表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に楽しめと言われた。楽しみすぎて、神を超えた。  作者: issoh


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
82/92

第82話 ミサトとの再会

# 第82話 ミサトとの再会


## 特別講義の話


 朝の教室は、いつもよりざわついていた。


 セラはアリアの隣で昨日の宿題を確認していた。アリアが問題の解き方を聞いてきて、セラが答える。この流れ、毎朝のルーティンだ。後輩の面倒を見る先輩みたいなものだが、俺には後輩なんていなかったので新鮮と言えば新鮮だ。


「ねえ、この問題ってこう解くんだよね?」


「うん、そうだよ。アリア、ちゃんと理解してるね」


「えへへ、セラが教えてくれたから」


 アリアが嬉しそうに微笑んだ——その瞬間、教室の前扉が勢いよく開いた。


 担任のリナ先生だ。いつもと違って、顔に興奮の色が浮かんでいる。「上からいい話が来た」時の部長の顔に似ている。でも部長がいい話を持ってきた後は、大抵しんどい仕事が増えたんだよな。


「皆さん、注意してください」


 教室が静まり返った。リナ先生は黒板に白墨で大きく書く。


『特別講義』


「今日の午後から、全学年合同の特別講義が行われます」


「え、特別講義ですか?」


 ゴウタが手を挙げて質問した。


「そうよ。今回は王宮近衛騎士団の方々に来ていただいて、実戦的な魔法と剣術の連携について講義していただけるの」


「王宮近衛騎士団!?」


 教室中から驚きの声が上がった。


(王宮近衛騎士団……)


 その言葉で、セラの背筋を何かが走った。嫌な予感。いや、嫌というより——覚えのある予感。月曜朝の会議で「今日は本社から偉い人が来ます」と言われた時のあれだ。ドキドキというより、心臓が重くなる感じ。


「講師は近衛騎士団の団長代理です。王宮直属の騎士団で、数々の難事件を解決してきた実力者よ。特に魔物討伐や治安維持の面で大きな功績を残されている方です」


「すごい、近衛騎士団の団長代理」


「どんな人なんだろう」


「直接話が聞けるなんてチャンスだね」


 クラスメイトたちが色めき立つ中、セラの心臓だけが別のリズムを刻んでいた。


(団長代理……)


 近衛騎士団の団長代理。街道で出会ったあの女騎士——ミサト——は確か近衛騎士団所属だった。まさかのまさかだ。いや、王都はそんなに狭くない。偶然などあり得ない。偶然などあり得——。


(……嫌な予感が止まらない)


「場所は大講義室、時間は午後二時から。欠席は認められませんから、皆さんしっかり聞いてくるようにしてくださいね」


「はーい!」


 全員で返事をした後、セラだけが黒板の「特別講義」という文字を見つめていた。文字が消えない。消えてくれない。


「ねえ、セラ。何か心配そうな顔してるよ?」


 アリアが覗き込んでくる。


「えっ、いや、別に。ただ、どんな人が来るかなって思って」


「たぶん、すごくかっこいい人が来るんだと思うなあ」


「そうだといいんだが……」


(俺の嫌な予感が外れることを祈る。外れてくれ。頼む)


## 大講義室へ


 大講義室は学園で最も広い部屋だ。今日は全学年の学生が押し寄せ、定員三百人に迫る勢いだった。廊下まで熱気が漏れてくる。


(……コンサート会場の雰囲気だ。あの時も席確保が戦争だったな)


「早く席を取らないと」


 アリアがセラの手を引いて大講義室へ急いだ。ミナも一緒に走る。三人でなんとか中央より少し後ろ、壇上がよく見える席に滑り込んだ。


「ふう、間に合ってよかった」


 アリアが息を整えながら隣に座る。セラは周囲を見渡した。ゴウタやアズマも近くに座っている。全員が興奮気味に壇上を見つめていた。


「王宮近衛騎士団といえば、鉄の女と呼ばれている団長がいるんだって」


 アズマが知識を披露し始めた。


「鉄の女?」


「数年前にSランクのクエストを単独でクリアしたことで有名なんだ。魔物討伐から治安維持まで手広く活動してるらしい」


「すごいね」


 アリアが感心したように呟く。


(まずい。まずいまずいまずい)


 セラの胸に再び嫌な予感が走った。


 鉄の女。Sランクのクエストを単独でクリア。


(あの女騎士の特徴と完全に一致している)


「でも、今日来るのは団長代理だから、団長本人じゃないよね」


 ミナが一安心したように笑う。


「……たぶんね」


 セラは自分自身にそう言い聞かせようとした。でも、胸の奥で「やっぱり」という声がさらに強くなっていた。


 大講義室の熱気は、時間が経つにつれてさらに高まっていった。


「そろそろ始まるかな」


 アリアが壇上の時計を見て呟く。


 午後二時五分前。大講義室の扉が開き、教師たちが入ってきて整列し始めた。


(深呼吸。大丈夫だ。まさかあの女騎士がここに来るはずがない。世界は広い。王都は広い。偶然なんてないんだ)


 ——壇上の脇から、一人の人物が現れた。


## 講師登場


 大講義室の空気が一変した。


 銀色の鎧に身を包んだ一人の女性騎士。長い黒髪が鎧の上で流れ、鋭い目つきが会場全体を見渡している。胸には王国の紋章、腰には立派な剣。その姿は威厳と強さを兼ね備え、見る者に圧倒的な存在感を放っている。


「嘘だろ……」


 セラの口から、無意識に言葉が漏れた。


「え、セラ、どうしたの?」


 アリアが心配そうに顔を覗き込んでくるが、セラには声にならない。


(あの女騎士だ。来た。本当に来た。あの節穴騎士がこの学園の講義に!)


 街道で出会った。冒険者ギルドで顔を合わせた。あの性格の悪い女騎士——ミサトだ。


「王宮近衛騎士団団長代理、ミサト・ヴァン・クロイツェルフィト様です」


 司会の教師がマイクで紹介する。


 拍手が爆発した。数百人の生徒が一斉に拍手を送り、大講義室が沸き立つ。


 セラだけが拍手する余裕もなく、席に縮こまっていた。


(あの節穴騎士が……なんでここに!? 王都はそんなに狭かったのか!?)


「えっ、ミサト……ですか?」


 アリアがセラの反応に驚いている様子だった。


「アリア、静かにしてくれ……」


「え、知り合い?」


「後で話す。頼む」


## 講義中の視線


 ミサトが壇上に立つと、大講義室は静まり返った。その存在感だけで、数百人を黙らせる。部署全体をビビらせる取締役みたいな雰囲気だ。


「まずは、王宮近衛騎士団について簡単に説明させていただきます」


 低くて力強い、でもどこか冷たい響きを持つ声。マイクを通して大講義室全体に響き渡る。


「近衛騎士団は王室の護衛だけでなく、王国内の治安維持、魔物討伐、難事件の解決など、幅広い任務をこなしています」


(……いや待て。これ俺、もし目が合ったらどうするんだ)


「ねえ、セラ。どうしたの?」


 アリアが小声で聞いてくる。


「いや、なんでもない」


「顔が青いよ?」


「……日当たりが悪いだけだよ」


「そんな訳ないじゃん、ここ明るいし」


「アリア、今は黙っていてくれ」


「え、なんで!?」


(頼む。今だけは静かにしてくれ。見つかったら全部終わる。コンビニで偶然会いたくない取引先の人間を見かけた時に、棚の後ろにそっと隠れるあの感覚だ)


 セラは必死に自分の机の一点を凝視していた。ミサトの視線が、定期的に会場全体を巡っている。その鋭い目つきが、まるで獲物を探す鷹のように大講義室を走査している。


「今日は、実戦でどのように魔法と剣術を連携させるか、実際の経験を交えて話したいと思います」


 ミサトが黒板に「連携」と書く。


「魔法使いと戦士が連携する場合、最も重要なのは何だと思いますか?」


「魔力の量?」


「詠唱の速さ?」


「仲間との信頼?」


「正解。すべて正解です。でも、最も重要なのは『状況判断』です」


 ミサトの話は理路整然として、非常にわかりやすい。生徒たちは熱心にメモを取っている。


(……講義自体はまともなんだよな。あの節穴騎士が、こんな立派な講義をするなんて。俺の元上司より話し方が上手いぞ)


 皮肉な感情が渦巻いていた。でも内容は確かにためになる。街道で出会った時の威圧感とは違う、指導者としての貫禄がある。


「例えば、ゴブリンの群れが出現した場合を考えてみましょう。ゴブリンは知能が低く、数で攻めてきます。魔法使いは広範囲攻撃で牽制し、戦士は前衛で防戦。これが基本です」


「へえ、なるほど」


 アズマが納得したように頷いている。


「しかし、ホブゴブリンが混ざっている場合はどうでしょう? ホブゴブリンは知能が高く、魔法を打ち返すことができます。この場合、戦士が挑発でホブゴブリンの注意を引き、魔法使いが集中攻撃で各個撃破。連携が鍵になります」


「プロかよ……」


 ゴウタが感嘆の声を漏らす。


 ミサトの視線が、またセラの方向に近づく。背筋に冷たいものが走る。


「情報共有。これが最も軽視されがちですが、最も重要です。発見した敵、罠の位置、自分の魔力残量。これらすべてをパーティーメンバーと共有することで、初めて連携が成立します」


 ミサトの言葉は重みを持っていた。セラはゴクリと喉を鳴らした。街道で出会った時のことを思い出す。


「質問があります」


 アズマが手を上げた。


「はい」


「近衛騎士団は、実際にどんな種類の魔物と戦うことが多いですか?」


「ゴブリン、ホブゴブリン、トロール。一般的なものが多いですね。ただ、王都近郊では最近、上位魔物の目撃が増えています。オーガ・ロード以上の個体も確認されています」


(オーガ・ロード。あのダンジョンで見た奴と同種か)


「それは危険ですね」


「そうです。だからこそ、次世代の魔法使いたちに適切な訓練を受けてほしい。この学園もその一翼を担っています」


 ミサトが会場を見渡す。その視線が、ゆっくりとセラの方向に向いた。


(来る、来る、来る——)


 セラは反射的に下を向いた。机の上の手帳を凝視した。


(バレたか。バレてないか。どっちだ)


 しばらく沈黙が続き、ミサトの視線が別の方向に移ったのを感じた。全身の緊張がわずかに和らぐ。


(助かった……たぶん)


「力を隠していると判断が遅れます。自分の実力を正直に周囲に伝え、適切な役割を果たす。これが生き残るための近道です」


(……それ、絶対に俺に向けて言ってる)


 セラの心臓が跳ね上がった。講義の内容が、妙に自分の状況を的確に突いてくる。力を隠している。自分の実力を正直に伝える。まるで自分のことを見透かしているかのようだ。


「本日はありがとうございました」


 ミサトが深くお辞儀をすると、大講義室に盛大な拍手が沸き起こった。


 セラはその拍手に参加する余裕がなかった。


## 講義後の再会


 講義が終わると、大講義室から続々と学生たちが退出し始めた。


「すごかったね、団長代理」


「ドラゴンを一人で倒したなんて、本当にすごい人だね」


 クラスメイトたちが興奮して話し合う中、セラには一つの思念だけが渦巻いていた。


(逃げる。今すぐここを離れる)


「ねえ、セラ。食堂に行こうか?」


「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる。先に行ってて」


「え、そう? 大丈夫?」


「うん、大丈夫。すぐ戻る」


 アリアを残して、セラは大講義室を後にした。廊下に出て、学園の裏庭へと足を向ける。人気が少ない静かな場所だ。ベンチに座り、深呼吸をした。


「あの節穴騎士、なんでここに……」


 膝に顔を埋めた。街道で出会った時は、ただの威圧的な女騎士だと思っていた。でも今日の講義で、彼女が近衛騎士団の団長代理であることが分かった。


(居酒屋で上司の悪口を言ってたら、翌日その人が上司になってたみたいな話だ。いや、それより絶望的かもしれない)


「セラ」


 後ろから声がかかり、セラはビクリと肩を跳ねさせた。


「び、ビックリするなよ、アリア」


 振り返ると、アリアが心配そうな表情で立っていた。


「どうしたの? ずっと探してたよ」


「ごめん、ちょっと頭を冷やしてて」


「セラ、何か隠してるよね?」


「いや、隠してなんかないよ」


「嘘。セラのことだから、何かあるんじゃない?」


 アリアの鋭い勘に、セラは言葉を詰まらせた。


「……実は、あの団長代理、街道で出会ったことあるんだ」


「えっ、本当?」


「うん。東の街道で警護クエストを受けてた時。その時に会った」


「あの、性格が悪いって話の女騎士さん?」


(アリア、知ってたんかい)


「そうだよ。威圧的で、エルフを見下すような態度を取る女騎士」


「そうか。じゃあ、今日の講義、怖かったね」


「怖かった。見つめられてた気がするし」


「セラ」


 アリアがセラの手を握った。


「大丈夫よ。私がついてるから」


 その言葉に、セラの心が少しだけ救われた。


「ありがとう、アリア」


「うん。二人なら大丈夫」


「……ミサトって、強いね」


 アリアがセラの隣で言った。


「うん。すごい女騎士だよ。魔力も、技術も」


 アリアは少し黙った。


「私は、魔力を安定させる役割でしかないかな」


「え?」


「なんでもない。忘れて」


(本当は言いたかった——私はセラの魔力のためだけじゃない、って。でも、それを確かめる勇気が、まだなかった)


 ——その時、裏庭の入り口から足音が近づいてきた。


「おや、ここにいたんですね」


 冷ややかな声。


 二人の体が凍りついた。


(……嫌な予感が当たった。当たってしまった)


 振り返ると、銀色の鎧に身を包んだ女性が立っていた。


「ま、ミサトさん……」


「セラ・ウィスパーウィンドさん。転生エルフの方ですね」


 ミサトがゆっくりと近づいてくる。足音は静かだが、確実に威圧感を伴っている。


「あ、あの、団長代理。講義、ありがとうございました」


(なんでこんな丁寧な口調になってるんだ俺は。緊張するな)


「講義はそれほどでもありません。重要なのは別のことです」


 ミサトがセラの目をじっと見つめた。


「街道で会いましたね」


「は、はい。東の街道で」


「あなたたちのパーティーは、当時Fランクだった。それが今は魔法学園の特例クラスにいる」


(全部把握してた。記憶力、化け物かよ)


「色々あって……」


「聞いていません」


 は?


「聞いていないと言ったのです。あなたの事情は、私の管轄外です」


(じゃあなぜここに来た)


「あの時、あなたたちは奇妙な光を見ました。そして、古代エルフの文字を読みました」


(全部覚えてたのか……)


「あなたの魔法、異常なほど強力ですね。平均の五倍以上だと聞きました」


「あ、あの、それは……」


「力を隠していますね」


 断定だった。セラは言葉を失った。


(見抜いてた。さすが鉄の女と呼ばれるだけある。でも見抜いてほしくなかった……)


「近衛騎士団は王国内の異常事態を監視しています。強力な魔力を持つ人物は、必ず記録されています」


 ミサトはさらに近づいてきた。


「あなたは危険な存在です。あるいは、有用な存在か。まだ判断しかねています」


(危険!? 有用!? どっちにせよ物扱いだぞ)


「でも、今日は講義だったので。深入りはしません」


 ミサトは一歩引いた。


「ただし、学園でのあなたの行動は、私が把握しています。何か問題があれば、私が対処します」


「は、はい。わかりました」


 セラは頷くことしかできなかった。


「それと」


 ミサトはアリアを見た。


「あなたがセラ・ウィスパーウィンドさんの魔力を安定させている。興味深いですね」


「……はい」


「二人の関係性にも、注目しておきましょう」


 ミサトは会釈して、去っていった。銀色の鎧が夕日を跳ね返しながら遠ざかっていく。その背中は、威厳と孤独を漂わせていた。


「……怖かった」


 セラがようやく息を吐き出した。


「でも、大丈夫だったね」


「そうだね。深入りはしないって言ってたから……」


(厳しい上司でも、ここまで圧迫面接みたいな空気はなかったぞ。あの人はただ怒鳴るだけだったけど、ミサトは静かなのが余計怖い)


「あの節穴騎士、性格悪いけど実力はあるんだよな……」


 セラが苦笑いすると、アリアも笑った。


「ねえ、セラ。これから学園で彼女と会うかもしれないね」


「セラ、気にしすぎだよ。もし会ったら、堂々としてればいいじゃない」


「堂々としてるのは無理だよ。あの威圧感に圧倒されちゃう」


「でも、私がいるから」


「……うん。それが一番の心強さだ」


 二人は手を握り合った。夕日が二人の影を長く伸ばし、裏庭を黄金色に染めていく。


「ねえ、セラ。食堂に行こうよ。お腹空いたし」


「いいよ。今日は特別メニューがあるかもね」


(飯食えば元気出る。これは転生しても変わらない真理だ。ミサトに監視されてても、飯だけは奪えない)


 食堂に向かう途中、廊下でカトレアと合流した。


「おう、二人とも! 今日の講義どうだった!?」


「すごかったよ。ミサトさんって知ってる?」


「知ってる! 近衛騎士団の団長代理だろ! 武勇伝がギルドに山ほどある! Sランク魔物を単独で——って、セラ? 顔色おかしくない?」


「……街道で会ったことある人なんだよ」


「は? マジで?」


「マジで」


「セラ、そんな人と知り合いなのか!?」


「知り合いというか、向こうが俺を覚えてただけで……」


「でも会って話したんでしょ?」


「……話した。後で裏庭で捕まって」


「ギャハハ! 捕まった!?」


「声が大きい」


「ごめん! でもそれすごくない? 近衛騎士団の団長代理に目をつけられたってことじゃん」


「目をつけられたって表現、やめてくれ」


「監視されてるのは事実だけどね」


 アリアが静かに言った。


「俺の幼馴染がそれを言うのか……」


「事実だから」


「その通りなんだが……」


 三人で食堂の席に落ち着いた。今日の特別メニューはポトフだった。あつあつのスープが、今の心境には有難い。


「あの人、なんで魔法学園に来たと思う?」


 カトレアが真剣な顔で言った。


「講義だよ。正式な依頼で来た」


「でも、わざわざ来る理由がもう一個あったわけだ。セラの様子を確認しに」


「……そうかもしれない」


「つまり、セラは前から注目されてたってこと。それって、危険でもあるし、チャンスでもある」


(カトレア、意外と鋭い。借金の話しかしない人のセリフじゃないぞ)


「チャンスって、どういう意味?」


「近衛騎士団に認知されてるってことは、将来的に仕事の依頼が来るかもしれないってこと。高難度のクエスト。高報酬の仕事。借金返済が一気に——」


「カトレア、借金の話に収束するの早い」


「大事なんだもん! でも、今は冗談じゃなくてマジで言ってる。ミサトさんに信頼されれば、それは大きな資産だよ。怖い人だけど、実力は本物だし」


(カトレアの分析、案外正しい。怖い上司に認められた部下は大きな仕事を任されていた)


「そうだな……。今は怖いけど、将来的には……考えてみる価値があるかもしれない」


「それでいい! ギャハハ!」


「ポトフ、食べながら話そうよ。冷める」


 アリアが二人に促す。三人でスープを飲んだ。あつくて、優しい味だった。


「今日は色々あったな」


「そうだな。でも、最終的に飯が美味ければいい」


(それが俺の結論だ。飯が美味ければ、とりあえず今日はよかった)


 二人は楽しそうに話しながら、食堂で夕食を続けた。裏庭には夕闇が広がり、学園の一日が終わろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ