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神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


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第85話 女装コンテストの話

# 第85話 女装コンテストの話


## 目玉イベント


 朝の魔法学園は、いつもと違う熱気を帯びていた。


 セラがアリアと一緒に中庭を横切ろうとしたとき、生徒たちが何かを待つように集まっている様子が見えた。人だかりの中央では、生徒会の役員たちが何かを準備しているようだった。


「何かあるのかな」


「さあ。でも人が多いな」


(人が集まる場所には近づかない——のだが、アリアに引っ張られてるから仕方ない)


「皆さん、おはようございます! 朝から集まってもらってすみません!」


 生徒会役員の男子が、中庭の中央で声を張り上げた。落ち着いたトーンだが、中身は予想もしないものだった。


「来月の学園祭に向けて、生徒会から提案する目玉イベントがあります!」


 ざわめきが広がる。


「えっ、何だろう」


「お楽しみ会かな」


「対抗戦?」


 生徒会役員が掲示板の横に置かれた大きなパネルの覆いを外した。


「今年の学園祭の目玉イベントは……」


 パネルが現れた瞬間、中庭に一瞬の静寂が訪れた。そして、爆発的な笑いと驚きの声が同時に上がった。


『第〇回 エレガンス・コンテスト〜女装の美学〜』


「えっ」


 セラの口から自然と声が漏れた。


 女装コンテスト。文字通り、男子生徒が女装して美しさを競うコンテストだ。


(は? なんで今「女装コンテスト」なんだ。学園祭の目玉がこれかよ!?)


「女装コンテスト!?」


「マジで!?」


「うそ、本当にやるの!?」


 学生たちの反応は様々だ。笑う者、驚く者、興味津々で話し合う者。女子生徒の中には目を輝かせている者もいる。


「男子生徒の皆さん、ぜひ挑戦してください! 優勝賞品は……なんと、学費半年分免除と、食堂の無料パス一年間!」


 男子生徒たちの顔つきが一変した。学費半年分。食堂の無料パス一年間。


(学費半年分!? それは現実的にかなりデカい話だぞ)


「すごい賞品だね」


 アリアが隣で呟く。その表情には、戸惑いとどこか楽しそうな様子が混じっていた。


「半年分か……」


 セラが思わず呟く。


「素敵な賞品ですよね。でも、女装ですから。詳細はこの掲示板に載せてありますので、ぜひ確認してください」


 パネルには参加資格、審査基準、申し込み方法などが詳細に記されていた。審査基準には「美しさ」「衣装」「歩き方」「演技力」などが並んでいる。本格的だ。


「出る人いるのかな」


「いや、賞品見たら絶対出るでしょ」


「でも女装って恥ずかしいよな」


 男子生徒たちが話し合っている。一方、女子生徒たちはすでに興奮気味だ。


「誰が出るかなあ」


「あ、あの子なら似合いそう」


 女子生徒たちは男子生徒を品定めするように見ていた。


「セラも興味あるの」


 アリアがふと小声で聞いてきた。その瞳に無邪気な好奇心と、どこか期待のようなものが宿っている。


「えっ、いや、俺は」


「でも、賞品はすごいよ。カトレアさんなら絶対に興味あると思うな」


「カトレアさんは……女子だけど」


「ああ、そうだった。カトレアさんはドワーフだもんね」


 セラは周囲を見渡した。ゴウタは顔を真っ赤にして地面を見ていた。レンは冷静な表情を保っているが、眉をわずかにひそめている。


「それにね、セラ」


 アリアがさらに小声で続けた。


「エルフは、もともと美しい種族だよね。セラなら、きっと綺麗だと思うよ」


「アリア……」


(無邪気に言ってるのが余計怖い)


「応援するね。もし出るなら」


「……出ないって」


 セラははっきりと言い放った。でも心のどこかで、このコンテストが学園生活に大きな波紋を呼ぶ予感がしていた。


(嫌な予感がする。こういう状況が積み重なってきた経験が告げている——これは厄介なことになるぞ、と)


## 詳細説明


 掲示板の前には多くの学生が集まっていた。アリアがセラの手を引いて、パネルの方へ歩き出した。


「えっ、行くの」


「行くよ。面白そうだし」


(なんで俺まで行くことになってるんだ)


 パネルの前には本格的な詳細が書かれていた。


「参加資格は……在学中の男子生徒。年齢問わず。種族問わず」


 アリアが読み上げる。


「種族問わず、か。エルフも出られるってことだね」


「そうだね。セラも出られるよ」


「出ないって」


「どうして? 賞品すごいじゃない」


「俺が女装するから」


「美しいセラが女装したら、きっと最強だよ」


「その発想が怖い」


「えへへ。面白そうだなって思っただけ。強制はしないけど」


(アリアの「強制はしない」、これは強制する前振りだ。たぶん)


「審査に魔法は使えるのかな」


「えっ、気になってるの?」


「ちょっとだけ。ちょっとだけよ」


「賞品……優勝は学費半年分と食堂無料パス一年間。準優勝は学費四半期分と食堂パス半年間。参加賞は記念の盾」


「参加賞だけでもいいかな」


「セラ!」


 アリアが笑う。その笑顔は悪戯っぽく、同時にどこか期待を含んでいた。


「審査基準は……衣装の美しさ、歩き方の優雅さ、演技力、そして観客の反応」


「演技力って、何を演技するんだろう」


「ステージでウォーキングして、質問に答えるらしいよ。女性役になりきって、優雅に振る舞うんだって」


「無理だな。絶対に」


(ウォーキング!? 質問!? これミスコンの男版だぞ!)


「衣装は生徒会で用意してくれるって。だから何も持っていかなくていいの」


「それはまあ……」


(衣装の心配がないのは確かに助かるが、それでも女装のハードルはまったく下がらない)


 パネルの横には申し込み用紙も置かれていた。二年生と三年生から、すでに何人かの名前が書かれていた。


「一年生からはまだ誰も……」


「まだ朝だから、これからかもね」


 その時、後ろから声がかかった。


「お前、出るつもりか?」


 振り返ると、ライルがニヤニヤしながら立っていた。


「ないよ。絶対にない」


「そっか。でもね、エルフは美しいから、セラが優勝する確率は高いと思うよ」


「お前、誰に出させる気だ」


「冗談冗談。でも、クラス対抗で盛り上がるかもね」


(盛り上がる前に俺の心情が死ぬ)


## クラスの話題


 教室に戻ると、予想通り話題は一つだった。


「女装コンテスト見たか!?」


「見た見た。マジでやるらしいよ!」


「誰が出るんだろう。一年A組から——」


「賞品すごいよ。学費半年分だぜ!」


 ゴウタとアズマを中心に、男子勢が熱く語り合っている。セラはその様子を眺めながら、静かに席についた。


「ゴウタ、出るつもりか」


「いやいや、俺は無理だって。筋肉だらけだし」


「でも、ゴウタなら筋肉ダルマみたいで面白いかもよ」


「お前、褒めてんのかけしてんのか!」


(ゴウタのドレス姿を想像したら確かにシュールだな。でも、あれほどの体格と胆力があれば、笑いを取る作戦で行ける気もする)


「ゴウタ、本当に出ないの?」


「出ないって! 俺には無理だ! でも、誰か出てくれたら全力で応援するぞ!」


「その応援、俺に向けてくれよ」


(ってなんで俺が!? 自分でフラグを建てた)


「おっ、セラが出るのか!?」


「ち、違う。そうは言ってない」


「でも、セラが言い出したじゃん」


「言ってないから!」


 ゴウタがニヤニヤしながら言う。周囲の男子たちも笑っている。


(また話が妙な方向に向いてる。「誰かやりますか」「まあやりますよ」でいつも俺が引き受けてた悪癖——転生しても治ってない)


「レンはどう」


「俺は……考えてみるけど、たぶん出ないと思う」


「レンくんなら和服が似合いそうだね」


 女子生徒の一人が言うと、クラス中が頷いた。


「確かに。レンくんは和服の雰囲気あるもんね」


 そして——視線がセラに向いた。ゆっくりと。全員から一斉に。


「セラはどうだ」


(来た)


「俺は……出ないよ」


 セラは即答した。でも、クラスメイトたちは納得していないようだった。


「でも、セラはエルフだし、美しいから優勝するよ」


「そうそう。耳が出る衣装とか似合いそう」


「優勝したら学費半年分だよ。すごい金額だよ」


「セラ、出てよー。面白いじゃん」


 女子生徒たちが口々に言う。その瞳は期待に満ちていた。


(なんで全員こっちを見てるんだ。会議で議事録担当に指名される瞬間と同じ空気だぞ!)


「本当に、俺は出ないから」


「えー、つまんないの」


「でもね、セラが出るなら全力で応援するよ」


「衣装選びも手伝うよ」


「メイクも私がやる!」


(待って待って。衣装・メイク・応援——もう出場前提で話が進んでないか!?)


「アリアまで……」


「だって、面白いじゃん。セラがステージで歩く姿、見てみたいな」


「女装して」


「そう。女装して。エルフの美しさを、女子の衣装で最大限に引き出すとか、芸術的だよ」


「芸術的って、そんな大げさな」


「だって、セラは美しいもん」


(アリアがそう断言するのが余計つらい。根拠があるだけに反論できない)


 話題がしばらく続いて、ふと途切れた。教室の空気が少し変わる。別の話題が誰かの口から飛び出した。


「そういえば、今日の登校のとき——正門の外に、変な旅人がいたよ」


「変な旅人?」


「ちょっと離れたとこに立ってた。外套が黒くて、なんか……普通じゃない感じの人。見た目が特徴的で、でも何もしてなかったからそのままにしといたんだけど」


「旅人の行商人とか?」


「分からない。荷物は持ってた。でも商人っぽくもなくて——なんか、隣国の人みたいな雰囲気があった。魔族の領域から来る行商人って、たまに来るじゃない。ああいう感じ」


「へぇ。何か売ってたの?」


「いや、ただ立ってただけ。学園の方を見てる感じがして、なんか気になったから覚えてた」


 誰かが続けた。


「気味悪いな。先生に言った方がよくない?」


「たぶん普通の旅人だよ。最近、他の学校も視察に来てるって聞いたし」


 話はそのまま学園祭の話題に戻っていった。


(魔族の領域から来た行商人。最近、この辺にも色んな人が来るんだな)


 セラはさほど深く考えなかった。珍しい話ではある。でも、今の状況では女装コンテストの方がずっと切実だ。


## 推薦


 放課後、教室に残ったクラスメイトたちが、再びセラを囲んだ。完全に包囲網が形成されていた。


「セラ、本気で考えようよ」


「賞品もすごいし」


「学費半年分だよ」


「銀貨にすると、相当な金額だよ」


「セラが出るなら、みんなで応援団作るよ」


「横断幕も作る!」


「パネルも作る!」


「メイクも衣装も全部手伝う!」


(完全に出場を前提にした作戦会議が始まってる……)


「で、でも、女装って……」


「セラは美しいから大丈夫だよ」


「エルフの耳だって可愛いし」


「ドレス似合うよ」


「絶対優勝する!」


(……美形エルフに転生して、幼馴染は美少女で、魔法は最強。で、女装コンテストに推薦されると。なんか予想外の方向に話が進んでいる)


「みんな、そんなに言うなら……」


「出てくれるの」


「出るってことだ!」


「やったー!」


 クラスメイトたちが歓声を上げた。セラは、もう逃げられないことを悟った。


「検討します。絶対にやるとは言ってないけど、真剣に考える」


「それで十分だよ!」


「セラなら、きっといい決断をするよ!」


「期待してるね!」


 クラスメイトたちは満足そうに教室を出て行った。セラはアリアと二人、教室に残された。


## 決意


 寮に戻ると、カトレアが待っていた。


「お帰り。女装コンテストの話、聞いたよ」


 カトレアはニヤニヤしながら言った。


(カトレアまでか)


「ギャハハ! いやー、賞品すごいじゃん。学費半年分だよ? もしあなたが女子生徒だったら、間違いなく出てるね」


「俺は男子だし」


「でもね、セラ。あなたの美しさを活かすいいチャンスだよ。商人の視点から言うと、このコンテストはおいしい。優勝すれば学費半年分。さらに、人気者になれば色々なチャンスが生まれる。ファンクラブができるし、商品のモデルにもなれる」


「商品のモデル?」


「エルフの美容器具とか、魔法のスキル習得教材とか。あなたの顔が売れれば、色々と儲かるよ。ギャハハ!」


「カトレアは商才があるな……」


「ドワーフは職人気質と商人気質の両方を持つ民族だ! 物を作って、売って、また作る。その繰り返しだよ!」


「尊敬するな」


「ギャハハ! 褒めてくれるのは嬉しいが、尊敬じゃなくて借金さえ返してくれたらもっと嬉しい!」


「カトレアの返答、いつも借金に収束するな」


「大事なんだもん! 当たり前でしょ!」


(カトレアの一貫性、ある意味尊い)


「当然でしょ。借金返済のために常に考えてるんだから。私はセラが出るなら、全力で応援するよ。衣装選びも、メイクも、ウォーキングの指導も全部するから」


「そこまでやるのかよ」


「だって、優勝すればみんながハッピーだもん。セラは学費免除、学園は盛り上がる、応援団も楽しむ。win-win-winだよ、ギャハハ!」


(カトレアの笑い声が豪快すぎて、この状況の深刻さが薄まってる……)


「まあ、検討中だよ」


「うん、期待してるね」


 夜、寮の部屋でセラは一人、考え込んでいた。窓の外には月明かりが差し込み、部屋を淡く照らしていた。


「女装コンテスト」


 セラは鏡を見る。金髪。尖った耳。整った顔立ち。スラリとした体格。


(本当に……女装しても似合うのか、俺)


 鏡に触れてみた。滑らかな肌、繊細な骨格。


(……ってなんで試してるんだ俺は)


「賞品は魅力的だけど……」


 学費半年分。でも問題は金じゃなくて、ステージで女装姿を晒すことだ。クエストの報酬だって、稼ぎ続けるのは大変だ。


「みんな、期待してるんだよな」


 アリア、カトレア、クラスメイトたち。彼らはセラに出場してほしいと願っている。


(感動的な場面のはずなのだが、腹が減っている。人間の三大欲求には逆らえない。いや俺エルフだけど)


 セラはため息をついた。仰向けにベッドに倒れ込み、天井を見つめながら考えを巡らせた。


(整理しよう。メリット:学費半年分免除、食堂無料パス一年間、クラスメイトの期待に応える、アリアが喜ぶ。デメリット:女装でステージを歩く、観客に見られる、恥ずかしい)


(……デメリットの「恥ずかしい」って、要するに俺のプライドの問題だな。でもプライドよりアリアの笑顔の方が重い。これは計算するまでもない)


「恥ずかしい、か」


 声に出してみた。誰もいない部屋で独り言だ。


「恥ずかしかったことは山ほどある。プレゼンで言葉が詰まった。忘年会の余興で一人踊らされた」


(……忘年会の余興、今でもトラウマだ。あれに比べれば女装コンテストはまだマシだ——そういう問題でもないか。でも人前で恥をかいた先に何かがあることは、確かにある)


「学費半年分か」


 もう一度、数字を確認した。現実的だ。


「みんなが応援してくれるし」


 アリアの笑顔が思い浮かんだ。カトレアの豪快な笑い声も。クラスメイトたちの期待に満ちた視線も。


(こんなに、人に期待される経験は初めてに近い)


「出てやるか」


 呟いた。小さく、でも確かに。


「アリアは見たいって言ってたな」


 セラの脳裏に、アリアの笑顔が浮かんだ。彼女はセラの美しさを信じている。その信頼に応えるのも——。


「よし」


 セラは立ち上がった。決断を下したとき、胸の奥に何かが固まっていくのを感じた。


「出ることにする」


 カッコよく決めたつもりだったが、よく考えたら一人で独り言を言っているだけだった。台無しだ。


 でも、気持ちは固まっていた。


 翌朝、セラはアリアと朝食をとりながら、決断を告げた。


「アリア、出ることにしたよ」


「やった!」


 アリアは目を輝かせた。


「やっぱり出るんだね! 私、信じてたよ!」


「期待に応える形になっちゃったけど」


「セラが出るなら、私も全力でサポートするね! 衣装選び、メイク、ヘアセット、全部手伝うから!」


「全部頼りにしてるよ」


(いや待って。ヘアセット、メイク……そんな経験は一切ない)


「セラ、絶対に似合うよ。エルフの美しさ、存分に発揮してね」


「うん……まあ、やるからには優勝目指す」


「そうそう! それがセラらしいよ」


 教室に入ると、クラスメイトたちがセラを待っていた。


「セラ、決めたの?」


「うん、出ることにしたよ」


 セラが言うと、クラスメイトたちから歓声が上がった。


「やったー!」


「やっぱりセラだ!」


「優勝するよ!」


「応援する!」


「衣装選び手伝う!」


(この歓声……正直なところ、嬉しい。転生後にこんな形で受けるとは思わなかったけど)


 昼休み、セラは生徒会室へ行き、申し込み用紙に名前を書いた。


「出ます。一年A組、セラ・ウィスパーウィンド」


 手が震えた。ちょっとだけ。


 生徒会役員が確認した後、大きな声で読み上げた。


「エルフの出場者だ!」


「これは期待できるぞ!」


「一年A組、がんばれ!」


(……俺、本当に出るんだな)


 申し込みを終えて、廊下に出た瞬間——ミサトとすれ違った。


「あんた、出るの?」


「っ……出ます」


「ふーん。勇気あるじゃない」


 ミサトが小さく笑った。


「エルフが女装したら、そりゃ美しいわよ。期待してる」


「ミサトさんって、地味に追い打ちが上手いですよね」


「事実を言っただけよ。頑張りなさい」


 ミサトは颯爽と去っていった。その背中を見送りながら、セラは一人呟く。


「ミサトに「頑張りなさい」って言われるとは思わなかった」


(厳しい人間に「頑張れ」と言われると、不思議と力が出る。認めてもらえた、という感覚がある。今日のこれは、それだ)


「頑張ります。一応」


 生徒会室を出ると、アリアがセラの手を握った。その手は温かく、力強かった。


「セラ、頑張ろう」


「うん。頑張るよ」


 セラはアリアの手を握り返した。


 学園祭当日まで、あと数日。女装コンテスト。絶対に経験するとは思っていなかった挑戦が——。


(……こうして、俺は自分の意志でドレスを着る道を選んだ。冒険者として、魔法学園生として、エルフとして、そして今度は——コンテスト出場者として)


 まあ、人生は不思議なものだ。


 セラ・ウィスパーウィンドの女装コンテストへの挑戦が、ここから始まろうとしていた。


 夜、また一人で天井を見つめた。


「なんで女装コンテストに出ることにしてしまったんだ」


 後悔ではない。ただの確認だ。


「賞品のためだ。クラスメイトの期待のためだ。アリアが見たいと言ったからだ」


 理由は整然と並べられる。でも、どれが本当の動機なのかは自分でもよくわからない。


(でも、面白そうだという気持ちも、少しはある)


 認めたくないが、認めた。ちょっとだけ、ワクワクしていた。


「エルフとして転生して、魔法学園に通って、冒険者になって、女装コンテストに出場する」


 並べてみると、自分の転生後の人生はなかなかカオスだ。


「まあ……いいか」


 セラは目を閉じた。


(転生ってこういうものだろう。計画通りにならないから、面白い。あるのは仲間と、今この瞬間だけだ)


「よし、本気でやる」


 独り言ちて、セラはゆっくりと目を閉じた。窓の外では、王都の夜が静かに続いていた。


 学園祭まで、あと数日。その数日で、セラは「賢者」と「女装コンテスト出場者」という二つの顔を磨くことになる。こんなに多様な役割を果たすことになるとは思ってもいなかった。


 でも——今は、それが楽しかった。


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