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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第94話 定期試験

# 第94話 定期試験


## 試験当日


 目が覚めた。


 天井。見慣れた天井だが、今日の朝は違う重みがある。


 (今日だ。いよいよ定期試験だ)


 ベッドから起き上がる。昨晩は勉強会の後も一人で参考書を読み返し、深夜まで準備をしていた。不思議と緊張よりも高揚感がある——試験が楽しみだなんて、この世界に来てから身についた感覚だ。


 着替えながら、窓の外を見る。朝日が校舎の屋根を染め始めている。美しい朝だ。


 (試験の前夜、眠れずに天井を見続けた経験なら数えきれないほどある。でも今夜は不思議と眠れた。魔法理論も魔法史も、感情と魔力のリンクも、全部頭の中に入っている感覚がある)


「ん……セラ、起きたのか?」


 隣のベッドでライルが寝返りを打つ。


「ああ。朝だよ」


「試験の日か……緊張するな」


「大丈夫。勉強会で十分やったし」


「セラが教えてくれたから、俺たちもだいぶ理解できた。ありがとうな」


「先生ではないけど」


 鏡に映る自分の姿を見て、深呼吸する。銀髪のエルフ。転生してからもうずいぶん経つ。最初は困惑ばかりだったが、今ではこの体も、この世界も、ある程度受け入れられている。


「行くぞ」


「ああ」


 食堂へ向かうと、アリアとミナがテーブルに座っていた。


「おはよう、セラくん」


「おはよう、アリア、ミナ」


「おはようにゃ〜。今日、試験だね。緊張するにゃ」


「昨晩は遅くまで勉強してたんだよね?」


「うん、セラくんに教えてもらったおかげで、だいぶ分かるようになったよ」


「魔法理論は少し難しかったけど、説明がとても分かりやすかった」


「ありがとう。アリアも頑張ってたね」


「えへへ、ありがとう」


 朝食はシンプルなパンとスープ、スクランブルエッグだった。パンをかじりながら、今日の試験について頭の中で確認する。


 一日目の午前中は魔法理論。午後は魔法史。二日目の午前中は魔法陣基礎、午後は実技。三日目は一般教養。三日間の戦いだ。


「みんな、準備いい?」


「うん! セラくんのノート見せてもらったから!」


「ゴウタくん、昨日『おら、魔力を感じるぞー!』って叫んでたにゃ」


「ああ、あれは印象的だった」


「お、セラ!」


 食堂から出ると、ゴウタが駆け寄ってきた。


「朝だな。緊張するか?」


「少し! でも、昨日の練習のおかげで自信はある!」


「いい返事だ。実技試験なら大丈夫だが、筆記も頑張らないと」


「うっ、筆記は苦手だ……」


「大丈夫。勉強会でやったところが出るはずだ」


「セラさん、昨日の魔法陣の覚え方、夜中に復習して、だいぶ覚えられました」


「いいな、そのやる気」


 一年A組の全員が集まった。クラスの空気は、緊張しつつも決意に満ちていた。


「よし、みんな。頑張ろう。三日間の戦いだ。でも、俺たちならできる」


「おお!」


「頑張るぞ!」


## 筆記試験


 試験会場は学園の大講義室だった。


 広大だ。数百の机が並び、前方には試験官たちの席がある。試験監督はリナ先生と、厳格なことで有名なゼルフィ先生だ。


「静かに!」


 ゼルフィ先生の声が響き渡る。場が一瞬で静まり返る。


「席につくこと。名前と番号を確認すること。不正行為は厳禁だ。発見した場合、即座に失格となる」


 自分の席へ向かう。番号は一番前から数えて三列目、四番目の席。アリアは隣の列、ゴウタは後ろの列だ。


「座れ」


 全員が一斉に着席する。


「これより、魔法理論の試験を開始する。問題用紙と解答用紙を配る。名前を書くこと。開始の合図があるまで、問題用紙を開いてはならない」


 問題用紙が手元に届く。まだ閉じたままの用紙を見つめ、深呼吸した。


「よし、開始」


 ゼルフィ先生が砂時計をひっくり返す。


 セラは問題用紙を開いた。


 問い一:魔力の基本原理について説明せよ。


 (来た。これは勉強会でやった範囲だ)


 問い二:古代エルフの魔法と現代魔法の違いを三つ挙げよ。


 (余裕。三つどころか五つ言える)


 問い三:感情と魔力のリンクについて具体的な例を挙げて述べよ。


 (これは昨日の勉強会そのままだ。ゴウタが初めて魔力を感じた時の例を書けばいい)


 ペンを走らせる。


 魔力の基本原理は、魔力→意識→現象の流れ。体内のマナを意識によって制御し、現象を引き起こす。この基本中の基本を、簡潔に説明する。


 古代エルフの魔法と現代魔法の違い。一つ目は感情増幅の有無。二つ目は詠唱の必要性。三つ目は魔力効率の差。


 感情と魔力のリンク。楽しいことを思い出すと風魔法の質が変わる。熱意は火属性に影響する。悲しみは水魔法の温度を下げる。


 手は止まらない。知識がスラスラと出てくる。教えることで、自分でも理解が深まっていたことに気づく。


「残り三十分」


 リナ先生が声をかける。周りで焦りが広がる様子が感じられる。


 セラは再度、自分の解答を確認する。問題文の要求に正しく答えているか。論理構成は妥当か。


 よし、これで大丈夫だ。


「終了。ペンを置くこと」


 ゼルフィ先生の声で、全員がペンを置く。


「よし、まずは一科目完了」


## 休憩時間


「どうだった?」


 廊下へ出ると、アリアが話しかけてきた。


「うん、だいぶできた気がする。セラくんは?」


「まあ、まずまずかな。勉強会でやったところがたくさん出てたから」


「よかった」


「おー、難しかった! でも、最後の最後で思い出せたから書けたよ」


「健闘だったな」


 中庭に向かうと、多くの生徒が休憩していた。ベンチに座り、空を見上げる。


「お、セラ!」


 カトレアが手を振ってきた。


「カトレアさん、お疲れ様。どうだった?」


「エルフの魔法とはまた違う視点から問われるから、面白いわね」


「カトレアさん、得意そうだね」


「商売のためにも魔法の知識は重要だからね。借金返済に直結するし!」


 (カトレアは今日も全ての道を借金に通じさせた。感服する)


「セラ、実技も自信あるよね?」


 アリアが聞く。


「筆記よりは、という感じかな。無詠唱魔法はできるし」


「あの無詠唱、本当にすごいよね。私まだ詠唱しないとちゃんと発動できない」


「アリアも練習すればできるよ。才能はあるんだから」


「うん、頑張る!」


 休憩時間はあっという間に過ぎる。


「次は魔法史だ。頑張ろう」


「魔法史って、年号とか覚えるのが大変だよな」


「でも、古代エルフの歴史は面白いよね」


「そうそう。あの時代は魔法がもっと日常に根付いてたんだって」


「はい。古代の文化に興味があって」


 みんなで話しながら、再び試験会場へ向かう。


 魔法史の試験も、魔法理論と同じ形式だった。


 問い一:古代エルフの黄金期について説明せよ。


 問い二:魔法戦争の原因と結果について述べよ。


 問い三:中世魔法の発展に貢献した三人の魔法使いを挙げよ。


 これも勉強会でやった範囲だ。


 古代エルフの黄金期は千年ほど前。エルフは自然と深く共鳴し、強力な魔法を行使していた。


 魔法戦争は、古代エルフの勢力拡大に対する他種族の反発から始まった。結果として、古代エルフの文明は崩壊し、魔法の知識の多くが失われた。


 セラは手を動かす。知識が湧き出てくる。


「終了」


 魔法史の試験も終了。


## 魔法実技試験


 二日目の午後、最後の試験は魔法実技だった。


 試験会場は学園の演習場。広大な芝生の広場に、一年生から三年生までの生徒が集まっていた。筆記試験の静謐な雰囲気とは対照的に、ここでは緊張と高揚が入り混じった空気が漂っている。


「ここが実技会場か……」


 ゴウタが緊張した声で言う。


「広いな。三年生の先輩たちもいる」


「静かに」


 ゼルフィ先生の声が響く。場が一瞬で静まり返る。


「魔法実技試験を開始する。一人ずつ出てきてもらい、指定された魔法を披露してもらいます。評価基準は、魔力の制御精度、詠唱の正確さ、魔法の威力、そして安全性の四点です」


「失敗しても再試験はありません。ただし、危険な行為があった場合、即座に試験終了となります。理解したか」


「はい」


 セラは自分の番号を確認する。早い順番だ。


「緊張する……」


 アリアが小さな声を呟く。


「大丈夫。アリアならできるよ」


 セラが励ます。


「でも、無詠唱はやめておけよ? 試験官に驚かれるかもしれないから」


 ライルが忠告する。


「ああ、分かった。普通の詠唱でやるよ」


 最初の受験者が前に出る。


「火魔法の初級『ファイア・ボール』を放て」


「マナの源よ、我が呼びに応じ、熱き炎の力となれ。ファイア・ボール!」


 拳大の火の玉が現れる。空中にふわりと浮かび、数秒後に消えた。


「合格」


「よかった!」


 順次、生徒たちが試験を受けていく。


 ゴウタの番が来た。


「ゴウタ・ストーン。火魔法の初級『フレイム・アロー』を放て」


「大丈夫、ゴウタ。練習した通りに」


 セラが小声で言う。


「マナよ、我が手に集い、矢となって貫け。フレイム・アロー!」


 火の矢が杖の先から現れ、前方の標的に向かって飛ぶ。命中。


「……合格」


「おおー!」


 ゴウタがガッツポーズをする。


「やった! セラ、できたぞ!」


「健闘だったな」


 アリアの番が来た。


「アリア・ライト。水魔法の初級『アクア・シールド』を展開せよ」


「水の精霊よ、我が呼びに応じ、護りの盾となれ。アクア・シールド!」


 アリアの前に、半透明の水の盾が現れる。しっかりとした形で、安定した魔力を感じさせる。


「……合格。安定した魔力制御だ」


「はい、ありがとうございます!」


 アリアが安堵の表情でセラの方を見る。セラは微笑んで頷いた。


 そして、セラの番が来た。


「セラ・ウィスパーウィンド。風魔法の上級『エアロ・ストーム』を放て」


 静まり返る。


 上級魔法だ。一年生が上級魔法を試験で使うのは異例。


「……上級魔法、ですか?」


「ああ。お前の評判は聞いている。無詠唱で初級魔法を扱えると。だが、ここでは詠唱のある魔法を試す」


 ゼルフィ先生が淡々と言う。


 セラは深呼吸し、演習場の中央へ出る。全員の視線が集中している。


 (詠唱でいく)


 胸の奥で、魔力が渦を巻き始める。感情と魔力のリンク。楽しい記憶を呼び起こすと、風の要素が応える——それは授業で学んだことではなく、体が自然に知っていること。


「風の精霊よ、我が呼びに応じ、荒ぶる嵐となりて敵を打ち払え。エアロ・ストーム!」


 セラの声が響く。


 杖の先から、突風が巻き起こる。単なる風ではなく、渦を巻く嵐となって演習場を包み込む。周囲の生徒たちが髪をなびかせ、驚きの声を上げる。


 風はセラを中心に旋回し、前方に向かって吹き付ける。演習場の木々が揺れ、芝生が波打つ。


 そして、セラの制御により、嵐は静かに収まっていく。


 演習場は静寂に包まれる。


「……」


 試験官たちが顔を見合わせる。


「……一年生で、上級魔法を」


「しかも、詠唱完璧。魔力の制御も正確。威力も……」


「……合格」


 ゼルフィ先生が告げる。


「一年生にして上級魔法。学園の歴史を変えるかもしれん」


「ええっ!」


 周りの生徒たちが驚きの声を上げる。


「セラ、すごい!」


 ゴウタが叫ぶ。


「すごすぎるよ!」


 アリアが目を輝かせる。


 セラは深くお辞儀をする。


「ありがとうございます」


 (視線が痛い。まあ、悪い気はしないが)


## 全試験終了


「終わったー!」


「やっと終わったぁ!」


「お疲れ様!」


 三日目の一般教養の試験も終わり、大講義室から解放感が溢れ出した。


「全て終わった……」


「やったね、セラくん!」


 アリアが駆け寄ってくる。


「お疲れ様!」


「にゃ〜、疲れた〜」


「みんな、お疲れ様」


「セラ、ありがとう。教えてくれたおかげで、なんとか戦えたよ」


「いや、みんなが頑張ったからだよ」


「セラさんの教えてくれた通り、問題を解くことができました。ありがとうございます」


「いいな、その調子で」


 クラスメイトたちが集まり、達成感を共有する。


「みんな、お疲れ様! 今夜、食堂で祝いましょうか?」


「いいね!」


「賛成!」


「セラ先生、来てくれてよかった」


「先生ではないけど」


 セラは苦笑する。


 中庭へ出ると、空が夕焼けに染まっていた。


「綺麗な夕日ね」


「うん、本当に」


 アリアと並んで、夕日を眺める。


「三日間、頑張ったね」


「えへへ、セラくんのおかげだよ」


「俺はただ教えただけだよ。本番はみんなが自分で戦った」


「うん、でも、セラくんがいてくれて、本当に良かった」


 アリアがセラの腕に絡まる。


「……ありがとう」


「どういたしまして」


 夕日が二人の影を長く伸ばす。


「ねえ、セラくん」


「ん?」


「結果が出るまで、少し心配だけど……でも、私、頑張ったから」


「ああ、アリアは頑張った。自信を持っていいよ」


「うん、セラくんと一緒なら、なんでもできる気がする」


「大げさだな」


「えへへ、でも、そう思うの」


 ライルもやってくる。


「お、二人してイチャついてるな」


「全然イチャついてないよ」


「えへへ、でも仲が良いのは嬉しいな」


「よし、今夜は祝杯だ!」


「賛成!」


 カトレアも来る。


「私も加わっていい?」


「もちろん、カトレアさんもお疲れ様!」


「ありがとう。借金返済のために魔法の知識は重要だから、試験は気合入れたわ!」


「カトレアさん、今日もその動機で」


「それの何が悪いの!」


「ギャハハ!」


 みんなが笑う。


「みんな、お疲れ様でした!」


 ゴウタが大声で叫ぶ。


「おおー!」


「セラ、ありがとう!」


「先生、本当にありがとう!」


「先生じゃないって」


「でも、先生だよ。教えてくれたから、みんな頑張れた」


「……分かった。みんなが頑張ってくれて、私もうれしいよ」


「にゃ〜、セラ先生、最高だにゃ〜」


「ミナも、みんなも、頑張ったよね」


 セラはクラスのみんなを見渡す。勉強会を始めた時、みんなは不安そうだった。でも今は自信に満ちた顔をしている。


 ゴウタ、アリア、ミナ、サクラさん、ライル。それぞれが、それぞれの方法で戦った三日間。


「みんな、お疲れ様。三日間、本当に頑張った。結果は分からないけど、俺はみんなが誇りに思うよ」


「セラ……」


「えー、泣きそうになるじゃないか」


「でも、嬉しいんだもん」


 ゴウタが目を拭いている。


「はいはい、今夜は楽しみましょう!」


「そうだ! 食堂で祝いよう!」


「セラの食堂無料パス、使えるよね?」


「ああ、いつでも」


「じゃあ、今夜使おう!」


「賛成!」


「セラ先生、奢り?」


「奢りだよ」


「おおー! 最高!」


 クラス中が歓声を上げる。


 食堂は賑わいを見せていた。試験終了の解放感に包まれ、至る所で笑顔と歓声が上がっている。


「乾杯!」


「乾杯!」


「お疲れ様でした!」


 セラはクラスのみんなと杯を交わす。


「みんな、本当にありがとう。三日間、俺も楽しかった」


「セラ先生、来年もよろしくね!」


「来年は教える側じゃなくて、みんなと一緒に受ける側だから」


「えー、でもまた勉強会してよ」


「それはやってもいいけど」


 一年A組の笑い声が食堂に響いた。


 セラはその中にいて、胸が温かくなる。


 (今この瞬間に、ここにある温かさ。それが何より確かなもの)


 カトレアがワイングラスを掲げた。


「ギャハハ! 借金返済への道のりは長いけど、今夜くらいは楽しもうじゃないか! セラ先生、今日は本当にありがとうございました!」


「だから先生は……」


「うるさい先生!」


「カトレアさんはどうして俺を先生と呼ぶのをやめないんだ」


「なぜなら、セラが本当に先生みたいだったから!」


 カトレアがドヤ顔で言った。周りが笑う。


 夜が更けてきた。


「そろそろ解散にするか」


 セラが立ち上がると、クラスのみんなが立ち上がった。


「また明日から普通の学園生活が始まるね」


「定期試験、もう二度とやりたくない」


「毎学期あるんだけどね」


「うわ、聞かなかったことにする!」


 ゴウタがずっこける。


「また一緒に勉強会やろう」


「やる! 次回も先生よろしく!」


「だから先生じゃないって!」


 笑いが収まらないまま、食堂を後にした。


 夜の廊下は静かだった。


 アリアと二人で歩きながら、セラは思った。三日間の試験は大変だったが、確かにこの三日間を通じて、何か大切なものを得た気がする。知識だけじゃない。クラスのみんなとの絆が、また少し深まった。


「えへへ、楽しかったね」


「うん、楽しかった」


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