてる。確実に)


(武器屋で「本職の顔」をしてたミサトも、雑貨屋で香油の匂いを確認してたミサトも、カフェで「今日来て良かった」と言ったミサトも——全部同じ一人の人間だ。騎士団の厳しいミサトだけじゃない。今日はその別の面を、ずっと見せてもらえた気がする)


 水晶の置物をベッドサイドの棚に置いた。緑の光が天井に反射してちらちら揺れた。


(来週のクエスト、どうなるかな。ゴブリンの群れ。ミサトが言ってた上位個体。アリアと三人でどう動くか——頭の中でシミュレーションしてみる。ミサトが前衛に出て壁を作る。俺が中距離からウィンド・エッジで面制圧。アリアが後方支援と機動力でフォロー。理屈の上ではうまく機能するはずだ。実際にやってみないとわからないけど)


「……楽しみだな」


 また独りごとを言った。


 クエストが楽しみ。仲間と一緒に戦うのが楽しみ。その中にミサトが入ってきたのが——特別に楽しみ。


(俺、この世界でちゃんと楽しんでる。それが一番大事なことかもしれない)


 目を閉じた。


 今日は良い一日だった。


 良い一日だったと思える日が、気づいたら増えている。


 それが、今世を生きることの意味なのかもしれない。


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